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車いすの彼 × 幼馴染の彼女
Side彼女
「別れよう」
ジェシーの口からそんな言葉が飛び出てきたのは、ついさっきのことだった。
会いたい、と彼から言ってきたからいつものカフェで待ち合わせをした。
てっきりプロポーズだと思っていた。でも彼の表情は暗かった。
私は必死に涙をこらえようと唇を嚙んでいる。その様子を見ているのか見ていないのか、明後日のほうを向きながら、
「俺といたっていいことないよ。仲は良いけど、一緒にいるってなると負担かけちゃうし。君は…健常者とのほうがいい」
首を振って、言葉を絞り出す。
「違う……そんなことない」
声がかすれた。
「私…、ジェスじゃなきゃ嫌。ほかの人がいいなんて一回も思ったことない。お世話するのも苦じゃないし、むしろ好きでやってる」
そっか、と虚しい笑みを見せた。「ありがと」
こんな彼は見たことがない。そんな悲しそうな瞳は見たくない。
いつも笑わせてくれていた。得意のギャグで笑いの絶えない時間が溢れていた。
なのに今日は全く楽しくない。なぜ、どうして。
「……ごめんね」
彼はそう言い残すと、伝票を持って車いすを漕いでいく。
引き止めたかったのに、動けなかった。
彼が飲んでいたブラックコーヒーみたいな苦い感情が、胸に重くのしかかる感覚があった。
そのカップは空っぽ。私のだけ、残っていた。
「はあ……」
家に帰ると、ずっしりとした徒労感が襲い掛かる。テレビをつけてみても、面白い番組はやっていなかった。
おもむろにスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
彼の番号を消そうとした。しかし指が動かない。
まだ残しておいて、会話することはなくてもせめてもの思い出になれば。彼のほうが消してきたら、それはそれでいいんだ。
ジェシーとは家が近く、同い年で小さい頃からずっと仲良しだった。
彼は幼い頃の病気で下半身麻痺になったらしく、私のいちばん古い記憶を辿っても車いすに乗っていた。
大学進学のときは一緒のタイミングで上京し、それからも何度も会っていた。
彼に恋愛感情を抱きはじめたのはその時くらいからだったかもしれないし、ずっと前だったからかもしれない。
もう友達としても終わりかな、と思った。
続く