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え…?没ってなんだっけ…??
やっぱ好きッ!!!!!!
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鉄の匂いと火薬の匂い、生暖かい液体がべっとりと身体についていた。
カチリとマウスホイールを動かし、外に居る残党を見つけた。
証拠類のファイルデータや書類もバッチリと保管されており、汚れないよう生身の身体の中に入れて、服で隠すようにした。
自分の身体も傷だらけで流血しているから、最低限汚れないように注意しなければいけない。
持ち運ぶ為だろうか、パソコンには小さなUSBメモリが刺されていた。簡潔に中を閲覧すればまあビンゴ、この組織に関する情報は勿論、以前奏斗が言っていた都合の悪い虫の情報まで入っていた。
即座にメモリのデータを保存してパソコンから抜き取り、接続部分をカバーで保護して口の中に放り込む。
飲み込まぬように頬袋に隠し、どこかで拾った大きめのシーツのような布で体を覆い隠した。
ここから逃げ出すと言う目的もあるが、身体中から血が出ている奴が外を歩いていれば大騒ぎになるだろう。
死体からスマートフォンを抜き取り、指を翳せばロックは解除された。
「指紋認証って、死んだ時の為の事を考えなかったんですかね」
そもそも自分が死ぬとは思わなかったのか、どちらにせよスマホは開いたし、一時的だが自由の身だ。
運良く、本当に運良く隠し持っていた事務所の電話番号を入力して、一度かけてみる。
出るかは分からない、時間を見れば今は午前2時、通常ならば世の中の皆さんは寝ているはずだ。
というか事務所に居るはずはないのだが
それでも縋る思いでコールを待った。
機械音が緊張を走らせ、どくどくと鳴る心臓を落ち着かせるように深呼吸をする
すると、ジジ、と機械音が変わった。
繋がった、セラフが事務所に居る。
「っ…セラ夫」
『______凪ちゃん?』
「良かった、繋がった、実は」
『お前、今どこにいんの』
場所が分からない為今の現状を伝えよとしたのだが。
じわりと冷や汗が流れた。
通話越しでも分かる、めっちゃ怒ってるこの人、普通にガチギレしてる
下手に刺激すれば怒涛の嵐になりそうな予感がした。
「すぐにそっちに向かいます、だから奏斗と雲雀を事務所に呼んでもらって____」
『もういるよ』
「え?」
『今君の声、スピーカーにして聞かせてる、なんで集まってるか、分かってるよね』
「なんで、でしょう」
普通に終わったこれ
さようなら未来の私、今までありがとう。
何も返す言葉など無くて、というか何を喋ってもきっとこれは怒られると理解して何も言わなければ、スマホを動かしたようなガタガタとした音と、ふぅ、と息を吐く音が聞こえた。
『アキラ』
「か、奏斗」
『1秒でも早く帰ってこい、そんで話をしろ、分かったな』
「あ、はい」
『というか、お前スマホ持ってってないよね。誰のスマホなの、それ』
「いやまあ、それは」
正直に伝えようとしたその時、扉がガンガンと叩かれる音が響いた。
「おい!!!あのスパイが逃げたぞ!!聞こえてんのか!!!おい!!!」
時間切れのようだった。
このまま通話をしていてもバレる他ないし、ここでスマホを置いて逃げたとしても通話履歴からバレてしまうだろう。
「今の音で何か分かったと思うんで、説教は帰ったら頼む」
『は、ちょアキラ?おい____!』
「すまん、奏斗」
通話を切って、スマホを踏みつけ画面を割った。
粉々になるように、何回も。
確実に形を保ってない状態を見て、部屋の窓の下を見た。
ガンガンと扉の音は鳴り止まず、おそらく強行突破しようとしているのだろう。
ここは2階、落ちれば脚がどうなるかなんて分からない。
でも行くしかない。
ぎゅっと拳を作り、窓から飛び降りた。
振動で身体中が痛み、脚の感覚なんて無かった。
でも早く移動しなければ。
裏手から人が見えない位置を確認して、今自分が出せるスピードを出して走る。
遠くから叫ぶような声が聞こえる。
探している、見つけようとしている
複雑な道になっているであろう路地に入り、身を隠しながら進む。
視界に血液が流れ込んできて、慌てて目を擦った。
その時、口の中から鉄の味がして、思わず吐き出してしまった。
ぽたぽたと出てくるのは胃液や吐瀉物では無かった。
赤黒い液体が溢れ出る。身体が限界だ、悲鳴をあげていると伝えてくる。
だけどそんなの関係ない
口の中に指を入れ、USBメモリが無事か確認して、足を進めた。
ふるふると身体が震える、もう少しだけ踏んばって、頑張って。
会うって、決めたんだから
電話をした時、声が聞こえた時、嬉しかった。
久々に聞いた声は怒っているような声色だったけど、それでも声が聞こえただけ凄い嬉しかった。
たらいの声は聞こえてないけど、でも事務所につけば会えるはずだから。
会うって決めたんだろ、四季凪アキラ。
もうすこし、もうすこしだから
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震えている手でドアノブを持ってドアを開けた、中は電気が付いておらず、暗い
帰ってしまったのだろうか、でもあの場所からここまではそう遠くは無いはず。分からないけれど。
もしかすると、遅すぎたのかもしれない。
電話をしてみようか?
迷惑かもしれないけれど、そろそろ限界だった。
もう身体中が痛くて痛くて、なんで今自分自身意識を保っていれているのかも分かっていない。
奥へと進めば、しんと静かな部屋。
何か、おかしかった。
そう考えた時には、首元に冷たい感覚があるのを理解した。
ああ、これは私が悪い。
恐らく殺気を出していたのだろうか、私の髪は溶け込むような黒だし、服装だって今は布に包まれている。
誤解されているんだ、多分。
紛れもなく感じているこの殺気はよく知っている相方のものだろう。
かちりとハンマーの音が聞こえたのは、この中で拳銃を持ち歩いているのは奏斗だけだ。
声を出すという選択肢以外、無かった。
「セラ夫」
「____雲雀、電気付けて」
自分でも驚くくらいか細い声だった。
優しい声が聞こえる、数日しか経っていないのに、懐かしいと感じた。
良かった、彼らがいる。
私、帰ってこられたんだ。
パチリと電気が付いた瞬間、目元がきゅっと縮こまった。
ぼんやりと見える赤色の羽織
ひゅ、と聞こえた空気音
彼の手に触れて、動かない彼に口付けをした。
「ぅ、」
「ん、ぅ…、ゔ」
ねじ込むように舌を入れて、無理やり口を開けさせた。
そのまま何とか口内に入れてあったメモリをセラフの口の中につっこみ、入ったと分かれば口を離した。
もう、手の感覚が無い。
というかなんなら意識が朦朧としてきた。
「せら、」
「っ…凪ちゃん!!!!」
そんな悲痛な呼び声と共に、私の意識はそこで途切れた。
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「おい、凪ちゃん、凪ちゃん!!」
「ひばタオルとなんか紐、早く!」
「分かってる…っ!!」
血塗れになって倒れている凪ちゃんに声を掛けるが何も返事は帰って来ない。
四季凪アキラが姿をくらました時、最初はヘラって消失したのかと思った。
もしかしたら本社で何かをしているかもしれないし、俺らが知らずに休みを取ったのかもしれないと思っていた。
俺たちのスケジュールは良く共有されるが、プライベートは報告する必要もない。
だけど四季凪アキラのマネージャーから連絡が来た時、彼が何も言わずにどこかへ消えたのだと状況を理解し、電話やメッセージを送ってみたが返信は無し。
何かに巻き込まれたのかもしれないと3人で考えた。
過去に四季凪アキラは拉致された事があった。それは元スパイという肩書きのせいで行われた暴虐で、情報を手に入れたいと思う輩の思惑により実行された事だった。
狙いだったのは主に奏斗の情報で、親しくしていた四季凪アキラの過去を調べ、元諜報員という身元を知った故に攫われた事があった。
その時は攫われたという情報や事務所の周りの荒らしがあったおかげで分かったから、全力で見つけ出して特に被害のないまま終わったけれど、そのあとからは十分に警戒を怠らないようにしない期間があった。
簡潔に言えば、四季凪アキラという人物を守ることにしていたのだ。
だから最近はもう大丈夫だと、油断してしまった。
「っ…血止まんないなこれ!うちの病院行こう、そっちの方が早い」
そう言って奏斗はスマートフォンで電話をし始めた。
雲雀はアキラの体にタオルや紐を結び、簡単な止血をしていた。
先程口にねじ込まれたものを吐き出せば小さな四角いカプセルのようなものが入っていた。
先を取ってみれば、恐らくパソコンに差し込めるもので、USBメモリと言ったところだろうか。
「爆速で迎え来ると思う、だからもう少しだけ待って」
「奏斗、これ」
「メモリ?どっから出たの」
「さっき口の中に突っ込まれた。多分凪ちゃんが最後の力で渡してきたやつ、パソコンだけ持っていった方がいい」
「分かった、事務所のノーパソ借りるよ」
「奏斗、セラお!!!」
そう大きな声で雲雀が俺たちの名前を呼んだ。
何事かと覗きこめば、布を避けて服を脱がしていれば、色々な傷や痕跡、それとひとつの大きな封筒が入っていた。
雲雀が奏斗に封筒を渡して、タオルでぐっと流血している部分を抑えていた。
俺もそれに参加しつつ、封筒を見ている奏斗に目線を送る。
奏斗は何も言わなかったけれど、書類を読み終わったあと、アキラの事を見つめ言葉を吐き出した。
彼ははにかむように笑ったけれど、アキラを見つめる瞳の奥には悲しさが混じっていた。
「アキラ、よく頑張ったよ」
「なんだったの」
「危険だって言ってた組織の情報、全部入ってる、だから多分今回も攫われた可能性が高いし、前より一層やばいこそさせられたと思う」
何も言えなかった、異常にやせ細った体に、目元に濃く描かれた隈
止まらない流血
本当に死んでしまいそうで、早く迎えの車が来て欲しいと願っているばかりだった。
その願いが叶ったのか、車のクラクションがなり、急いで刺激しないようにアキラを持って全員で車に乗り込んだ。
その後はすぐさま奏斗の家が経営している病院に行って、緊急手術をすることになった。
手術が終わるのを待っている間、俺達は休めるようソファや机がある部屋に案内された。
そこで奏斗が持ってきた事務所のパソコンを開き
拭いておいたメモリを手に持って差し込めば、何やら映像ファイルが画面に映った。
カタリとEnterを押して映像を再生した。
そこには無惨にも暴行されている四季凪アキラの姿があり、何やら情報を吐き出させようとした者の顔が映っていた。
その後も何日かの映像フォルダが入っていて、俺は勿論、奏斗や雲雀も静かな怒りを感情に表していた。
その他にも別の組織の情報も入っており、これら全ては四季凪アキラが命を懸けて持って帰ってきたと知る。
あんなにもボロボロになっていたのに、自分の事よりも情報を優先するのは昔の癖なのだろう。
いつの間にか数時間経っており、手術も終わり、特別室へ映されたと言われた。
急いで部屋に向かってその場所の扉を開けると、奥のベッドですうすうと酸素マスクを付けて眠っている姿があった。
医者から言われた事は、本当に後数分遅れていれば死んでいたとのこと。
と言うよりは、何故この状態でこうして一時的にも命を取り留めたのかと関心しているほどだった。
だけどもしかすれば状態が悪化するかもしれないと告げられた。
大量出血をしていて、尚且つ数日それを放置していたのだ、通常の人間なら呆気なく死んでいただろう。
四季凪アキラという人物が忍耐強かったからこそ、生きていられているのかもしれない。
包帯まみれの手をするりと撫でた。
爪が無い指が数本あった。
地獄の場所からよく逃げてきたと褒めてあげたい、情報まで持って帰って来れて天才だと言ってあげたい、痛い思いをしたのによく頑張ったねと、慰めてあげたい。
そんな思いが頭の中に浮かぶが、それともうひとつ思い浮かんだ事がある。
俺達の大事な四季凪アキラをこんな目に合わせた奴らを、許しはしないと。
生きていられると思うのだろうか、
そんな訳が無いだろう。
きっと必死に逃げる事を優先したと思う。
だからこそ残党は残ってるはずだ。
電話越しにも聞こえた声は耳にこびり付いている。
絶対に逃がしはしない、どこへ行っても殺してやる、そう心の中で誓った。
「セラ、気持ちは分かるけど顔が怖くなってるよ、折角の美人さんなんだから〜」
「お前に言われても嬉しくね〜」
「俺が言ったるやんか〜」
「要らね〜!!!」
そう茶化しあいをしながら喋っていると、不思議と気持ちが和らぐような気がした。
やっぱり奏斗と雲雀は凄いな。
だけど、
「早く起きて、声聞かせろよ」
いつもの低い声は聞こえない。
笑う時はちょっと高くなる声も、怒ったらうるさくなる声も聞こえない。
ただ聞こえるのは、静かに眠っている彼の呼吸音と、心拍数を図る機械の音だけだった。