テラーノベル
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俺は慌てて乱れたTシャツの襟元を正し、何事もなかったかのようにソファに座り直した。
数秒後、パタパタという足音と共に、リビングのドアが大きく開いた。
「あら、二人ともまだ起きてたの? ……って、あれ?」
お土産の紙袋を持った母さんの視線が、室内の空気を鋭く這う。
ソファの左端で、顔を真っ赤にして息を荒げている俺。
ソファの右端で、何食わぬ顔でグラスを弄っているが、微かに耳が赤い直哉。
そして、何より直哉のぶかぶかな黒Tシャツを着て、右肩を露出させている俺の姿。
「……」
「……」
生きた心地がしない、地獄のような数秒間の沈黙。心の中で「神様仏様」と必死に祈る。
「……翔、それ、直哉くんの服じゃない?」
「じ、実は洗濯物のカゴから、俺が適当に取ったら間違えて、サイズがデカいなとは思ったんだけど、ただの間違いで……っ!」
完全に声が裏返っていた。
ものすごい早口で弁明する俺の横で、直哉が口元を片手で隠しながら
ククク、と肩を激しく震わせて笑いを堪えている。
(笑うな、お前のせいだろこのバカ!)と耳打ちする。
しかし、母さんは俺の必死すぎる様子を見て
特に怪しむ風でもなく、ふふっと楽しそうに目を細めて微笑んだ。
「本当に仲が良いわねぇ、あなたたち。直哉くん、翔の面倒をよく見てくれてありがとうね」
「いえ、お兄さんにはいつも癒やされてますから」
「でも、これ以上夜更かししすぎないように、早く寝るのよ?」
母さんはそう言って、特にそれ以上の追及をすることなく
お土産をキッチンに置いて自分の寝室へと去っていった。
パタン、とドアが閉まった瞬間。
「…はぁぁぁっ……!」
俺は全身の骨が抜けたように、ソファの背もたれへと深く沈み込み、長い長い溜息を吐き出した。
一気に寿命が十年は縮んだ気がする。
「あはは、兄さん、さっきの言い訳最高」
「……誰のせいだと思ってんだよ、このバカ直哉。お前が押し倒してこなければ、普通に言い訳できたわ」
「でも、バレなくて良かったね」
直哉はそう言って、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべた。
◆◇◆◇
「……」
直哉のその言葉に、俺はふと、言葉を失って小さく黙り込んでしまった。
視線を落とし、自分の膝の上で握りしめた拳を見つめる。
「兄さん?」
不思議そうに顔を覗き込んでくる直哉の気配を感じながら、俺の胸の奥に
さっきの恐怖とは違う、少しだけ冷たくて重い感情がぽつりと零れ落ちた。
「……なんかさ」
「ん?」
「秘密で付き合うのって……結構、疲れるなって」
「……」
頭のてっぺんから爪先まで、こいつのことが大好きなのに。