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これほどまでに、世界で一番大切で、愛おしい恋人同士なのに。
親にも、学校の友達にも、誰にもこの関係を言うことはできない。
家の中でも学校の廊下でも、いつ誰に見られるか、いつ誰に怪しまれるかと
ずっと神経を尖らせて気を遣い続けなければいけない。
その『義兄弟の恋』という現実の壁の高さに、ふと、やりきれない寂しさが押し寄せてきたのだ。
リビングが、しんとした静寂に包まれる。
直哉の笑顔が消え、しばらくの間、真剣な面持ちで黙り込んでいた。
失敗したな、と俺は後悔した。
せっかくの二人きりの楽しい夜に、こんな暗い現実を突きつけるようなことを言うべきではなかった。
「……あ、いや、今のは別に、嫌になったとかそういう意味じゃなくて────」
慌てて取り繕おうとした俺の手を
直哉の、俺よりも一回り大きくて逞しい手が
下から包み込むようにしてゆっくりと握りしめた。
「兄さん」
「……え」
「俺、いつかちゃんと、母さんたちに認めてもらうつもりだから」
「…え?」
驚いて顔を上げると、直哉の瞳は
冗談なんか一ミリも含んでいない、本気の光を宿して真っ直ぐに俺を見ていた。
「ただの義兄弟とか、親の再婚同士の子供だからとか、そういう形だけの関係じゃなくて。ちゃんと『相川翔の恋人』として、田口直哉として、一緒にいることを認めてもらう」
「直哉……」
「そのために、俺、もっと大人になるし、実力もつける。絶対に兄さんを悲しませるような中途半端な終わり方はさせない」
真っ直ぐで、力強い声。
その言葉の重みに、俺の胸の奥がじんわりと熱くなって、視界がまた少しだけ滲みそうになる。
直哉は、俺の不安をすべて吹き飛ばすように、ふっと優しく、けれど頼もしく微笑んだ。
「だからさ」
直哉は俺の手の甲を、自分の大きな親指で優しく撫でながら言った。
「兄さんは何も心配しないで、安心して俺のこと、好きでいてよ」
「っ……」
そんな格好良いこと、この至近距離で、真顔で言うな。
胸の鼓動が、さっきのパニックとは違う、温かくて愛おしい熱を持って早くなっていく。
俺は爆発しそうな羞恥心を誤魔化すみたいに
繋がれていない方の手で顔を覆って、フイッと視線を壁のほうへと逸らした。
「……本当にお前、そういうところが、重いんだよ」
「あはは、知ってる」
そう言って、直哉は本当に幸せそうに、世界で一番綺麗な笑顔を咲かせた。
そして、握りしめた俺の手を
今度は愛おしそうに自分の唇へと引き寄せて、そっと指先にキスを落としてくる。
……くそ。生意気な年下のくせに。
こういう決定的なところで、王子様みたいにずるい真似をして俺を甘やかすこいつに
俺はもう、一生敵いそうになかった。