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駅から自転車置き場までが怖い。痴漢もときどき出るらしく、いつも強気でやばそうな女オーラを出しながら、駅から徒歩2分ほどの自転車置き場へ急ぐ。
薄暗い道を歩いていく。後ろから誰かついてきてるみたい。
走り始めると、誰かも走ってくる。ちょっと待って怖すぎるんですけどっ!!
そんなに運動神経も良くない、持久走大会は後ろから数えた方が早い順位。どうしよう!!
「未央、待ってー!!」
気の抜けた炭酸みたいな亮介の声が後ろからした。未央は足を止めて振り返ると、顔を赤らめた亮介が手を振っている。なんだ、よかった。
「もう、びっくりさせないでよ」
「ちょうど改札出たところで未央が見えたから」
「飲み会?」
「うん、そう。いっぱい飲んじゃった」
なんか、子ども? ふらふらしながら亮介は自転車の鍵を開ける。お酒を飲んだから引いて帰るとのこと。うん、そうだよね。飲酒運転はいけない。
「大丈夫なの?」
「心配いらん!!」
え? まさかお酒飲んでもキャラ変するの? でもさっき声かけてきた時は普通だった。未央の頭にはてなが浮かぶ。
「いま、誰かになってるの?」「とっつぁんです」
とっつぁん……、あぁ。あれね、大泥棒を捕まえようと、世界の果てまで追いかける警部ね。
なんでそれ? 帰りに漫画でも読みながらきたの? まったくわからん。
「とにかく、家まで行こう? ちょっとお水飲んだ方がいいよ」
「わしゃ、酔っとらんぞ」
こりゃきょうはタチ悪いな。なんかあったのかな。
「郡司くん……あ、りょ……亮介? 何かあったの?」
「未央、部屋へいくぞ。話はそれからだ」
色白でイケメンのとっつぁんと一緒に、自転車を引いて帰ったので思いのほか遅くなった。とりあえず未央は亮介を自分の部屋に招き入れて水を飲ませた。
歩いたので少し酔いも覚めたのか、亮介はちゃぶ台の前に座ってサクラにちゅーるを食べさせていた。
「りょ……亮介、何かあったの?」
「なんかあったように見えます?」
あれ? とっつぁーんはどこ? もう戻っちゃった? 未央は疑問をぶつけた。
「ねぇ、もしかしてキャラ変ってコントロールできるの?」
亮介はハッとして、後ずさりした。未央をじっと見つめている。
「未央さん、きょうは時間ありますか? 話さなくちゃいけないことがあって……」「あしたは朝早くて……早めに休もうと思ってたんだけど……」
未央は亮介の隣に自分も座りながら申し訳なさそうに言った。話さなきゃいけないことってなんだろう。
「わかりました。きょうは帰ります。あしたの夜は予定どうですか?」
「あしたは5時あがりだから時間あるよ。よかったらごはん一緒に食べる?」
「たまには駅前の商店街のお店に行きませんか? まだ開拓できてなくて」
「いいよ! いきつけのイタリアンがあるからそこはどう?」
「いいですね!」
「じゃあ仕事終わったら連絡するね。亮介はあしたも仕事?」
やっと亮介という言葉がスッとでてくるようになった。
「あしたは休みですけど、ちょっと用事があって……。夕方には終わると思うので大丈夫です。楽しみにしてます」
亮介は水を飲み干すと、ごちそうさまでしたと言って、チュッと軽くキスをして部屋へ帰っていった。
なにか、ひっかかる。あしたは時間もあるし、私の聞きたいこともぜんぶ聞こう。未央はあすに備えてザッとシャワーを浴びると、すぐベッドで横になった。目を閉じても亮介の話の内容が気になって、寝つくのに時間がかかった。スタジオでのコラボ企画の試食会は、大いに盛り上がっていた。三品作ったが、どれも予想以上に美味しいと先生たちから大好評。
特に大学いもサンドが人気。水あめを絡め、塩を強めにかけた大学芋を一口大にカット。生クリームと一緒にパンにはさむ。甘さと塩気がマッチして最高だ!! とみんな喜んでくれた。奈緒は美味しくて当たり前だという雰囲気でふんぞり返っている。
チーフの先生が話を始めた。