テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「どれを出しても大丈夫だとは思うけど、1番はどれがいいかみんなで決めましょう。予備の候補も必要だから、順位もね」
多数決の結果、1位から順に大学いもサンド、スイートポテトマフィン、カボチャのキャラメルチーズケーキに決まった。これをふまえて、museさんとの話し合いを進める。
「よく考えたわね、新田先生」
チーフに褒められて、やっとニコッと奈緒は笑った。緊張してたんだなきっと。
なんか奈緒をまったく憎めなくなってしまった。
未央は片付けをしながら、奈緒に話しかける。
「新田先生、よかったね。あとは先方がどれを選ぶかだね」
「……ありがとうございます。助かりました」
「レシピの才能あるよ」
「……それ、イヤミですか?」
「は?」
「私は、あなたみたいになりたい」
突然そう言われて驚いた。私になりたい? なぜ?「私は、篠田先生みたいになりたい。周りを大切にして、仕事がうまくまわるように先手が打てる。自分の意見をコントロールすることで、スタジオの最善の利益を追求する。レシピの才能もあって、みんなから信頼されている。私にないものすべて持ってる先生が、うらやましくて仕方ないんです。だから、いろいろひどいこと言ってしまって……すみませんでした」
いきなりそう言われて驚くような、うれしいような。だから私にきつく当たったのか。未央はにこっと笑ってこたえた。
「新田先生、ひとはそれぞれだから。私は先生のはっきり言うところ、いいなと思うよ。それが危なっかしいこともあるけど、自分でわかり始めてる。少しずつブラッシュアップしていけばいいんだよ」
奈緒は背中を向けて聞いていた。返事はなかったけど、きっと何か思ってくれただろう。
「郡司さんのことなんですけど……」
突然亮介の名前が出て、飛び上がるくらいびっくりした。
「私、郡司さんのこと、いいと思ってたわけじゃなくてその……」
そっか。きっと私を困らせたかっただけだなこれは。
「わかった、もういいよ」
気にしてないように見せかけるのが、せめてもの抵抗だった。
9 亮介の正体
17時ぴったりに仕事を上がって、亮介に連絡を入れた。商店街の入り口で待ち合わせ。話ってなんだろう。
亮介はスーツ姿で商店街の入り口に立っていた。就活にしてはスーツはおしゃれだし、かっこ良すぎる。あまりの尊さに近づけなくて、しばらく木陰から見守っていたが、その間だけでも3人の女性から声をかけられていた。
いきつけのイタリアンは、リーズナブルで美味しい。マスターも奥さんも良くしてくれるので足しげく通った時期もあった。きょうは予約がいっぱいでテーブル席がなく、カウンターに並んで座った。
「未央、ここおいしいね」
「でしょ、でしょ?」
ヒラメのカルパッチョに、フィッシュ&チップス、ピリ辛ボロネーゼを注文し、亮介は美味しいとぱくついていた。
「あのさ、話ってなんだった?」
きのう気になってあまり眠れなかったので、話を切り出した。
「はい、あのキャラ変のことです。ごめんなさい、本当はやろうと思えばコントロールできます。キスすると戻るのも実は知ってました。未央さんとキャラ変のまま話したり、キスしたりするのがうれしくて、言い出せなくて……ごめんなさい」
亮介はそう言って頭を下げた。
「怒って……ます?」
未央の顔が赤くなったのをみて亮介は怒られると思ってドキドキしているのだろう。
「ねえ、それって私のこと好きだったから? キスしたかったから?」
「はい……」
未央はごつんとテーブルに頭をぶつけた。
「未央? どした?」
「ごめん、ちょっとうれしすぎて……」
キスしたいがために、そんなこと? かわいすぎない? 許すに決まってるじゃん。あれ、ひとつ疑問が……。
「あのさ、ゴキ……のときはなんで戻らなかったの?」
「あまりの衝撃で」
なるほど、衝撃さえなければコントロールできるんだね。「亮介、かわいすぎ。私のこと好きになってくれてありがとう」
素直にそう言えた。亮介も顔が真っ赤になっている。
「よかった……。これからもキャラ変しても大丈夫ですか?」
「もちろん。ねぇ、リクエストにも応えられる?」
「はい、そのキャラクター知っていれば」
すごい、めっちゃ楽しい。楽しみがまたひとつ増えた。
「未央さんも、なにか聞きたいことないですか?」
「うん、あるあるいっぱい!! ちょっと待って。メモアプリ出す」
「そんなにあるんですか」
未央はスマホのメモアプリを起動させる。聞きたいことをまとめてメモしてきたのだ。
「じゃあ、まずひとつ目。亮介って何歳なの? 私の予想は25歳」
未央があまりに真面目な顔して言うので、亮介はプッと笑い出した。
「あれ、僕年齢言ってませんでしたっけ? 来月で28になります」
「えっ!? 28?」
「はい、そういえば未央さんの年齢僕も知らなかった。いくつですか?23くらい?」
うれしいような、悲しいような。そんなに若く見えました?