テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
桃視点
俺の強引とも言える提案に、呆れたのか諦めたのか、まろはそれ以上の抵抗を見せなかった。
その日から「お試し」という名の付き合いが始まった。
ただ、よく漫画なんかで見るようなそれとは違う。
漫画では「好きな方」が懇願してお試しを申し出る展開がセオリーだろう。
だから2人の関係はその日から目に見えて変わるだろうし、変化に応じて気持ちの行く先も自然と決まる。
だけど俺たちは違う。
俺のことを好きなはずのまろの方が全くこのお試しに乗り気じゃないから、外からは何も変わっていないように見えるに違いない。
ただ、前より2人で仕事の相談をすることが多くなっただけ。
事務所での打ち合わせを終えた後、互いの家のどちらかに転がり込んで作業の続きをすることが増えただけ。
周りからはそうとしか見えなかったと思う。
だから、他のメンバーには付き合い始めたことをきちんと説明した。
ただしお試しというところは伏せる。
俺はふざけているつもりも遊んでいるつもりもなかったけれど、そう邪推されるのも本意ではなかったからだ。
土曜の夜、わざわざ事務所まで出向いてこちらの仕事を手伝ってくれたまろの横顔を、自宅への帰り道を歩きながら見上げる。
「まろ、今日夕飯どうする? 食べて帰る? 家でウーバー?」
俺の問いに、まろは「うーん」と小さく首を捻った。
それから前を向いたまま「何でもえぇよ」と短く答える。
「何でもいい」なんて言葉はそのままの意味には受け取れず、「どうでもいい」とでも言いたげに聞こえて何だか妙に悲しくなる。
明日は日曜だからゆっくりしよう、家で映画でも見ようなんて話していたのに、割と楽しみにしてたの俺だけ?
そんなことを考えては、そう言えば休みの過ごし方も映画を見ようなんて提案をしたのも自分だったことに今更気づく。
隣のまろの顔を、横目でもう一度盗み見た。
何の感情も乗せない無表情。
…そりゃそうか。「試しの付き合い」なんて、嫌だと言ったまろに無理矢理押し付けてるんだから。
でもさ、本当に試しに付き合ってでもみないと「あり」か「なし」かなんて分かんないじゃん。
それこそ恋愛的にじゃなくても人間的に好意を持っていた相手なら、尚更。
もやもやした気持ちを抱えたまま、ふと左手を伸ばしてみた。
もう誰の気配もない静かな夜道。
こちらを照らすのは街灯だけで、誰も何も俺たちを気に留めるものなんてない。
そんな中、伸ばした手が徐々に距離を詰める。
あと20cm、…10cm、
……5cm…。
「…あ、コンビニ寄っていい? 買いたいものメモしてそのまま忘れとった」
触れ合いそうになった瞬間に、まろが右手をポケットに押し込んだ。
そこから取り出したスマホでメモアプリを呼び出し、思い出したようにそんな言葉を継ぐ。
「……いいよ」
小さくそう応じた俺の手は、目標物を失って宙を掻いた。
翌日は、朝目が覚めてからもだらだらとベッドの上で過ごしていた。
二度寝、三度寝を繰り返して惰眠を貪る。
そうして昼前にようやく起き上がり、ブランチと言えば聞こえはいい、コンビニで買ってきただけの食事を済ませた。
昼過ぎになってようやく、事前に決めてあった映画をテレビ画面で再生する。
まろはやっぱり何でもいいと言うから、俺が選んだ昔の名作だった。
コメディだけど最後には少し感動する展開が待っているらしい。
ホラーはまろが嫌がるし、恋愛ものやファンタジーなんかも違う気がして結局ここに落ち着いた。
「人をダメにする」と評判のかなり大きめのビーズクッション。
そこにずぼりと身を預け、まろは画面の左前を陣取る。
俺は正面のソファに落ち着いていたけれど、まろがそのクッションに深く沈むのを見て立ち上がった。
す、と移動してその前に陣取る。投げ出したまろの両足の間に座りこみ、背中を預ける形だ。
「…えぇ、ここで見るん?」
頭の後ろからまろのそんな声がする。
嫌そうな顔をされていたらさすがに傷つく気がして、後ろは見ないまま俺は軽く頷いて返した。
「別にいーじゃん、ほら、再生するよ」
リモコンをテレビ画面に向けて、俺は何でもないことのように答えた。
2時間弱の映画の間、まろの胸と首の辺りに後頭部を預けた態勢で画面を注視し続ける。
それを向こうが拒むことはなかったけれど、受け入れる素振りもなかった。
手は絶対に俺の肩にすら触れなかったし、ずっとクッションの隅に添えられている。
それを心の隅で不満に思ったせいか、楽しみにしていたはずの映画の中身は全く頭に入ってこなかった。
更にまた翌日の月曜日。
まろは本業の仕事に赴き、朝早くから電車に揺られて出勤していった。
俺はいつも通りの時間に事務所へ赴く。
少ししてから、今日打ち合わせをする予定だったいむが会議室に入ってきた。
「おつかれー、あれ、まだないちゃんだけ? 今日あとしょうちゃんも来る予定だよね?」
かけられたそんな言葉に「うん、そう」と小さく頷く。
まだ予定の時間までは10分ほどあることを確認して、いむは正面の椅子に座りながら「そういえば」と言葉を継いだ。
「映画どうだった? 結構おもしろかったでしょ?」
家で見るのにちょうどいい映画はないかとメンバーに聞いて、今回選んだのはいむが提案してくれたものだった。
「あー…うん、ありがとう」
曖昧に濁したこちらの返事の語調を感じ取ったのか、2,3度瞬きを繰り返した。
それから何を推察したのか、「ははーん」と見当違いも甚だしい笑みをニヤリと浮かべる。
「いふくんが近すぎてドキドキしちゃってちゃんと見れなかった?」
からかうようなセリフを口にして、水色の瞳がこちらを伺いながら「ふふん」と鼻を鳴らした。
「ないちゃんがそんなにいふくんのこと好きになるとは思わなかったなー。付き合うって聞いたときは最初びっくりしたけどさ。良かったね」
続いたいむの言葉に、俺は「…は?」と無自覚に呟きを漏らしていた。
…今、なんて?
「…誰が誰を好きって?」
丸くした目を向けると、水色の瞳が不思議そうにこちらを見つめ返した。
「え?」と首を捻る。
リスナーが見ていたら「かわいい」と悲鳴に似た歓声を上げたことだろう。
「ないちゃんが、いふくんを」
「……」
思わず絶句し、返すべき言葉を失った。
…俺が、まろを…? 周りから見たらそういう風に見えるわけ?
「え、どうしたのないちゃん」
俺の様子に驚いた表情を浮かべたいむ。
その顔をもう見つめ返すことができず、俺はぐっと息を呑み込んだ。
自分の中でこの関係がありかなしか、俺はそれだけが知りたかったはずだった。
だから始めたはずなのに、何かが違う。
思うようにいかないなんて考える自分がいることに愕然とした。
何を期待してたんだろう。
ただひたすらまろに甘やかされること?
毎朝毎晩、ひたすら「好きだよ」と愛を囁かれること?
自分に返す想いがないくせに、与えられるそれだけを希求していたのかと思うと自分で自分に驚いた。
…何で……どこでこうなった?
段々と苛立ちを募らせている自分に気づく。
まろが俺のことを好きなはずなのに、何で俺がこんな気持ちを抱えてるわけ?
そう思ってすぐ、その考えこそが喉元にひっかかる。
本当にまろが俺を好きなのか、わからなくなってきていた。
だってあの時一度言葉にされただけで、その後そんな態度一度たりとも見せない。
あれは俺の夢で、幻だった? メンバーに愛されるなんて都合の良い幻聴を俺が聞いただけだろうか?
いや、そんなわけない。あの時気持ちをぶつけるように苛立ちまじりのキスをされたのは夢なんかじゃない。
ぶつかるだけの…ただ唇が合わさっただけのようなそれは、それでも確かに現実だったはずだ。
「……まろ」
またうちで一緒に過ごしている時に、俺は小さく呼びかけた。
「一緒に過ごす」なんて言っても、別に何をするわけでもない。
残った仕事を互いに片付け、寝て、起きる。
1週間のうちに数回あるだけのその時間。
試しの付き合いをする前より他人行儀になった気がする。
リビングのテーブルの上にノートパソコンを開いていたまろは、俺の呼びかけにふと顔を上げた。
「ごみついてる、糸くずみたいな」
前より伸びた長めの髪を指さして、俺はそう言う。
指示された箇所に手をやり、まろは髪を梳くように掴んだ。
「取れた?」と尋ねられて、左右に首を振る。
「ここ」
言いながら、テーブルの上に身を乗り出し手を伸ばした。
本当は何もついていないまろの髪に手を伸ばし、「何か」を取るフリをする。
「取れたよ」
そう言ったときには、乗り出した体がまろのすぐ前に差し出されるような形だった。
互いの顔は極至近距離まで近づく。
その距離でじっとまろの瞳を見つめた。
閉じていた唇を、ほんの少しだけ薄く開く。
濃紺の瞳が少しだけ戸惑ったように揺れた気がした。
「…ありがとう。そうや、会社の人に電話かけないかんかったん思い出した」
そう言って、まろは椅子から立ち上がった。
スマホを取り出して俺から距離を取ると、そのままリビングを出て行ってしまう。
「……ヘタレめ」
その背中が見えなくなる瞬間に毒づいた呟きを漏らすと、胸のどこかが締めつけるような痛みを訴えた気がした。
コメント
2件
水さんの首こてんは悲鳴案件ですよ…😖✨ 桃さんの方が青さんに積極的になっているのが見ててにやにやしちゃってます…✨ 読んでいて映像が思い浮かんでしまうんですよね…私もそんな風に書けるようになりたいものですっ😭💕 お忙しい中いつも💬返ありがとうございます…😭💕 💬返見る度にあおば様から💬がきた✨と大変舞い上がっております·͜· ❤︎ 今日も最高の癒しをありがとうございます!!