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#TL
瀬名 紫陽花
14,533
#BL
多 動 症 .
30
恥ずかしさでグラスを持つ手が震える。
「それで、その場のノリと勢いで、その人に『抱いて』って、お願いしちゃったの……」
佐藤くんの目の色が、一瞬で変わった。
彼はグラスを持つ手を止め、じっと私を見つめる。
「……先輩はその人のこと、好きなんですか?」
「え?う、うん。実は…初恋の相手で。勢いで抱いてもらったんだけど、今朝になって冷静に考えたら、これってヤバいのでは?ってなりまして……っ」
自分で自分の愚行を解説しているうちに
あまりの居たたまれなさに最後は変な敬語になってしまった。
佐藤くんは困ったように苦笑しながら、頭をポリポリと掻いた。
「まぁ…俺個人の意見としては、何とも言い難いですけど。…もし、その後に『またヤろう』って相手から誘われてるなら、完全に都合のいいセフレとして見られてると思いますよ」
「やっぱり、そうだよね……」
「で、実際のところどうなんです?そのあと何か言われました?」
「あっ、本当に昨日の1回切りで頼んだだけだから、特に次は誘われてないよ!今朝だって、一緒に出勤して噂になったら悪いと思って、私から別々に出勤しようって言って、逃げるように別れたし……」
佐藤くんの目が、鋭く細められた。
「…ってことは、相手は『会社の男』なんですね?」
「あ……っ!」
しまった、口が滑った。
そう思って私は慌てて口を塞ぐが、もう遅い。
「その…うん……」
「それって…黒崎さんのことですか?」
まるでエスパーのように、一発でピンポイントに名前を言い当てられてしまい
私は飲んでいたカクテルを喉に詰まらせそうになって激しくむせた。
「ゲホッ、ゲホッ!…っ、佐藤くんって、いちいち鋭すぎない!?エスパーなの…?」
「まさか。でも、やっぱりそうなんですね?」
佐藤くんはどこか冷ややかな、大人の男の顔で淡々と言った。
「このこと、絶対に他の人には言わないでよ!? もし他の女の子たちに、私が叶人くんのこと好きだとか、昨日ヤっただなんてバレたら……!」
「バレたら、何か問題でも?」
「ありまくりよ!私が社内で『憧れの清楚な先輩』から『黒崎さんに色目使って一晩で股開いたビッチ女』って噂されちゃう可能性だって、無きにしも非ずだし!」
「まあ、俺が社内に言いふらすわけないですし、黙ってるくらいはいいですけど……」
佐藤くんはグラスを見つめたまま、ふっと声音を落とした。
「先輩は、黒崎さんと本当に付き合えると思ってるんですか?」
「それは…その、頑張れば……もしかしたらって……」
「諦めた方が良くないですか?男の心理として、一度付き合う前に抱いちゃった女を、後から本気で好きになって付き合うのって、相当レアケースだと思いますよ」
「…っ……」
彼の容赦のない正論が、私の胸に深く突き刺さる。
「それに、また向こうから迫られたらどうするんですか?それこそ都合よくヤリ捨てされて、終わりですよ」
「か、叶人くんはそんな人じゃないから…」
「分かりませんよ?男の裏の顔なんて」
「…そ、そうならないようには、自分でちゃんとするよ……っ!とにかく、私は当たって砕けてみたいの。だって、ずっと昔から好きだったんだもん、叶人くんのこと……」
切実に胸の内を吐露する私。
だが、佐藤くんは突然黙り込み、冷徹な沈黙がテーブルを支配した。
「さ、佐藤くん…?どうかした……?」
不気味なほどの静けさに耐えかねて、声をかけると
佐藤くんはゆっくりと顔を上げ、私の目を真っ直ぐに見据えた。
その瞳には、普段の生意気で可愛い後輩の面影なんて、微塵も残っていなかった。
完全に、一人の肉食の「男」の目が、そこにあった。
「いや、なんでもないです。…ただ、俺は先輩が他の男に傷つけられる姿なんて、絶対に見ていたくないので。気をつけて欲しいなってのはあります」
「じゃ、じゃあ……私の恋、応援してくれるってこと?」
「──それは、無理です」
「え、どうして…?私もいい大人だし、後輩の佐藤くんがそこまで心配しなくても───」
私が努めて明るく「大丈夫だよ」というニュアンスを込めて笑いかけると
彼は私の言葉を強引に遮るように、低く真剣な声音で言い放った。
「俺、先輩のこと本気で狙ってるんで」
「え…っ?」
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