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第15話:目覚め
まぶしい朝の光が、カーテン越しに差し込んだ。
静かな部屋。時計の針が、土曜日ではなく日曜日を刻んでいる。
相原 凛はベッドから跳ね起きた。
茶色のショートボブを乱し、水色のパジャマが汗で濡れている。
「……夢?」
包帯も、血もない。だが胸の奥が痛むように鼓動していた。
高城 翔はアパートの布団から起き上がった。
Tシャツ姿のまま拳を握り、腫れも傷もないことに気づく。
「昨日……俺は……戦って……」
だが口にした途端、頭痛が走り、記憶が霧散していった。
真田 玲央は散らかった机に座り、眼鏡をかけ直した。
パーカーの袖を握りしめ、ノートを開く。
だが何を書こうとしても、ペン先は空のまま止まった。
「……なぜ、涙が出る?」
森下 瑠衣はトレーニングウェア姿でランニングシューズを履いていた。
鏡に映る自分を見つめ、知らぬ間に背中が震えていることに気づく。
「体が……勝手に……戦いを覚えてる……」
広瀬 伶は子どもの寝顔を見つめながら、震える指先で頬を撫でた。
「生きてる……よかった……」
彼女は涙を流すが、その理由を言葉にできなかった。
街では、三十人が次々と“夢から目覚めて”いた。
誰もが何かを失った感覚を抱えながらも、記憶は霧のように掻き消されていく。
――ただ一人を除いて。
遠藤 蓮は、大学の自室で目を開けた。
灰色のパーカーの袖を握りしめ、全身に戦いの傷跡の痛みを感じながら。
「……全部、覚えてる」
砂漠での最初の血。
ジャングルの幻覚。
都市の裏切り。
常夜の光源争奪。
サバンナの対立。
常夏の爆発。
そして、仲間たちが死んでいった全ての瞬間。
――最後に自分が願った“みんなの死を無かったことに”。
街は穏やかに動き始めていた。子どもたちの笑い声、車のクラクション、コンビニのBGM。
だが蓮の瞳には、夢の戦場の残像が消えずに焼き付いていた。
「……俺だけが、覚えている」
灰色の空を見上げ、蓮は息を吐いた。
次の土曜日が来ても、もう夢の呼び声は訪れない。
それでも彼の心には――仲間の笑顔と、死の重みが永遠に刻まれていた。