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にゃみ3
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三日後。
約束の時間にハルドの店を訪れると、三度叩くより先に扉が開いた。
「遅い」
「約束どおりの時間だぞ」
「こっちは昨日から待ってたんだ。さっさと入れ」
目の下に濃い隈を作ったハルドが、俺たちを急かす。
どうやら剣が完成してから、一睡もできなかったらしい。
作業台の上には、一振りの剣が置かれていた。
ミアの身体に合わせた、細身の刀身だ。
柄は以前の剣よりわずかに短く、鍔元には赤と緑、二つの属性石が埋め込まれていた。そこから伸びた銀色の細い線は、柄の中を通って刀身の中心へ集まっていた。
飾りらしい飾りはない。
だがハルドが三日間、この一振り以外のすべてを放り出していたことだけは一目で分かる。
「嬢ちゃん、持ってみろ」
「は、はい」
ミアは両手で剣を受け取った。
恐る恐る柄を握り、剣を身体の正面に構える。
「はあっ!」
ミアは一歩踏み込み、剣を振り下ろした。
すぐに剣を正面へ戻し、今度は角度を変えて斬り上げる。
どちらの斬撃も切っ先はぶれず、振り終わりでぴたりと止まった。
「すごいです。まるで自分の身体みたいに動きます」
「当たり前だ。誰のために打ったと思ってる」
ハルドは鼻を鳴らしたが、口元は満足そうに緩んでいる。
「柄の留め金は二つだ。赤を押せば火、緑を押せば風の魔力が流れる。両方を押せば二属性同時だ」
ミアの親指が、二つの留め金へ伸びる。
「では、さっそく──」
「馬鹿馬鹿、ここで押すなっ! 剣より先に工房が壊れる!」
ミアが慌てて指を離した。
「す、すみません!」
「試し斬りは町外れの旧採石場だ。それと、最初は一つずつにしろ。嬢ちゃんの身体に何が起きるか、まだ分からんからな」
俺はミアが収めた剣へ目を向けた。
「店が壊れるほどの威力になるのか?」
「そのために作ったんだ。ならなきゃ困る」
ミアが専用剣を鞘へ収めると、ハルドは待ちきれないように店の外へ出た。
***
町の外壁から南へ進んだ先に、使われなくなった採石場があった。
切り立った岩壁に囲まれた窪地には、運び出されなかった石材や、途中まで削られた岩柱がいくつも残されている。ハルドは危険な魔導装備を作るたび、ここで試しているらしい。
俺はミアのすぐ横へ立ち、リタはいつでも支えられるよう斜め後ろへ回る。
ハルドは少し離れた場所から、剣へ目を向けた。
「まずは火だ。赤い留め金を押して、あれを斬れ」
ハルドが、ミアの腰ほどの高さがある石材を指した。
「あの……これを、剣で斬るんですか?」
ミアは石材と、手にした細身の剣を見比べる。
俺は不安そうなミアへ声をかけた。
「炎甲蜥蜴を斬ったときの方が、よほど無茶だった。おまえなら斬れる」
「……はい!」
ミアは石材へ向き直り、剣を構える。
親指で留め金を押すと、火属性石が赤く光った。
「っ……」
柄から流れ込んだ熱に、ミアの肩が一瞬だけ強張る。
それでも剣を離さず、ゆっくりと息を整えた。
刃の根元に、小さな火が灯る。
次の瞬間、赤い炎が一息に刃先まで駆け上がった。
「やああっ!」
ミアが石材へ踏み込み、炎をまとった剣を振り抜く。
轟音とともに赤い閃光が走った。
石材は真っ二つに割れ、遅れて上半分が内側から爆ぜる。
黒く焼けた破片が、ばらばらと地面へ降り注いだ。
「──できた」
ミアは剣を振り抜いた姿勢のまま、砕け散った石材を見つめていた。
「できました! シードさん、見ましたか!」
振り返ったミアが、輝くような笑顔を俺へぶつけてくる。
「ああ。石の塊を剣で斬るなんて芸当、一流の剣士でもできるやつは少ないぞ」
ハルドは石材には目もくれず、真っ先に刀身へ駆け寄った。
流路へ焼きつきがないか確かめ、刃を光へ透かす。
「亀裂なし。火の流路も問題ないな」
ハルドが剣を確かめている間に、俺はミアへ向き直った。
「ミア、身体は?」
「少し熱いです。でも、炎甲蜥蜴のときよりずっと楽です」
呼吸に乱れはなく、手も震えていない。
「問題なさそうだな。ハルド、続けるぞ」
「ああ。火を止めて、今度は緑の留め金を押せ」
「分かりました!」
ミアが緑の留め金を押した。
淡い緑の光が柄を走り、ミアの髪と服の裾が、風もないのに揺れ始めた。
ミアは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに剣を握り直した。
刃の周囲に、淡い緑の風が渦を巻く。
「今度はこの石材を斬ってみろ」
ハルドが、ミアのすぐ前にある石材を指す。
ミアは大きく息を吸い、一歩踏み込んだ。
刃が石材へ届くより先に、鋭い音が鳴る。
ヒュンッ!
淡い緑の斬撃が、剣先から飛び出した。
石材を両断してなお勢いは止まらず、その後ろにあった岩柱へ深々と食い込む。
「──えっ?」
ミアが剣と石材を何度も見比べる。
「い、今……剣が届く前に斬れました!」
「風が飛んだのか……?」
ハルドまで目を見開いていた。
「風だと、あんな遠くまで斬れるんですか!?」
「俺に聞くな。こっちも今知った! もう一度だ。今度は離れて振ってみろ!」
「はいっ!」
ミアは先ほどより離れた白い岩へ狙いを定め、剣を振る。
ヒュンッ!
風の斬撃が採石場を走り、白い岩を真っ二つにした。
「すごいです! ハルドさん、この剣すごいです!」
「そうだろうそうだろう! どれ、次は奥の黒い岩柱だ──あれはここいらの石材よりも硬いぞ!」
「望むところですっ!」
ミアが、勢いのままに剣をぶんぶんと振り回す。
ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
風の刃が次々と飛び出し、ハルドが指した石材を易々と切り裂いた。
真ん中から断たれた黒い岩柱が、ズガァンッ! と地響きを立てて崩れ落ちた。
「ウッソだろ? 近衛に卸した防具にも使った素材だぞ? 嬢ちゃん、とんでもない使い手だな!」
「無銘所属ですから!」
目を丸くするハルドに、ミアはそうドヤ顔で答えるのだった。
──その後も、ミアは風の刃を飛ばし続け、石材を片っ端から粉砕していく。
次々とバラバラになっていく素材を見ながら大丈夫なのかと俺は思ったが、ハルドが気にしていないのなら問題ないのだろう。たぶん。
(さて……そろそろ潮時か──)
「あ~、ミア。そろそろ、そのへんに──」
「えっ!? もう終わりですか? まだまだ、やれます!」
俺が声をかけると、ミアはそんな調子のいいことを言っていたが、
「──あれ?」
ミアの身体がぐらりと傾く。
「きゅう~」
「おっと」
俺は一歩踏み出し、倒れ込んできたミアを受け止めた。
「ミア様!」
「嬢ちゃん!」
リタとハルドが、こちらに駆け寄ってきた。
「問題ない。短い間に魔力を使いすぎただけだ」
リタがミアの手から剣を受け取り、鞘へ収める。
俺はミアを近くの石材へ座らせた。
「……悪かった。俺も、少しはしゃぎすぎた」
バツの悪そうな顔で、ハルドがそう頭をかく。
「……少し?」
「うるさい。その……仕方ないだろう。嬢ちゃんが、あまりにも理想そのもので──」
「理想……ですか?」
ハルドの言葉に、ミアは不思議そうな顔をする。
「ああ。俺が打った剣を、俺の想像より先まで振りやがる。そんな使い手を、ずっと待ってた」
ハルドは、リタが抱える剣を顎で示した。
「そいつはまだ完成じゃない。嬢ちゃんが先へ進むたび、俺がその先を作る。だから、また持ってこい」
ハルドは、改めてそうミアに頭を下げる。
ミアは驚いたように目を丸くしていたが、
「ありがとうございます。私、絶対に使いこなします」
そう言って立ち上がろうとした。
しかし足に力が入らず、その場へへたり込む。
「あの、自分で歩けます」
「その台詞は立ってから言え」
俺はミアへ背を向けてしゃがみ、そのまま担ぎ上げた。
ミアは申し訳なさそうに身を縮めていたが、すぐに俺の肩へ額を預ける。
「シードさん、見てましたか?」
「ああ。見事だった。……そしてはしゃぎすぎだ」
「ごめんなさい。でも、嬉しくて──」
噛みしめるようなミアの声を聞きながら、俺たちは工房に向けて歩き出す。
「次は倒れる前に止めろよ、嬢ちゃん」
「おまえは止める側だ」
俺の言葉に、ハルドはわざとらしく口笛を吹いた。
背中で、ミアがくすりと笑う。
その笑い声は、やがて安らかな寝息へ変わった。
コメント
1件
第15話、読ませていただきました! ミアが専用の剣を手にして、試し斬りではしゃぐ姿が本当に可愛くて微笑ましかったです。特に風の刃が飛んでいったときの「すごいです!」の連呼と、最後は魔力切れで「きゅう〜」と倒れるギャップがたまらなかったです。ハルドが「理想そのもの」と認めるシーンも胸に響きました。シードが倒れたミアをおぶって帰る優しさも素敵です。読後感がとても温かくなる、素晴らしいエピソードでした🌷