テラーノベル
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「……お願い」
その一言の余韻が、まだ残ってる。
さっきまでの意地も、強がりも、
全部ほどけたみたいに。
チャンスは一瞬だけ息を止めて、
それから小さく笑った。
「……は、ずるいな」
低く呟いて——
もう一度、引き寄せる。
今度のキスは、さっきとは違う。
強引さはあるのに、どこか優しい。
逃がさないのに、ちゃんと確かめるみたいな。
「……っ、ん……」
エリオットの力が、少しずつ抜けていく。
最初は抵抗してた指も、
気づけばチャンスの服をぎゅっと掴んでるだけで。
離れたくない、みたいに。
「……力、抜け」
小さく言われて、
「……抜けてる」
って返すけど、全然抜けてない声。
チャンスはくすっと笑って、
そのまま額を軽く合わせる。
「嘘つけ」
「……うるさい」
でも、その“うるさい”も弱い。
さっきまでの刺すような言い方じゃない。
ただの照れ隠し。
「ほら」
今度は、ゆっくり。
急かさない。
エリオットの呼吸に合わせるみたいに、
もう一度距離を詰める。
「……っ」
エリオットの方から、少しだけ近づく。
ほんの少しだけ。
でもそれだけで十分だった。
「いいな」
小さく褒めるみたいに言われて、
エリオットの耳が赤くなる。
「言うな」
「事実だろ」
また軽く触れるキス。
今度は短くて、柔らかい。
重ねるたびに、
さっきまでのぎこちなさが消えていく。
「……なぁ」
エリオットがぼそっと言う。
「ん?」
「さっきの、さ」
少しだけ間。
「……ほんとに、慣れてなかった?」
まだ気にしてる。
チャンスは一瞬だけ目を細めて、
「しつこいな」
って言いながらも、
そのまま軽く頬に触れる。
「慣れてたら、あんな面倒くさいことしねぇよ」
「……は?」
「お前相手に、わざわざ焦らして」
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少しだけ笑う。
「普通に済ませた方が楽だろ」
エリオットは一瞬だけ黙って——
それから小さく顔を逸らす。
「……そっか」
声が、少しだけ柔らかい。
納得したみたいに。
チャンスはそのまま、
逃げた視線を追うみたいに顔を近づける。
「まだ気になるか?」
「……ちょっとだけ」
正直に言う。
さっきまでなら絶対言わなかったのに。
「じゃあ」
低く言って、
「忘れるくらいにしとくか」
「……は?」
意味を理解する前に、
また引き寄せられる。
今度は、さっきより長く。
深くはないのに、
じわじわ溶けるみたいなキス。
エリオットの肩から、完全に力が抜ける。
「……っ、は……」
離れた後、少し息が乱れる。
でももう、さっきみたいな張り詰めた空気じゃない。
ただ、静かに甘い。
チャンスはそのまま、
軽く髪に触れる。
「これでいいか?」
エリオットは少しだけ考えて、
それから——
「……もう一回」
って言う。
さっきよりも自然に。
チャンスは笑う。
「欲張りだな」
「……悪いかよ」
小さく睨むけど、
全然怖くない。
むしろ、完全に甘い。
「別に」
そう言いながら、
また引き寄せる。
今度は言葉も少なくていい。
触れるたびに、
距離が溶けていく。
さっきまであんなに拗れてたのに。
「……なぁ」
「ん?」
「さっきのこと」
少しだけためらってから、
「……もういい」
ぽつり。
チャンスは一瞬だけ目を細めて、
「だろうな」
って軽く返す。
「どうせまたすぐ拗ねるだろ」
「拗ねねぇよ」
「はいはい」
その軽いやり取りすら、
もう尖ってない。
ただ、近いだけ。
エリオットは少しだけ間を置いて、
「……でもさ」
小さく呟く。
「またああいうとこ行くなら」
「ん?」
「……俺とだけ行け」
ぶっきらぼうに言う。
でも、耳は赤い。
チャンスは一瞬だけ止まって——
それから、ふっと笑う。
「分かったよ」
素直に答える。
「最初からそのつもりだしな」
「……」
エリオットは何も言わない。
ただ少しだけ距離を詰めて、
今度は自分から、軽く触れる。
さっきよりずっと自然に。
「……それならいい」
小さく呟く声は、
もう完全に——甘かった。
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