テラーノベル
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朝の冷たい空気が、グランピング施設の外に広がる。
コテージのキッチンでは、すちとらんが手際よく朝食の準備を進めていた。ベーコンの焼ける音と、コーヒーの香ばしい匂いが漂う。やがて、眠そうな顔のまま、ひとり、またひとりとリビングに集まってくる。
「おはよう……」とみことが頬をほんのり赤く染めてリビングに現れる。
その後ろから現れたすちが、さりげなくみことの髪を撫でながら、「ちゃんと起きられてえらいね」と囁いた。
いるまとひまなつは、少し距離を保ちながらも顔を見合わせ、ひまなつが目をそらしながら「……おはよ」と小さく挨拶。
いるまは口元にうっすら笑みを浮かべ、「もうちょっと寝たそうだったけど、連れてきた」とらんに耳打ちした。
らんはこさめの寝癖を直しながら、「寝癖すごいな、お前」と苦笑。
こさめは「らんくんの手、あったかい……」とまだ寝ぼけたまま、らんの袖に頬を押しつけていた。
朝食のテーブルに全員がそろうと、さっそく「いただきます」と声が揃う。
卵焼き、ベーコン、サラダ、トーストといったシンプルな献立だったが、旅先の特別な空気の中で、それぞれの心はどこか満たされていた。
「昨日……ちゃんと眠れた?」
すちがさりげなく問いかけると、みことはパンをちぎりながらこくんと頷く。
「……うん、たくさん安心できた」
ひまなつは口をもぐもぐさせながら、
「……まぁまぁかな」と視線を泳がせる。
それを見たこさめがニヤニヤして「そっかそっか〜? 気になるな〜?」とからかい、ひまなつは「こら、黙れ!」とトーストで口をふさごうとする。
そんな姿を見ながら、らんがコーヒーを飲みつつぽつりとつぶやいた。
「……なんだかんだ、いい夜だったんだな、みんな」
誰も否定しなかった。
胸の奥でじんわりと灯るような、静かで優しい朝だった。
___
空気は澄んでいて、吐く息は白く、静かに雪が舞っていた。
グランピング施設の外は一面の銀世界。
朝食を終えて少しゆっくりしたあと、みんなで外に出て散歩を始める。
「うわぁ、めっちゃ雪積もってるー!」
こさめが嬉しそうに声をあげ、両手で雪を掬いながらくるくるとその場で回る。
そして「ねぇねぇ! 雪だるま作ろうよっ」と目を輝かせた。
みことはその言葉にパァッと顔を輝かせ、「つくる……! つくりたい!」と子どもみたいにはしゃぎ出す。
その姿に、すちは口元を緩めて、「じゃあ俺は雪うさぎ、作ってみようかな」と穏やかに笑った。
「雪うさぎ!?」とさらにテンションが上がるみこと。
「まっしろで、ちっちゃくて、赤い目のやつだよね?俺も作りたい!」
「うん、葉っぱの耳も忘れずにね」とすちが答えながら、しゃがみ込んで一緒に作り始める。
らんは「お前ら、テンション高いなぁ」と呆れたように笑いつつ、こさめが作る雪だるまの手伝いを始めた。
「らんくん、ちゃんと目とか鼻とかつけてね!ボタンとかあったらよかったのに〜!」
一方その頃、寒がりのひまなつは……
「寒い……寒い……」と小刻みに震えながら、いるまの背中にぴったり張りついていた。
いるまは「あったかくしてやってんだから、文句言うな」と言いつつ、コートの中にひまなつの手を入れてあげる。
「ぬくい……」とほっとした声を出し、ひまなつはしばらくその場を離れようとしなかった。
「お前、雪遊びしないのかよ」
「いい、見てるだけで充分……」
「見て見て!うさぎのおめめ、赤い木の実にした!」
みことは作りかけの雪うさぎをすちに見せ、笑いかける。
こさめは「雪だるまにもマフラー巻いてあげたい!」と大騒ぎ。
穏やかで、ちょっとにぎやかな、冬のひととき。
6人はそれぞれのペースで、雪景色の中での時間を楽しんでいた。
___
すちは雪を手で丸めながら、そっと隣で夢中になって雪うさぎを作るみことを横目で見つめていた。
しゃがんだ拍子に白い息がふわりと舞い、みことの頬が真っ赤になっている。けれどその顔には、今までにないほど無邪気な笑顔が咲いていた。
——こうしてるのを見るの、初めてかもしれないな。
みことはどこか、自分の気持ちを後回しにしてしまうところがあった。人に気を遣って、感情を抑えて、我慢して。
笑ってはいたけれど、どこか遠慮がちで。まるで、自分の「好き」や「したい」があっても、それを表に出すのはまだ怖いって思っているみたいで。
けれど今、雪の中で、瞳をきらきらさせた表情は、まるで子どもみたいだった。
その姿に、すちは胸がいっぱいになる。
「……嬉しいな、こうして楽しそうにしてくれるの」
すちは静かに呟いた。
みことの純粋な笑顔が、冷たい空気よりもずっとあたたかく感じられて、すちは小さく微笑む。
「……かわいすぎる……」
ぽつりと呟いたすちは、雪を手にしていたみことの横顔をじっと見つめた。
赤く染まった頬、少しだけ息を切らせながら夢中で雪を丸める様子——その姿があまりにも愛しくて、
気づけば、ふいに顔を寄せてそっと唇を重ねていた。
「……ん……!?」
みことは一瞬、何が起きたか分からず目を丸くする。
「ふふ、ごめん。あんまりにも可愛かったから、つい」
照れたように笑うすちに、みことは赤くなって視線を逸らしたが、ふにゃっと微笑んだ。
その時——
「ちょっとちょっとぉ〜!今、キスしてたよね!?すちとみこちゃん!雪の中でロマンチックすぎかっ!」
騒がしい声とともに、こさめがパチパチと手を叩きながら近寄ってきた。
「じゃあ、こさめもやっちゃお〜っと!」
そう言って、隣にいたらんにぴょんと飛びつくようにして、頬にちゅっ。
「……こら、こさめ……」
らんは目を細めて、こさめの頭に手を乗せたが、どこか嬉しそう。
「ほらほら、みんなキスしちゃえ!雪の魔法ってことでさ!」
こさめの無邪気な言葉に、その場がふわっと笑いに包まれ、
降り続ける雪の中、心まであたたかくなるような時間が流れていた。
「俺らも……する?」
いつもの調子で、からかうようにひまなつを覗き込むいるま。
雪を踏みしめながら歩いていたひまなつは、きょとんとした顔で振り返り——
ふいに視線をそらしながら、ぽつりと小さく言った。
「……する」
その一言に、いるまは一瞬動きを止めた。
冗談で返されると思っていた。ふてくされて「ばかじゃね?」とか言うと期待していた。
だが、予想外の素直な返事に、思わず目を見開く。
「……お前、今、なんて?」
「聞こえてただろ……ばか」
頬を赤らめながら、上目遣いでにらむように見るひまなつ。
その姿に、いるまの胸がドクンと跳ねた。
「……チッ、かわいすぎんだよ」
ため息まじりに言いながら、いるまはぐっとひまなつの腰を引き寄せる。
周囲の音も、冷たい空気も忘れるように、唇を重ねた。
最初はそっと、確かめるように。
だが、ひまなつが小さく震えるように応えたことで、キスは徐々に深くなっていく。
吐息が混じり、鼓動が重なる。
ひまなつは逃げるでもなく、甘えるように目を閉じ、いるまの胸元をぎゅっと掴んだ。唇をゆっくり離し、お互い見つめ合う。
「……おい、なつ」
「ん……なに……」
「もう一回していい?」
「……ばか」
言葉とは裏腹に、目を閉じて首を傾けるひまなつに、いるまは再び唇を重ねた。
らんとこさめ、すちとみこは雪の木陰に身を潜め、ひそひそ声を押し殺しながらふたりの様子を見つめていた。
「やっぱり2人とも、めっちゃいい感じじゃん……!」
「こさめ、声デカいぞ」
「みことも普段は見せない顔するよね」
すには目を細め、みこは照れたように目をそらす。
4人はふたりの後ろ姿を見つめながら、冬の冷たい空気の中にも温もりを感じていた。
キスを終えたあと、ふと気配を感じたひまなつがぱちっと目を開け、ちらりと背後を振り返る。そこには木の陰からじーっと見ている4人の姿。
「……見てたのかよ!」
思わず声を上げるひまなつに、こさめが「えへへ〜♡いい感じだったからつい見守っちゃった〜」と悪びれもなく手を振る。
いるまも「あーあ、せっかくいい雰囲気だったのに台無しだな」と呆れたように笑いつつ、ひまなつの頭にぽんと手を置いた。
らんは「いや、あんまにも堂々としてたから、目が離せなかったんだよ」と言い、みことも「うん……なんか、きれいだった」とぽそりと呟く。
顔を真っ赤にしたひまなつは「ばかっ…!見んな!」と叫び、いるまの腕の中に顔をうずめて隠れた。
その姿にまた4人はくすくすと笑いながら、優しい空気に包まれていた。
___
雪だるまと雪うさぎが完成すると、こさめは「できたーっ!」と手を挙げてはしゃぎ、らんに向かって「見て見てー!」と嬉しそうにアピールした。
みこともそっと自分の作った小さな雪うさぎを手に取り、「すち、見て?うさぎさんだよ」と、子どものような無垢な笑顔で見せる。その顔に、すちは思わず微笑みながら「上手にできたね」と、やさしくみことの髪を撫でた。
ひまなつにも雪うさぎを差し出すように見せると、ひまなつは「……かわいいじゃん」と素直に笑みをこぼした。みことの無邪気な笑顔を見ていると、自然と心があたたかくなる。
すちは、みことがはしゃいでいる間に、自分も静かに雪を丸め始めていた。手先が器用なすちは、耳の角度やしっぽの丸みまで丁寧に整え、少しずつ愛らしい雪うさぎを完成させた。
「みこと、見て?」
できあがった雪うさぎを差し出すすち。
「わ……すちの、すごい綺麗。耳がちゃんと立ってるし、しっぽもふわってしてる……」
みことはぱぁっと顔を輝かせ、目をキラキラさせながらすちの雪うさぎを見つめた。
すちは照れくさそうに微笑みながら、
「2人で作ったうさぎ、並べようか」と提案する。
「うんっ!」と元気よく頷いたみことは、自分のうさぎとすちのうさぎをそっと両手で持ち、こさめが作った大きな雪だるまの横に並べた。
「まるで家族みたいだね」と呟くみことに、すちはふっと目を細めて「……そうだね」と優しく返した。
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