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「馬鹿な!?貴様、何を言っているのかわかっているのか!?」

唾を飛ばしながら怒鳴ってくるのはヘデン中佐だ。

見た目はどうでも良いけど…50歳くらいで短めの茶髪だ。ガタイも普通。

街ですれ違っても絶対気づけない自信がある。

怒っている理由には心当たりしかない。

向こうはこちらの要望には出来る限り応えるし、俺には軍の中でも上の方の階級を与えるという大盤振る舞いだ。

もちろん考えるまでもなく、丁重に即答した。

『無理』『イヤ』『帰る』


「悪いけど、何を言っているのかはわかっている。今回戦争に参加したのも偶々だ」

剣呑な空気になってきた為、ガゼルも現実に戻ってきてこちらに視線を向けてきた。

長く一緒に生活していると会話をしなくてもある程度の意思なら伝わる。

『悪いな』『セイの好きにしろ』

「……どうしてもか?お前みたいな奴をバルキメデスは他国に渡すつもりはないぞ?」

「そんな脅しはランクAの冒険者には通用しないな。代わりにこちらから願おう。

俺に関わるな」

俺が即答で断った時はあまりに予想外だったのか取り乱したが、落ち着いて話すとどうにか突破口を見出そうとしてくる。

流石中佐。この国の階級制度しらんけど。

翻訳が上手く機能しているのであれば、軍内ではかなり上の階級だな。

チャキッ

「待て」

後ろの部下たちが剣に手を掛けるも、中佐はそれを止める。

俺としては斬りかかられた方が話が早くて助かるんだけどな。

この一年の暇な時間を修行に費やした俺に勝てるとでも?

伊達に暇王と名乗ってないぜ?

暇王って言ってたのは聖奈さんたちだけど……

「動揺すらしないか……ここで事を起こせば、死ぬのは俺の方なのか?」

何で俺に聞くんだよ!!

「まぁ…そうだな。簡単に言うと、俺は剣も魔法も両方同じくらいの力量だと思ってくれたらいい」

むしろ身体強化の修行のやり過ぎで、 普通の魔法より得意なんだよな。

今も呼吸をする様に使ってるし。

剣の技量はお察しレベルだけどな。魔法でフォローするからいいんだよっ!

力こそパワーだ!!パワァー!

「嘘じゃねーよ」

真意を質そうとした中佐の視線に気付いたガゼルが聞かれる前に答えた。

「くそ…将軍の夢が…」

なんかブツブツ言い出したんだけど…呪いかなにかかな?

「いいか?俺達はトイレに行ってくる!いいな!?」

唐突にう◯こ宣言はやめて…笑っちゃうから……

そう言うと、部下に金貨を片付けさせてから退室した。

「じゃあ行くぞ」

「あん?何でだ?まだ話終わってないぜ?」

ガゼルを見ていると、少し前の自分を見ているようだ……

「あんなに気合い入れたう◯こ宣言なんてないだろ?今のうちに逃げろって意味だ」

う◯こ宣言…自分で言ってて笑いそうになるぜ……

まさか!?これが呪いか!?

「あ!なるほどなっ!」

「アホゼル」

久しぶりに聞いたナードの声がそれかよ…ホントに戦友か?

「俺達の為じゃなくヘデンの為だけどな」

「そうなんか?なんで?」

「セイと事を構えたら死ぬのはどちらだ?」

ガゼルはバックスの言葉に納得したようだ。

俺達は逃げ……ず、堂々と建物を後にした。

別に戦ってもいいし。だってどうせ追われるんだし。




案の定追っ手は掛かった。




暗殺・抹殺に来た戦士には悪いけど、脅威にならないから逃げも隠れもしない。

俺達はこの国の法を犯したわけでもないからな。

郷に入っては郷に従うつもりだけど、無法には従えない。

襲いかかって来た奴らは皆殺し……にした所で無限に襲われるだけだから、実は殺していない。

「俺はいつでもお前達の頭をヤレる。それをしっかりと伝えるのがお前の仕事だ」

恐らく冒険者ランクでいうとBくらいの手練れの戦士達を子供扱いし、無力化した後に決まって同じセリフを告げる。

「このまま国境を目指すから、そこで謝罪するなら許さないでもない。

いいか?お前達の頭にいうんだぞ?

来なければ必ず報復に行くと伝えるんだ」

バルキメデス王国がちゃんと国としての体裁を保っているのであれば、俺の事を調べられるはずだ。

ランクA冒険者のセイはバーランド王国の国王だと。

そして、その国王が出来ることはなんなのかを。






「セイ。もう少しで国境だぜ。ホントに大丈夫なんだよな?」

後30分程で国境に着くようだ。

ここに辿り着くまでに数日掛かって、追っ手は10組以上三百人程。

一度200人の軍団が来た時は殺してしまわないか心配だったけど、烏合の衆だったお陰で問題はなかった。

この世界は暴力程度であればそこまで重たい罪に問われることはない。だけど殺人は重い。

特に身分がバレやすく国際的に非難されやすい立場にある俺は、その辺りに気を使わなければならない……

俺個人だけなら別にいいんだけど、聖奈さんやミランに迷惑が掛かるのは出来るだけ避けたかった。

「そこは大丈夫だ。巻き込んでしまってから言うのは悪いけど、ガゼル達には迷惑を掛けたな」

「そんなもの気にするな。美味い酒を奢ってくれればそれでいい」

コクコクコクコク

「…その前に、お前達が奢れよ?無しにはならんからな?」

三人は目を見開き驚愕の視線をこちらに向けて来た。

「いや…何誤魔化そうとしてんだよっ!」

俺はツッコミよりボケ担当なんだよっ!


「見えてきたぞ」


いち早く正気に戻ったバックスが遠くを見て告げる。

「あらら…ホントに大丈夫なんか?」

「だから大丈夫だ。相手が何人いようと俺には転移魔法があるだろ?」

その気になればいつでも三人を抱えて逃げ出せる。

流石に同じくらい強い奴がいれば魔法の発動時間を稼げないけど、魔力視・魔力波魔力探知にその気配はない。

まぁ月から無限に近い魔力を供給されている俺からしたら魔力での強さもある程度しか分からず、この世界特有の素で強いライルの上位互換みたいな強者はわからんのだけど……

まぁそんなのがいたとしても聖奈さん曰く『そんな人は有名人だし、強者は権力に屈しないからつまらない問題ことには出てこないよ』を信じよう……

待てよ…これつまらないことだよね?

魔法の発動に時間が掛かることを知らない三人は安堵の表情を浮かべた。

そして街道こちらから見える国境には、夥しい数の兵士が待ち構えていた。

「1万人はいないな」

恐らく3000人くらいなんだろうけど、俺は野鳥の会の人達じゃないから全くの憶測だ。

そしてみんな一様に他国の方ではなく、こちらを向いている。

あれ?失敗したか?

そう思った時に3人がこちらへと向かって歩いて来た。

「どうすんだ?」

「向こうがどうするか、だな」

こちらに決定権はあるようでないからな。

しかし…あの3人はなんなんだ?

少なくとも今までに見たことがないくらいには魔力が……

目視出来る距離のため魔力視で確認した結果、聖奈さん達が俺を見た感想ほどじゃないにしろ、黒い何かが3人に纏わりついていた。

まだ距離は数百メートルはあるけど……逃げる準備をしといた方がいいかな?

そんな事を考えている間に、3人は声の届く距離まで近づいていた。

「き、貴様は何なのだ!?」

真ん中にいた明らかに強者のオーラを放っている剣を腰にさげた男が、驚愕しながらも問い質してきた。

「何なのだって言われてもな……とっくにご存知なんだろ?」

右から175.180.175くらいの身長だ。3人とも髪は珍しく黒い。

俺の問い掛けに向かって左の男が答える。

「バーランドの王なのだな?」

「そうだ」

俺の返答に後ろの3人からの驚いた気配を感じる。

うんうん!こういうのだよ!

水◯黄門が印籠を出した時のように助けた人達が驚く様!

ガゼル達は別に助けた人じゃないけど……

「一つ聞きたい」

黙って聞いていた向かって右側の一番細身の男が声を出した。

「なんだ?答えられることしか答えんぞ?」

3人は強者なんだろうけど、今の俺の敵じゃないから強気だ!

弱者には偉そうに!強者には媚びへつらう!

これが俺の生き様だぜっ!

一年前なら3人同時は厳しかっただろうな。よく頑張ったよ。

俺がアホなことを考えていると、聞きたいことが纏ったのか口を開いた。

「貴方は……魔王様なのですか?」

「はい?」


まおう?いえ。ただの王です。

〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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