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ピンポーン
ドアのチャイムが鳴った。
「やべっ、先輩かも」
「さすがに二時間も放置はまずいでしょ……早く行かなきゃ。私も、小雨になったしそろそろ帰るわ」
時雨くんは、まだ私を抱きしめたままだ。
「もう少し、このまま。ほら、雨の音、聞いて」
さっきより、小雨になってきた。でも、まだ聞こえる。
「どう? 雨の音、いいでしょ。僕は昔から好きなんだ。名前に『雨』がつくのもあるけどさ……」
「私は嫌いだった」
「でも、今は?」
また、チャイムが鳴る。
「おい、廿原! 何やってんだ!」
ドンドンと、ドアを叩く音。
私は、その音と声に反応して、思わず震えた。
時雨くんは、強く抱きしめてくれる。そして、少し離れると——
「待ってて。話してくるから」
そう言って、玄関へ向かった。
私が引き止めたせいで……部屋に上げてしまったせいで……。
私は耳を澄ませて、玄関のやり取りを聞いた。
「すみません、先輩。ちょっと頭が痛くて……」
「勝手に休むなよ。連絡しろ……て、そのヒール」
——あっ、私の……。
「ははん、女連れ込んでるのか。スーツケースまであるってことは……お取り込み中か?」
しまった……。
「そ、そうです」
——時雨くん!?
「はぁ、それはそれは……。一時間後には戻ってこいよ。仮病じゃなさそうだからな」
「はい……すみません」
バタン
ドアが閉まったのを確認して、私は玄関へ向かった。
「ごめん、時雨くん」
「さくらさん、謝ることないよ。じゃあ、駅まで送るから」
寮を出る頃には、雨はすっかり上がっていた。
そして——うっすらと虹が。
「綺麗……」
「だね。雨も、悪くないでしょ」
時雨くんが、スーツケースを持ち上げる。
「あ……ほら、スーツケース持つよ」
私は、うんと頷いて、スーツケースを渡した。