テラーノベル
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朝の光が差し込む廊下。澪は縁側で、朧の羽織を丁寧に畳んでいた。
(⋯⋯朧さんの香りがする⋯⋯)
ふわりと鼻先をくすぐる香りに、胸が少しだけ高鳴る。
そこへ、静かな足音が近づいた。
「澪さん。私の羽織を⋯⋯?」
「はい。少し乱れていたので⋯⋯」
朧は澪の隣に膝をつき、そっと手を添えた。
「ありがとうございます」
朧は嬉しそうににこり、と微笑む。
そして、再び口を開いた。
「今後⋯⋯私以外のものを触るときは⋯⋯断っていただけると嬉しいです」
朧は少しだけ顔を近づけ、囁くように言った。
「⋯⋯嫉妬してしまいますから」
「っ⋯⋯!」
澪の頬が一気に赤くなる。
その日、ふたりは庭の手入れをしていた。
澪がしゃがんで草を摘んでいると、朧がそっと後ろから手を伸ばし、澪の髪に付いた葉を取った。
「⋯⋯風でつきましたね」
「ありがとうございます⋯⋯」
「いえ。澪さんに触れる理由ができて、少し嬉しかったです」
「も、もう⋯⋯朧さん⋯⋯最近⋯⋯やりすぎです」
澪は照れながら、朧の袖をそっと掴んだ。
「嬉しい、ですか?」
澪はぼそりと、朧にしか聴こえない声で呟く。
「⋯⋯嬉しくないわけ⋯⋯ない⋯⋯じゃないですか
⋯⋯離れないでくださいね」
朧の顔が少し赤くなる。
朧はその手を包み込み、指を絡めるように握った。
「もちろんです。私は、あなたの隣にいるために存在しているのですから」
夕方、澪が屋敷の小間で妖たちと話していると、朧が静かに現れた。
「澪さん。楽しそうですね」
「はい。この子たち、不思議ですね。
急に現れて。小さくて、すっごく可愛いんですよ!
じゃれてくれたり、花の名前を教えてくれて⋯⋯」
「⋯⋯そうですか」
朧は微笑んでいたが、あまり嬉しそうではない。それに、その目は少しだけ鋭くなっていた。
妖たちが澪の袖にじゃれつくと、朧はすっと澪を引き寄せた。
「澪さんは私の花嫁です。あまり触れられると⋯⋯困ります」
「お、朧さん⋯⋯また嫉妬してます⋯⋯?」
「⋯⋯してはいけませんか」
「いえ⋯⋯ちょっと、嬉しいです」
朧は澪の耳元に顔を寄せ、そっと囁いた。
「では⋯⋯”仕返し”をしても?」
「し、仕返し⋯⋯って⋯⋯?」
朧は澪の頬に、ふわりと唇を落とした。
「⋯⋯これで、帳消しです」
「っ⋯⋯!」
澪は顔を真っ赤にして、袖でそっと頬を隠した。
その夜。ふたりは並んで布団に入り、静かに月を見上げていた。
「澪さん」
「⋯⋯はい」
「手を⋯⋯繋いでもいいですか」
「⋯⋯はい」
ふたりの指が絡まり、そのまま静かに眠りへと落ちていく。
(⋯⋯このまま、ずっと⋯⋯)
澪は朧の手の温もりを感じながら、そっと微笑んだ。
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