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この物語久しぶり???かな
ある日の昼下がり。屋敷の門の前に、見慣れない──けれど、どこかで見たことがある影が立っていた。
「⋯⋯あれ?」
澪が縁側から顔を出すと、制服姿の女の子が手を振っていた。
「澪ーっ!やっぱりここにいたー!」
「⋯⋯佐伯さん⋯⋯?」
水野は、澪の親友だった。学校を休みがちになってからも、何度か連絡をくれていた。
「もう、心配したんだからね!
先生も”このままだと出席日数が足りない”って⋯⋯」
「⋯⋯っ」
澪は思わず言葉を失った。
(⋯⋯そうだ。私⋯⋯高校生だったんだ⋯⋯
朧さんとの楽しい⋯⋯生活で、そんな事忘れてた⋯⋯)
「それにさ、最近⋯⋯先生が”保護者と話がしたい”って言ってて⋯⋯」
「保護者⋯⋯」
(⋯⋯私、どうすれば⋯⋯?)
その夜。
澪は縁側で、朧に今日のことを話していた。
「⋯⋯私、学校に戻らなきゃいけないかもしれません⋯⋯」
(正直、この生活から離れるのはすっごく嫌なんだけど⋯⋯)
朧はしばらく黙っていた。
「⋯⋯そうですか」
「⋯⋯朧さん?」
「あなたが⋯⋯人間の世界に戻るのは、当然のことです。私は⋯⋯止める資格など⋯⋯」
「違います!」
澪は思わず声を上げた。
「私は⋯⋯朧さんのそばにいたい。
でも⋯⋯学校も、大切なんです⋯⋯」
朧は、澪の手をそっと握った。
「⋯⋯あなたが選ぶ道を、私は尊重します。ただ⋯⋯」
「ただ⋯⋯?」
「あなたがいなくなると思うと⋯⋯胸が締め付けられるのです──」
澪は朧の手を強く握り返した。
「私、いなくなりません。ずっと⋯⋯高校に行く以外の間は⋯⋯
ずっと──ずっとずっと朧さんのそばにいます」
「⋯⋯本当ですか」
「はい。だって私は⋯⋯朧さんの⋯⋯”運命の人”⋯⋯朧さんの花嫁なんですから⋯⋯!」
朧の瞳が、静かに揺れた。
「⋯⋯信じています。澪さん」
翌朝。澪は制服に袖を通し、鏡の前で髪を整えていた。
(制服なんて着るのいつぶりだろう⋯⋯)
そこへ、朧がそっと現れた。
「⋯⋯似合っています」
「えっ⋯⋯」
「制服姿のあなたも⋯⋯とても綺麗です」
澪は照れながらも、朧の袖をそっと掴んだ。
(なんで朧さんは、こんな台詞をさらりと言えるんだろう⋯⋯
私には恥ずかしくて⋯⋯言えないや⋯⋯)
「⋯⋯行ってきます。でも⋯⋯帰ってきたら、また⋯⋯」
朧は澪の手を取り、そっと唇を寄せた。
「えっ⋯⋯」
「いってらっしゃいの⋯⋯です
⋯⋯これで今日から、頑張ってください⋯⋯毎日しますが」
「⋯⋯もう⋯⋯」
澪は顔を赤くしながらも、そっと微笑んだ。
「⋯⋯ただいま、って言ったら⋯⋯また、してくれますか?」
朧は一瞬驚いたような表情を見せ、静かに頷いた。
「もちろんです。何度でも」
「それでは⋯⋯行ってきます」
朧は澪に手を振り、澪もその手に振り返した。
すると──
「あの、澪さん⋯⋯」
澪は振り返り、”何でしょうか”と返事しているような表情。
朧は少し迷いながらも口にする。
「”ただいま、の口づけ”と、”おかえり、の口づけ”⋯⋯。
私達の習慣⋯⋯毎日の習慣に、しませんか⋯⋯」
澪は顔が真っ赤になる。
「⋯⋯はい。よろしく、お願いします⋯⋯。
毎日朝と夕方⋯⋯すっごく楽しみです⋯⋯」
澪は恥ずかしそうにしながらも言った。
朧は澪があまりにも予想外の事を言うので、驚いたような表情。
それと裏腹に、すごく嬉しそうな表情。
そして、澪に微笑みながら言う。
「⋯⋯私も⋯⋯毎日楽しみです⋯⋯」
朧は、再び澪の唇に優しく触れた──。