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ダフネって、とことん女は性悪だね。
「セレンとのことを……リリーに話したのか……?」
「ええ、大人のお付き合いをさせていただいたとお話ししたら……お姉様ったら初心でいらっしゃるのね。相当ショックを受けていらしたわ」
悪びれた様子もなく小首を傾げてみせるダフネに、ランディリックは腸が煮えくり返る気がした。
そんなランディリックの様子に気付いているのかいないのか。ダフネが、どこか楽しそうに、唇の端を吊り上げる。
「お姉様……思ったより何も知らなくて。私がランディリック様の養女になるって話だけでも、ずいぶん動揺していらしたのに――」
まるでそこで一拍、もったいつけるように言葉を止めてランディリックに視線を流す。
ためらいではない。明確にランディリックの様子をうかがうための〝溜め〟だ。
「……セレン様のお名前をお出ししたら、顔色が変わって……本当滑稽でしたの」
馬車が小さく跳ね、ランディリックの視線がわずかに揺れる。
「……セレンとのことは誰にも漏らさないという条件でうちの養子に……という約束だったはずだが」
つぶやいた声は、思ったより低くなっていた。
その声にハッとしたようにダフネがランディリックを見遣る。
「それはそうですけど……セレン様はリリアンナお姉様のことを好いていらっしゃるようでしたし。もしかしたら、お姉様も……だったかもしれないでしょう? 黙っているなんて卑怯だと思ったんです」
ダフネは言い訳がましくそこまで言って、「お姉様への〝優しさ〟のつもりでした」と瞳を潤ませる。
「優しさ?」
「はい。殿方はいくら誠実そうに見えても……完全に信じちゃいけないって……そうお伝えしたかったのです。だってお姉様、今日から正式に社交界デビューなさるのでしょう? そんなものだと知っていれば変に傷つくこともないじゃないですか」
――違う。
ダフネが言っていることは、貴族社会では確かに〝よくあること〟かも知れない。
だが、ダフネのそれは、ただ単に自己顕示欲を満たしたかっただけに過ぎない。
リリアンナがそれによってどれほど傷つこうと、気にしない者の悪意ある所業だ。
(今はまだどうなるか分からないから見逃してやるが……必要ない駒だと判断したら、即刻始末してやる)
そんなことを思いながらも、ランディリックの心はリリアンナの元へ向かっていた。
馬車は走り続けている。ペイン邸へ向かって、確実に距離を縮めながら。
だが、その一刻一刻が、今はひどく遠く感じられてしまう。
さっきは目の前の悪女をリリアンナから遠ざけたい一心で動いてしまったが、今頃リリアンナは一人あの場に取り残されて、一体どんな想いでいるのだろう。
今更のようにそのことに気がついたランディリックは、はやる気持ちをグッと拳を握りしめることでなんとか抑えた。
一刻も早くウィリアムに目の前の女を押し付け、馬を借り受けてでも、すぐさまリリアンナの元へ戻らねばならない――。