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「ねぇ透子」
「ん?」
「あのビルのさ、一番上にある看板見える?」
「ん?どれ?」
樹がそう言いながら指差しているビルの方向に視線を向ける。
少し離れたそのビルはちょうど視界が抜けて同じくらいの高さに見えるビルで。
そこに掲げられてる看板がちょうどここからよく見える。
その看板を見て、あることに気付く。
「あっ、もしかして、あの看板・・」
「気付いた?」
「REIジュエリーの看板、だよね?」
「そう。ここからちょうど見えるんだよね、あの看板」
確かにこの景色の中、辺りを見回すと、ふと目に入って来る。
「うん。ここからすごくよく見える」
その看板はREIジュエリーらしい洗練された美しい看板で。
私もよくここの看板を見かけて素敵な気持ちをもらえてた。
「ここの看板ホントに素敵で私も何度も見かける度、元気や幸せな気持ちもらえてたな~。こんなジュエリーが似合う女性になりたいって憧れて頑張ってた」
「透子もそんな風にこの看板見て思ってたんだ」
「もちろん。この看板も女性の憧れだもん」
「そっか。オレもまさかここからあの看板が見えるなんて知らなくてさ。親父の代わりに、仕事するようになってから、初めてこの屋上来るようになって初めて気付いたんだよね」
「そうなんだ」
「ここさ、親父のお気に入りの場所だったらしくてさ。神崎さんから聞いた話によると、親父時間空いたら、しょっちゅうここに何かあれば足運んでたらしくて」
「社長が?」
「そう。親父、こういうなの興味あるってオレも知らなくてさ。そんなにしょっちゅうここに来るほど、こういう場所気に入ってるなんて、ちょっと意外でオレも驚いたんだけど」
「すごく素敵な空間だもんね。ここ。ホントに居心地いい。社長こんな感じの今まで好きとかじゃなかったの?」
「全然。自宅の庭も別にそこまでこだわってるワケじゃないし」
「樹も知らない空間だったんだ」
「そう。それにあの場所からさ、あの看板が見えることも、ここ来て初めて知って。なんかね」
「そっか。社長、もしかしたらずっとこの看板見ながら、REIKA社長のこと想ってたのかも」
「・・・やっぱそう思う?」
「うん。きっとそうだと思う。ずっとホントは想い続けていた社長の気持ち、直接ずっと伝えられていない分、ここでいろいろ考えていたのかもね」
「あの看板もさ、調べてみたら、創業当初からずっとあそこに飾ってあるんだって」
「そうなんだ。でも確かにあの看板、ずっとあの場所にあるんだよね。他のREIジュエリーの看板はさ、もっと街中の目立つ場所に何個か飾ってあるのに、あの看板だけずっとあそこにあのままで。他の看板に比べてそこまで目立つ場所じゃないんだけどさ、私も電車だったり、近く通った時にこの看板見るのが好きで、毎回見るのが習慣になってた」
「そっか。この看板もずっと昔の透子に力与えてくれてたんだ」
「そうだよ。REIジュエリーにはホントいろいろ力をもらってた」
「なんかさ。偶然かもしれないけど、なんかここでずっと二人がどんなカタチであれ存在してるのが気になってさ」
やっぱり樹は、それぞれの気持ちを気にしてる。
憎み合って別れた二人ではなく、お互いのことを想って選んだ別れ。
私と樹もいつしかそうなったように、今ならその切ない気持ちがわかる気がする。
「樹?あの看板がずっとあそこにある意味。あると思わない?」
「あそこにある意味?」
「そう。ずっと変わらずにあの場所にある意味。そして社長がここに何度も来る意味」
「それって・・」
「うん。多分お互い気持ちを伝え合えてなくてもさ。お互い変わらない気持ちをここで確認し合っているような、そんな気がする」
「そっか・・・。やっぱりそうなの、かな」
「うん。なんかここにいてあの看板見てるとさ、力もらえるんだよね。この景色の中でさ、あの看板は変わらずにあの場所でずっと存在していて輝き続けている」
「確かに。神崎さんがたまにこの屋上に親父呼びに来た時に、いつもこの場所で景色眺めてたって言ってた」
「ね。やっぱりそういうことだと思うよ」
ホントはお互い想い合っているのに。
そんな切ない想い方が、少しもどかしくて。
「社長とREIKA社長。二人だけで会ったりすることとかないの?」
「二人で?ないんじゃないかな。お互いがオレにそれぞれ今はどんな近況なのか確認してくるくらいだし。それで親父は親父で、母親支えてやれっていうし、母親は母親で父親の力になってやれっていうし。用事あればオレに伝言頼んで来るくらいだからね。お互い連絡取らないように決めてるのか知らないけど」
「そう、なんだ。なんか寂しいね」
「まぁね。だからオレもたまにもどかしくなる時ある。なんとなくお互いの気持ちそれなりに伝わって来るしさ」
「そっか。樹も感じるくらいなんだ・・」
「さすがにね。特に今は透子とこうやっていろいろあったワケだし。それでいろいろ気付き始めたというか」
「それまでは気付かなかったの?」
「うん。正直透子と出会うまでは、オレもいい加減な生き方しかしてこなかったし、誰かのことを想って気に掛けるってこと自体そもそもその時のオレにはわからなかった。お互い親の立場でオレにただうるさく言ってくるだけなのかなって思ってたし」
「そっか。その時の樹もわからなかったんだ」
「それに親父に対してはさ、オレもそれまでは常に反抗的で親父の気持ちも理解しようともしてなかったからさ。それこそもっと昔は母親を傷つけた父親って思い込んでたから」
「でもそうじゃなかったんだよね?」
「うん。その親父のホントの気持ち聞いたのも、大変な状況になってこの前ようやく聞けてわかったことだったしね」
「社長もきっと樹には余計な心配かけたくなかったんだろうね」
「そうなのかね」
「社長もREIKA社長もお互いを想い合ってるからこそ、樹には心配かけたくないから何も言えなくて、お互いホントのこと言わなかったんじゃないかな」
「かもね。今はオレもそうなのかなって思う」
「それだけで二人共嬉しいと思うよ」
「ならいいけど。でも、そういう相手を想うからこそ、言わないことだったりさ、言えないことだったり。離れる決断もあったんだなって、今のオレだからわかったというか」
「そう、だね。私たちと同じ状況だったのかもしれないね」
「理由や状況は少し違うけど、でもお互いの気持ちを優先したいとか、お互いのことを想って選択しなきゃいけないことだとか、そういうのは親父たちと同じような気がしてさ」
「うん・・・。きっと同じだね」