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それから暫く歩いて、何個か食べ物を買って、一度休憩しようと近くのフードコートに移動した。
五木と対面する形で座ると少し温くなったカフェモカのカップをテーブルの上に置くと、先程屋台で追加で買った唐揚げに目を落とした。
一口噛み締めれば、衣はサクッとしていて、中に入っている鶏肉はジューシーでとっても美味しい。
ふと五木に目をやると、彼はまだ暖かいホットコーヒーを啜っていて、追加で買ったたこ焼きをパクパクと頬張っている。
「さっきチキン上げたんだから、たこ焼きちょっとくれてもよくなーい?」
物欲しそうにそう言うと、五木は「仕方ねぇな……」と言って
たこ焼きを一つ爪楊枝に刺して「ほれ」と差し出してきた。
たこ焼きの前まで顔を近づけぱくりとそれを咥えると、口内にソースの甘さが広がった。
「んー!おいひい」
「はっ、食いながら喋んなっての」
そう言いながら可笑しそうに眉を下げる五木。
なんだかその表情に思わず見蕩れてしまい、慌てて顔を逸らす。
「あ?火傷でもしたんか?慌てて食うからだろ」
「は!?ち、違うし!」
数十分後…
ゆっくりと立ち上がった五木は「ちょっとトイレ」と言って席を離れていった。
私は五木の帰りを待ちながら、少なくなってきたカフェモカを最後の一滴まで啜った。
すると突然後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには見知らぬ男子が立っていて。
多分、同世代、五木と変わらないぐらいの背丈だ。
嫌な予感がしたけれど、無視するわけにもいかない。
「あの、なんですか?」
そう言うとその男は徐に私の隣に腰掛けてきた。
その距離の近さに思わず後ずさるけれど、今は五木も席を外れていて頼れる人間がいない。
それどころかどんどん詰め寄られてしまう。
「いいじゃん。俺と一緒に遊ぼうよ」
「い、嫌です!離してくださいっ!」
力加減というものを知らないのか、男に強い力で手首を掴まれる。
「…っ!痛い!やめてったら…っ!」
そう言って精一杯の力で男の手を振りほどく。
「ちっ…痛ぇじゃねえかよ!!」
大きな声にビクっと身体を震わせたそのときだった。
「おい、てめぇ何してやがる」
五木の声がその場に響き渡る。
「げ…だ、誰だようるっさい声だな…」
「あ?うちの連れになんか用でもあんのか?」
五木は私達のところまでゆっくりと歩いてきて、男の腕を掴むとそのまま捻り上げた。
「な、なんでもないです!」
男は情けない声を上げて地面に倒れ込む。
「女に手上げてんじゃねえぞクズ」
そう言って五木は逃げるように屋台の奥に走り去っていった男を睨みつけるだけだった。
「雫。悪ぃ、大丈夫か」
名前を呼ばれてハッとする。
「う、うん。大丈夫…」
五木は私の顔を見るなり大きなため息を吐き出した。
「震えてんじゃねえか」
「だ、だって!急に大声出されて…」
「ったく、しゃあねえな」
そう言って五木は私の手を掴むとスタスタと歩き出した。
「え!ちょ、ちょっと…どこ行くの?!」
「いいから黙って着いてこい」
少し乱暴な口調だけど、手はしっかりと握られていて。
その手は確かに温かくて安心した。
そのまま暫く歩くと街のシンボルのように大きなクリスマスツリーが見えてきた。
それはライトアップされてとても幻想的で
思わず見惚れてしまう程に綺麗で、視界いっぱいにキラキラと輝くイルミネーションに思わず感嘆の息を漏らした。
「凄く、綺麗なツリー…」
五木はそんな私の様子を見て安堵したような、優しい声色で言う。
「震え、ちょっとは落ち着いたみてぇだな」
そう言って私の頭を撫でる手はやっぱり大きくて。
それがどこか心地よくて目を細めた。
それから暫くツリーの下のベンチに座って他愛ない会話をした。
そんな時間が楽しくて仕方がなくて、ずっとこうしていられたらいいのになんて思ったりして。
「そうだ、五木…!プレゼントって、ここで渡してもいい?」
不意に気になってそう尋ねたけど、すぐに口篭った。
ていうか、覚えてる?なんて聞くと、それを遮って「ん」とだけ言って目の前にクリスマス包装紙でラッピングされた細長い長方形の箱を差し出してきた。
「…持ってきとるわボケが」
「え!う、嬉しい…用意してくれてたんだ?」
「ったり前だろ、お前こそ俺のちゃんと持ってきとんだろーな?」
「あるし!ほら、これ。五木が気に入るものかは保証できないけどね」
そう言って私も用意していたプレゼントの入った紙袋を彼に渡す。
「お前から貰えりゃなんでもいーんだよ」
すると五木はどこか真剣な顔つきで
「サンキュ…もう開けてもいいんか?」
「うん、てか同時に開けよ!」
そう言って互いに貰ったプレゼントを開封する。
五木の渡してくれた包装紙を丁寧に剥いでいくと出てきたものは
愛らしいテディベアがセットになった、ハートのネックレスだった。
「うわ!これ友達の間で話題になっててめっちゃ欲しかったやつだよ…!えっなんで分かったの?!」
そう伝えると彼は照れくさそうに言う。
「あ?たまたまだわ」
そう言ってそっぽを向く五木だけど、それが照れ隠しだってことくらい長い付き合いなのだから分かってしまう。