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両親が営む小さな工場の敷地内にも桜の木があって、子どもの頃、いつも友達と日が暮れるまで遊んだ。
ひときわ存在感を示すその木は、みんなの安らぎの場所になっていた。
つらいことや悲しいことがあった時、両親と一緒に眺めては、
『春の一瞬の間しか咲かない桜は、散りゆく最後の瞬間まで、何の文句も言わずにただ一生懸命美しく咲いている。散っていくその時でさえも美しい。私達も人生何があろうと最後の最後まであきらめることなく真面目に生きていこう』
と、励まし合った。
小さな頃はあまりわからなかった意味も、大人になるにつれ、段々と理解できるようになった。いろいろな経験を積めば積む程に、その言葉の重みを肌で感じるようになり、人生を歩む難しさを痛感していった。
決して裕福ではないごく普通の家庭だったけど、何があっても元気に生きてこられたのは、そうやって桜の木に誓ったから……
それが今も私の原動力になっているのは間違いなかった。
花をつける春も、散ったあとでさえ、常に何かを教えてくれる桜の木が、自分が選んだ職場にもあるなんて……本当に私は「桜」に縁があるんだろう。
何だかとても不思議だ。
そして……
今、また私の家族に大変な試練が訪れている。
ずっと私のことを支えてくれた大切な両親。
2人が守ってきた祖父の代から続く工場の経営が、存続の危機に陥っているのだ。
取引先の急な倒産が響いているらしいけれど、何度聞いてもお父さんは私に詳しい理由を教えてはくれなかった。
娘に余計な心配をかけたくないのだろうけれど……
車の部品などを扱う、従業員10名ほどのいわゆる中小企業。
ものづくりに関して絶対に妥協を許さず完璧にこなす職人気質のお父さんと、それを支えたお母さんと、家族みたいな従業員達。
命とも言える製品と従業員の生活、そして家族、全てを守るために「今、どうしても工場をつぶしてしまうわけにはいかない」と言ったお父さんの気持ち。
それは私にだって痛いほどわかる。
両親のピンチは私のピンチ。
だから、一緒に乗り越えたいし何か応援したいと強く思っている。