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第5話:決別と決意
場所は、廃棄された旧都市地下、通称“ノイズホール”。
時代遅れの交通管制センターを改装したその空間に、二人の碧族が向かい合っていた。
一人は、ゼイン。
銀白の短髪に、黒とグレーのタクティカルスーツ。
背に装着された演算杭が微かに蒼く脈動し、右手にはデータコードの光が走っている。
もう一人は――ナヴィス。
背はゼインと同じくらい。
長い黒髪は三つ編みに束ね、白銀の装束の上に淡い碧布のケープを羽織っている。
彼女の瞳は、深い夜のように静かで、その奥でわずかに光が瞬いていた。
「本当に、“共存”なんて信じてるの?」
ナヴィスの声は、冷たいが優しさを帯びていた。
「信じてない。ただ、それしか選べないだけだ」
ゼインは応える。
その口調は淡々としていたが、確かな意志があった。
彼は、データプレートをナヴィスに渡す。
「中国側のフラクタルネットワーク構造。
あいつらは碧族を兵器として囲い込み、自我を初期化して使ってる」
ナヴィスが目を細める。
彼女の指先でプレートが起動し、情報の光が展開された。
その瞬間、彼女の周囲に薄い記号の輪が浮かび始める。
《PREVIEW = INTERFERENCE_SIGNAL(MIND_SCOPE)
→ 対象データ干渉準備完了
「これで、“概念感染”が可能になる。
思考の杭に、疑問を流し込むわ。気づける者だけでも救える」
ゼインは頷き、静かに言った。
「――やれ。お前のやり方で“揺らせ”。
火種を起こすなら、制御じゃなくて、“意志”で」
ナヴィスの瞳が揺れる。
「ゼイン、あんたも変わったわね。
昔なら、黙って撃ち込んでたくせに」
「今も撃てる。けど、撃った先が空っぽじゃ意味がない」
その時、すずかAIの声が割り込んできた。
「ナヴィス、ゼイン。
中国側にて、“第二型兵器碧族”の大量展開が確認されました。
命令依存型ではなく、自律反応型に移行しつつあります」
ナヴィスは目を伏せる。
「それって……彼らが“感情を持ったまま”戦わされるってことよ」
「肯定。これは、戦争ではなく“人格操作実験”の拡張です」
ゼインは静かに立ち上がった。
「なら、今しかない。
命令に従うだけの碧族が、意志を持った時――
戦場は、命で塗り替えられる」
ナヴィスはゆっくりと歩き出す。
彼女の周囲に、青い花弁のようなコードの粒子が舞い始める。
それは、記憶のかけらであり、問いを含んだ言葉の種だった。
《CODE = THOUGHT_SEED(“Why do I fight?”)》
→ 拡散範囲:兵器碧族全域
→ 起動条件:葛藤
ナヴィスは振り返らず、ただ言った。
「じゃあ、私は“揺らす”。
そっちで、杭を止めて」
ゼインは、その背中を見送りながら、静かに言葉を返した。
「行ってこい、ナヴィス。俺たちは、“選ぶ側”だ」