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人魚姫

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人魚姫

30 - 霧

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2025年10月16日

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小瑪の鎖骨の中心には、白熱した輝きを放つ一粒の玉がある。

「それが何か、ご存知ですか?」

冷ややかな声に、ルーシャンは答えられず、ただ目を見開いていた。

それは、“人魚の玉ぎょく”と呼ばれる、人魚の心臓である。宝石と同等、いや、以上に美しく、戦後は人間の間で売買されていた。

その“玉”を小瑪が所持しており、しかも“玉”の半分は身体に埋まっているではないか。

「…私の心臓」

渇望の呟きに、ルーシャンは顔を上げた。

『……貴方、の…?』

「ええ」

ということは、いま謎の人の身体に心臓はない…

何故、心臓のない器で立っていられるのだ?

「嘘ではありませんよ」

ルーシャンの心を察したのか、くすりと鼻を鳴らした謎の人。短剣の刃をなぞり、手に持て余す。

と、ようやく小瑪が正気を取り戻し、ようようの体ていで身体を起こした。

『! 小瑪…大丈夫?』

ルーシャンはぎこちなく小瑪を支える。

「…貴男は変わりませんね。私の“玉”の影響を受けているとはいえ…その髪の色と瞳は…」

謎の人は腕を組み、力なく面を上げた小瑪を嘲あざけった。

「…君も…」

小瑪は、ルーシャンの支え手から離れ、膝をついた状態で両腕を前へ伸ばす。億劫そうに、けれど確実に。

「変わらない…」

謎の人の顔を両手で包み込む。

「触らないで下さい!」

払いのけようとする力に逆らい、両手を上へ滑らせた。

「やめ───!!」

キャスケットを掴み、謎の人が拒むのも構わず、取り上げる。

ルーシャンは思わず後退あとじさり、口を張った。“声”があったなら、確実に悲鳴を上げていた。

謎の人はキャスケットを奪われた瞬間に両掌で顔を覆ったが、ルーシャンは見逃さなかった。キャスケットから零れたのは、艶を失くした長い白髪はくはつ。バサバサに乱れ、そこここで絡まっている。露わになった貌は、皮膚がガサガサに乾燥してしまい、罅割ひびわれ、爛ただれていた。

あまりの醜さは直視しかね、恐怖から引き攣ったように這い退さがるルーシャン。

謎の人は両手で貌を隠していたが、意味のない行為だと思ったのだろう、

「ハッ!」

短い嘲声を発し、ダラリと両手を下ろした。

「よく言いますね! 貴男に“玉”を奪われ、私はすべてを失いました! 変わらない? 貴男の目は節穴ですか!?

…気がついたら、何もなく…あったのは、この短剣だけでした!!」

謎の人はカッと目を開き、短剣を振り翳す。

「私は待ちました…すべてを取り戻すまで!」

「…エミール…」

吐息と共に流された音に、ビクンと反応をする謎の人。

ルーシャンは愕然とした。

(あの絵の、人魚…?)

謎の人が、あの美しい人魚エミール。

輝く美貌は醜く歪み、かつての面影はまったくない。

(…本当、に…?)

小瑪が言うのだから真実なのだろう、が…信じられない。

「───」

謎の人は慄え、凍り付けになったかのように、その場から動かない。

「エミール…」

小瑪は柔らかく両腕を広げ、エミールに近付いた。

「───ッ…」

エミールは奇妙に双眸を眇め、ゼイゼイ喘ぐ。

小瑪に抱いだかれたエミール。

ルーシャンは胸が潰れる思いだった。

(そんなモノを抱かないで…!

私を見て!

そんなモノより、私の方がずっと、ずっと綺麗!

私だけを、見て──!!)

どす黒い激情が、ルーシャンの心を支配する。

ルーシャンは、激情が爆発してしまわないように胸元を押さえた。

そして、

『!!』

息を呑み、小瑪の背に顔を覗かせている短剣の切っ先を認める。

エミールが握り締める短剣は、深々と小瑪の左胸を貫いていた。

『あ、ああ…あ…』

頭の中が真っ白になる。沸き起こった激情でさえ、姿を消した。

『さ、小瑪ぇ───!!』

ルーシャンは息だけの悲鳴を上げる。



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