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週明け、ツルスへ出発することになったアルメリアは、向こうで過ごしている両親に会うのも楽しみにしていた。
ツルスまで急げば一日でたどり着く距離だが、今回は荷物も多く馬を休ませながら行くことになり、二日かかけて行くことにした。
朝から馬車に揺られ、日が沈む前に一日目は山間部のオビュラという小さな町で、一泊することになった。
アルメリアは、お世話になる領民に挨拶を済ませると割り当てられた部屋で足を伸ばした。
そこへアウルスが訪ねてきた。
「ずっと馬車に乗っていたから、体が痛いだろう? 少し散歩にでて体を伸ばさないか? 実はオビュラの人に訊いたら、今の時期ランプまつりをやっていて中央広場にランプツリーがあるそうなんだ、行ってみるか?」
「楽しそうですわね。是非行ってみたいですわ」
「よし。じゃあ行こう」
アウルスは、領民から装飾の凝った可愛らしいランプを手渡されると、アルメリアの手を引いてゆっくりと田舎道をあるく。
ランプまつりとは、オビュラで毎年一週間開催されているもので、その開催のきっかけには騎士たちが関わっていた。
その昔ロベリア国の騎士たちが任務を果たすために、ランプを大量に必要とした。そこでオビュラの町の人達は町中にあるランプをかき集め、すべてを騎士たちに貸し出したそうだ。
騎士たちはランプを借りることができたお陰で、無事に任務を果たすことができた。
騎士たちはこの町にとても恩義を感じていた。
その後この町が山賊に襲撃したさいに、騎士たちは恩を返すために、城下からいち早く駆けつけると、命をかけてこの町を守ったそうだ。
それから町の住民はその騎士たちの献身に感謝し、ランプまつりを開催するようになったそうだ。
ランプまつりということもあり、道には一定間隔にランプが置かれている。そして、町の家々の軒先にはアンティークなランプが吊るしてあり、その景色はとても幻想的だった。
行き交う人々も、手にランプを持ち楽しそうにしており、アルメリアはそんな祭り全体の雰囲気を楽しんだ。
そうして、その町並みを進んてゆくと、突然開けた場所に出た。
「あれだ」
そう言ってアウルスが指差す方向をみると、たくさんの様々なランプが吊るされた木があった。
「わぁ、本当に素敵ですわね……」
「そうだね、本当に素晴らしい」
「ランプ祭りのことは聞いてはいましたけれど、こんなに素敵なまつりだとは思いませんでしたわ」
アルメリアがそう言ってそのツリーを見上げながら微笑むと、アウルスはアルメリアを見つめる。
「良かった。私がロベリアに訪れて久々に君にあってから、君は少し元気がなかったようだったから、その笑顔が見れてほっとした」
そう言って屈託のない笑顔をアルメリアに向けた。アルメリアは自分の勝手な感情でアウルスに心配をかけてしまったことを、申し訳なく思いながら言った。
「そんなふうに見えましたのね、申し訳ありませんでした」
アウルスは苦笑する。
「謝ってほしいわけではない」
そう言うと正面にあるツリーを見つめながら、続けて言った。
「君が笑顔であればいいんだ」
アルメリアはその言葉に胸の奥がぎゅっとした。そして、無言でツリーを見つめる。アウルスは、そんなアルメリアの横顔を見つめながら質問した。
「以前話していた、初恋の相手は君に優しかったか?」
変な質問をすると思いながらアルメリアは答える。
「はい。幼いながらも、私には優しくしてくれたと思いますわ」
その返答にアウルスは嬉しそうに頷いた。
「そうか、君の初恋の思い出が良いものでよかった」
なせそんなことを聞くのか困惑しながらも、もしかしてアウルスは自分が、初恋の相手であるシェフレラのことでのろけたくて言っているのかもしれないと気づき、アウルスにも初恋の相手の話をふる。
「アウルスの初恋の相手はどんな方ですの?」
するとアウルスは少し考え、いたずらっぽく笑うと言った。
「怒るとよく『まぬけ!』って叫んでたな」
アルメリアは驚いて思わず質問する。
「その方、ご令嬢ですわよね?」
アウルスは声を出して笑った。
「そうだ。彼女は立派なレディだ。だがどんな相手にも怯むことなく向かって行く、素晴らしい女性だ。お転婆なところもあって、それもとても愛らしかった。凛としていて、真っ直ぐで。当時の私にとって彼女は高嶺の花だった。いつかは彼女に見合う身分になって、彼女を迎えに行こうと心に決めていた。だからこそ今の自分がある」
アウルスは現在、皇帝という最高権力者の地位にいる。そんなアウルスが身分の話をするのを少し不思議に思ったが、考えてみるとその昔、帝国で後継者問題があり揉めているということを聞いたことがあったのを思い出した。
アウルスには弟がいて、元々体の弱く側室の子どもであるアウルスより、弟のほうが地位を継ぐのに相応しいという意見が強く、問題になったことがありかなり揉めたと噂で聞いている。
結局、弟が行方不明となり兄であるアウルスが帝位を継いだようだが、その間アウルスは虐げられていたのかもしれないと思った。
それに、アウルスがシェフレラを思う気持ちはとても深いものだと再実感する。
「そうなんですのね、それってとても素晴らしいことですわね」
アルメリアはそう言って笑顔で返すのがやっとだった。
「ありがとう」
アウルスにそう言われ、アルメリアはなにも返せずにツリーを見つめた。
次の日ツルスにあるクンシラン家の屋敷に到着すると、直ぐに両親に会った。
「お父様、お母様ご無沙汰しております」
「アルメリア、よくきたわね。私は貴女に会いたかった。体の弱いお母様を貴女は許してくれるかしら?」
「お母様、許すもなにもこちらに滞在するようすすめたのは私ですわ。お母様の体調がよくなればそれに越したことはありません」
「アルメリア、ありがとう」
アジュガが涙を拭いながらそう言うと、その後ろでグレンが微笑む。
「アルメリア、お前のお陰で母様は今とても調子が良くなったのだよ。ありがとう。私は、そんな賢い娘を持ったことを誇りに思っている」
「お父様、ありがとうございます」
アルメリアは両親に褒められ嬉しくなり、泣きそうになるのをこらえた。と、そこでグレンが戸惑いながら言った。
「アルメリア、お前に言っていなかったことがあってね。後で会わせたい人物がいる」
「そうなんですの? それでは、あとでの楽しみにしますわね」
アルメリアは会わせたい人物の検討がつかず少し困惑したが、笑顔で答えた。