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13時過ぎ。

コベリの港の端にある水産加工所へと到着した。

ゆっくり入口扉を開けた俺達の鼻に飛び込んできたのは、魚独特のにおい。


どうやらここは獲れた魚を選別したり、加工したりするための作業場のようだ。

多くの老若男女がせわしなく動き回ったり、威勢の良い声が飛び交ったりと、せわしなく働いている。




何となく人々の勢いに圧倒された俺がつぶやく。


「……忙しそうだな。これ、声かけてもいいんだろうか」

「いいんじゃない? 13時から15時ならOKって言われたしさー」


テオは明るく言うと、遠慮なくツカツカと作業中の男性に近づき声をかけた。


「こんにちはー。船舶案内所の紹介で来たんだけど、オーナーっている?」

「おうっ! 紹介状はあんのか?」

がっしりした漁師風の中年男性は手を止め、元気よく答える。


「もっちろんっ!」

紹介状を見せるテオ。

男性は「おし、ちょいと待ってろ!」と言い残し、奥へと消えていった。





「な、平気だったろ?」


テオはくるっと振り返り、俺へと笑顔を見せる。


「……そうだな」


迷った自分は何だったんだろうと考えてしまうほどの、清々すがすがしいまでの思い切りのよさ。

やたらと幅広いテオの交友関係は、こういう感じで築いてきたものなのかもしれないなと薄っすら思う俺だった。






程なくして、酒焼けしたかのような刺々とげとげしい声が耳に響いてきた。


「アイツらかい? アタイに会いたいってのは?」


反射的に声のほうへと向き直った俺とテオが見たのは、飾り気の欠片かけらもない男物の服を着用した30代中盤ぐらいの女性


硬そうな毛質の焦げ茶の髪は無造作に短く切り揃えられ、まくったシャツの袖から見える筋肉質な腕も、不機嫌そうな顔も小麦色に日焼けしている。

どしっとした存在感が『いかにもリーダー格と言わんばかりの貫録を放ち、実際以上に彼女を大きく見せている。




先程取り次ぎを頼んだ中年男性が質問に答える。


「ああ、あいつらだ」

「そうかい……アンタは仕事に戻んな」

「あいよっ!」


彼は短く答えるとすぐ、何事も無かったかのように作業を再開。

その姿をチラッと見てから、女性は俺達へと声をかけてくる。


「待たせたね。とりあえず表に出な、話はそれからだ」







言われるがまま、俺とテオは無言で加工所の外に出た。

最後に女性が入口扉を閉めると、辺りに静けさが訪れる。




「……アタイがこの加工所のオーナー、マルガレーテ・コッツァだ」

「俺はテオドーロ・コーディー。で、こっちはタクト!」

「タクト・テルハラです」


笑顔で自己紹介したテオに続き、俺はぺこりとお辞儀をする。

マルガレーテは眉一つ動かすことなく話を続けた。


「……用件はなんだい?」

を出してほしいんだ。これ、船舶案内所からの紹介状ね!」

「よこしな」


テオから紹介状を受け取ったマルガレーテは腰からスッと短刀を抜き、封筒の隙間に差し込み開封。中から数枚の紙を取り出すと、乱暴に広げて読み始めた。



黙って大人しく待つ俺達。



ややあって「……ふーん、向こうの大陸にねぇ……」とマルガレーテが小さくつぶやいた。

彼女は手紙から目線を離さぬまま、ぶっきらぼうに聞いてくる。


「……アンタら、向こうの大陸の現状は知ってんのかい?」

「はい、多少は」

「魔物の動きが活発になってるらしいねー」

「その通りだ。向こうにはこの辺りなんかとは比べ物にならないぐらい狂暴な魔物が出るって話で、生半可なヤツじゃやられちまうのがオチさ……“それでも”」


ギロッと俺達をにらみつけるマルガレーテ。




「……“向こうの大陸に、渡りたい”ってのかい?」


あまりにも鋭い彼女の眼光。

ドスのいた太い声。




思わずごくりと唾を飲み込むテオと俺。

顔を見合わせうなずいてから、マルガレーテのほうへと向き直って同時に答えた。


「渡りたいです!」

「渡りたい!」



俺達とマルガレーテとの視線がぶつかり、そしてそのまま沈黙が流れる。






数秒後。




「……合格だ」


ゆったり柔らかな声と共に、マルガレーテがにやっと笑った。




「え……? 合格……って?」


不思議そうに首をかしげるテオ。

マルガレーテは穏やかに答える。


「向こうの大陸に行きたいんだろ? 船で連れてってやるってことだよ」

「……ホントに?」

「ああ」



テオの顔がぱぁっと明るくなった。



「やったーありがとー!」

「ありがとうございます!」


飛び上がらんばかりに喜ぶテオ。

深々と頭を下げる俺。


「……悪かったねぇ、試すような真似して……大事な大事なアタイの船に、気に入らねぇ奴を乗せたくなんかねぇからよぉ……」


マルガレーテは気まずそうに視線を外し、加工所の外壁にもたれかかった。



先程までと別人のような彼女に、テオが興味津々な顔で話しかける。


「それにしても、なんかマルガレーテってさ――」

マルガと呼んどくれ。その方が言いやすいだろ?」


テオの言葉を遮るマルガ。

「じゃ遠慮なく!」とテオは笑い、もう1度言い直した。



「なんかマルガ、さっきとずいぶん雰囲気変わったね。丸くなったっていうかさー」

「こっちのほうがさね……ここに初めて来る男共はねぇ、どいつもこいつも女のアタイがオーナーだと分かった途端、舐め腐ってコロッと態度を変えてきやがる……だからさっきのあれは、舐められねぇための芝居みたいなもんさ……」


マルガは寂し気に微笑むのだった。






実は俺だけは、元々マルガの事を知っていた。

なぜなら彼女もまた、ゲームにおいてプレイヤーの行動次第でパーティメンバーに加えられるキャラの1人だからだ。


訪問客を試すようなマルガの行動も、ゲーム内で起きるイベントでそっくりそのまま見ることができるため、どう答えれば彼女が納得するのかも全て分かっていた。

そしてテオならばマルガの機嫌を損ねるような行動はしないだろうと確信していたからこそ、俺は事前に何も伝えていなかった。




だが先程の彼女が見せた“芝居”には想像以上に凄みがあって……事前に知っているはずの俺でさえも、思わず気圧けおされてしまうほどの迫力だったのだ。


ブレイブリバース~会社員3年目なゲーマー勇者は気ままに世界を救いたい

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