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#chance
22
#生成AI
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夜霧が、ソネリーノ邸の門を白く呑み込んでいた。
午前二時。
普段ならカジノ帰りの高級車が滑り込み、部下たちの怒号や笑い声が飛び交う時間帯だ。
だが今夜は違う。
雨上がりの石畳を、ひとりの男がふらつきながら歩いていた。
「……は、」
靴先が水たまりを踏む。
泥に汚れたスーツ。乱れた髪。頭には雑に巻かれた白い包帯。
チャンスだった。
いつもの、余裕に満ちた笑みはない。
人を食ったような視線もない。
代わりにそこにあったのは――途方に暮れた獣みたいな顔だった。
重厚な門が開く。
「……誰だ」
低い声。
黒いコートを翻し、現れたのはマフィオソ。
フェドラ帽の影から覗く鋭い目が、夜霧の中の男を射抜いた。
その瞬間。
チャンスの瞳が、かすかに揺れた。
まるで長い暗闇の果てに、ようやく探していた灯りを見つけたみたいに。
「……あ」
ふら、と歩み寄る。
マフィオソが眉をひそめるより早く、チャンスはそのコートの裾を掴んだ。
ぎゅっ。
「……見つけた」
「……は?」
マフィオソの懐中時計のチェーンが、ジャラリと鳴る。
「おい、離せチャンス。何の芝居だ」
「芝居……?」
チャンスは困ったように目を伏せた。
「……分からないんだ」
「何?」
「何も。名前も、どこから来たのかも」
かすれた声だった。
いつもなら相手を挑発するために使う低音が、今は妙に弱々しい。
「でも……お前を見た瞬間だけ、胸が熱くなった」
マフィオソのコートを掴む指に、力がこもる。
「……お前だけは、離したくないって思った」
「……………………」
沈黙。
その後ろで、
「ボス危ねぇッ!!」
ソルジャーが半泣きでバールを構え、
「包帯ごと叩き潰しますか?」
カポが鉄パイプを肩に担ぎ、
「典型的な潜入工作ですね」
コンシリエーレが冷え切った声を落とす。
だが。
チャンスは全部聞こえていないみたいに、マフィオソだけを見ていた。
その視線が妙に真っ直ぐで。
妙に、縋るみたいで。
マフィオソは思わず言葉に詰まる。
「……お前、本当に覚えてないのか」
「うん」
「俺が誰かも?」
「分からない」
チャンスは少し笑った。
「でも、お前に触ってると安心する」
「っ……!」
その一言で、マフィオソの耳まで一気に赤くなる。
後ろでラクティーが小声で、
「うわ、ボス真っ赤」
「言うな」
「聞こえてますよー」
「貴様ら黙れ!!」
怒鳴った瞬間。
チャンスがびくっと肩を震わせた。
完全に怯えた顔。
そして小さく、
「……怒らないで」
って呟く。
「…………」
終わった。
マフィオソの理性が、ちょっと揺らいだ。
その日から。
ソネリーノ邸は地獄になる。
なぜなら記憶喪失(仮)のチャンスが、ありえないほど甘えたになったからだ。
♢
「マフィオソ」
「何だ」
「隣座っていい?」
「もう座ってるだろうが!!」
執務室。
気づけば肩が触れる距離にいるチャンス。
しかも無意識なのか、やたら距離が近い。
近いし。
見つめてくるし。
たまに服を掴む。
「お前、何故そんなにくっつく」
「……お前がいないと落ち着かない」
「っ、」
「あと、お前いい匂いする」
「言うな!!」
部屋の空気が爆発する。
「ボスに嗅覚向けてんじゃねぇ!!」
「斬ります」
「僕まだ匂い嗅いだことないのに!」
「何の争いだ貴様ら!!」
カオス。
完全にカオスだった。
だが一番問題なのは。
マフィオソ自身が、ちょっと絆され始めていたことだった。
夜。
誰もいない廊下。
「……マフィオソ」
振り返ると、チャンスがいた。
包帯姿のまま、静かに立っている。
「眠れないのか」
「……うん」
チャンスはゆっくり近づく。
そして。
マフィオソのコートの袖を、また小さく掴んだ。
「……お前がいないと、不安になる」
「…………」
反則だろ、こんなの。
昼間のあの男なら絶対言わない。
だからこそ破壊力がえぐい。
マフィオソは深くため息をついた。
「……五分だけだ」
「?」
「隣にいてやると言っている」
チャンスの目が、ぱっと明るくなる。
その顔を見た瞬間。
マフィオソは心の底から理解した。
(……駄目だ。完全にペースを握られている)
♢
そして数日後。
その“答え合わせ”は、真夜中の執務室で行われる。
「――で? いつまでその芝居を続けるつもりだ、チャンス」
静まり返った部屋。
マフィオソが低く呟く。
すると。
ソファに寝転がっていたチャンスが、くつくつ笑った。
「……いつから気づいてた?」
昼間の甘えた声じゃない。
いつもの、余裕たっぷりの悪い男の声だった。
マフィオソの眉間に青筋が浮く。
「やはり演技か……!!」
「いやあ、でも効いただろ?」
チャンスは包帯を外しながら笑う。
「“怒らないで”の辺りとか」
「貴様……!!」
「あと“隣いてやる”って言った時、顔めちゃくちゃ優しかった」
「殺すぞ」
「でも追い出さなかった」
「…………」
図星。
チャンスは立ち上がると、ゆっくりマフィオソへ近づいた。
「なあ、ボス」
逃げる暇もなく。
ぐ、と壁際へ追い込まれる。
「記憶喪失の俺、結構可愛かっただろ?」
「黙れ」
「世話焼いてくれたし」
「黙れ」
「毎晩様子見に来てくれたし」
「黙れと言っている!!」
チャンスは吹き出した。
そして。
怒鳴るマフィオソの帽子を、そっと持ち上げる。
露わになる、真っ赤な顔。
「……ほんと、ポーカーフェイス下手」
「うるさい……」
「そんな顔されたら、もっとからかいたくなる」
至近距離。
吐息が触れる。
マフィオソが睨み上げる。
だがチャンスは楽しそうに笑うだけだった。
「安心しろよ」
低く囁く。
「記憶は失ってなかったけど――お前しか見えてなかったのは、本当だから」