その人が姿を現したのは、桜庭が病室を出て行ってから、すぐのことだった。
見るからに高級そうな品のいいダブルのスーツを着こなし、コツコツとシューズの音を響かせながら、入ってきたその人は、私の存在に気づきながらも、私を見ずにベッドの横に立った。
しばらくの間、無言でおじいちゃんを見つめ、やっと口を開いた時も、その人の目には私は映らない。
「どんな調子だ?」
「え!?」
まさかそんなことを訊かれるなんて想像もしていなくて、あからさまに驚いてしまった。
「あッ、今は疲れて眠っていますが、最近は調子がいいみたいです」
「そうか」
相手がこちらを見ない代わりに、その横顔をチラリと盗み見る。
高くすっと通った鼻とか切れ長の目元、眉毛の形や眉間の皺まで、私のよく知っているあの人の横顔とよく似ていて、やっぱり親子だなぁなんて、あたりまえのことを考えていたとき、やっとその目に私が映った。
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