テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
巨大な橙色牙の王と俺は、間合いを詰めるわけでもなく睨み合っていた。両者がまるで武士の達人の如く、一歩でもミスをすれば命に関わると本能的に察知してのことだろう。奴も馬鹿ではない。自分の肉を喰ったと認識してから、俺のことを得体の知れない何かだと認識したようだ。
俺はこの腕刀である大剣を維持するのにエネルギーが消費している感覚を覚える。そのため、腕刀である大剣以外の形態変化を解除して構え直す。背中に生えていた二枚の羽が黒い砂の様になって空気へと流れていった。
奴を見ると、ガチガチと牙を打ち鳴らす様に噛み合わせを確認している様だ。開幕から俺は初手でぶっ飛ばすつもりでいた。いきなり大技を喰らわせるつもりだ。奴がこちらに攻撃する前に動いた。
橙色に輝く牙のような大剣を、腕を大きく振りかぶるように上げた。そして大剣を後ろに下げ、遠心力で地面に思い切り一段叩きつける。地から砂埃が舞い、姿が一瞬見えなくなる。その反動で沈んだ大剣を弾む様に身体を飛ばす。後から大剣が重力に反して浮き上がる。ハンドスプリングで宙に舞った俺は、奴を上から見下ろす。
奴は一連の動作に遅れて反応していた。まさか地面をいきなり叩くとは思わなかっただろう。砂埃で視界を遮られたことと、叩いた瞬間に地面に注視しすぎているのか、俺が宙に舞っていることに気付かず辺りを見渡していた。
はっ、ガラ空きだな。
死角から、後頭部直上から唐竹割りをお見舞いするぜ。大剣を真っ逆さまに落ちるように腕を下に向ける。後は重力によって切り落とすはずだった。
巨大な橙色牙の王はいきなり、こちらを向いた。
奴は俺の大剣を牙でがっちり挟む。加速度的な大剣を受け止めた反動で後ろ足が後ずさる。奴は噛み砕く予定だったのだろうが、同じ硬度で出来ており、砕くはずが自身の牙にもヒビが入る。勿論こちらもタダではない。亀裂が刀身の先から上腕の装甲部まで走った。
巨大な橙色牙の王はそのまま歯牙で挟んだ大剣ごと地面に叩きつけようとする。
(くそ、二刀流だ、宿れ――刃虫)
挟まれた大剣ではない左腕を、細身の太刀の様な腕へと形態変化させた。ヒビが入った歯牙の部分に左腕の刃をぐりぐりとこじ開ける様に入れ込み、切り離した。
挟んでいた歯牙が欠け、右腕が解放される。
俺はそのまま宙へ翻り、両腕の刀を突き刺して這う様に奴の顔から頭へと渡る。
巨大な橙色牙の王は、叩きつけるはずだった俺に逃げられ苛立つ。自分の頭に移動されてしまったことから、頭から振り落とす様にブンブンと振り回す。
「うお、落ち着けよ!」
グラグラと揺れる頭。二刀の腕を分厚い頭の皮膚に突き刺し、振り落とされない様に耐える。こいつ、俺を振り解くつもりか。
巨大な橙色牙の王は振り解けないとわかったのか、岩場に突進して俺を岩場に衝突させるつもりらしい。こいつ、いきなり走り出しやがった。あの岩場にぶつける気か。
はっ、馬鹿が。お前がその気なら、それを利用してやるさ。
岩場と激突する瞬間、二刀を頭から抜き回避する。瞬間、奴は岩場に激突する。凄まじい轟音と、岩が爆ぜて粉々になり砂塵が舞った。ざまあみやがれ。相当なダメージが入ったんじゃねえか、こりゃ?
巨大な橙色牙の王は衝突した岩から歯牙を抜いて振り返る。何だ、怒ってんのか?奴は声を荒げてこちらに口を開けて突進してきた。
「ゴガァア!」
「ははっ!正面衝突ってわけか!面白え!」
正面から向かい入れる。俺は大剣でガードするが、地面を抉りながらスライドしていく。地面に二本の線が浮かび上がる。
ガチガチと大剣を歯牙で挟む。軋むような振動が伝わる。
俺はもう片方の腕を刀から解除し、本来の腕に戻す。
そして歯牙の隙間、奴の口の中に生身の腕を突っ込んだ。
「そんなに食べたいか? そんなに味わいたいか? じゃあ、味わわせてやるよ!」
ガチガチと、巨大な橙色牙の王は大剣を噛み砕こうとするが思う様にいかない。大剣が軋むたびに歯牙が貫通していき、そこから出血が流れ出る。
やべえ、流石に俺も体力の限界だ。ここで決めねえと……
互いに叫び合い、声が共鳴して空間が振動する。生身の腕をできるだけ奥へやる。
「宿れ――刃虫」
形態変化していく腕を突き立てていく。刀へと変化する腕は口蓋を貫通し、脳天へと近付く。更に変化した腕は頭蓋骨を突き破り、刀身が露わになった。
(断面図イメージ)
巨大な橙色牙の王の眼が虚ろになり、光が失われていく。瞳孔がゆっくりと開き、噛みついていた顎の筋肉の緊張がなくなり、項垂れるように倒れていった。
「勝った、ははは、勝ったぞ」
その姿は、夕陽に輝く歴戦の戦士そのものだった。陽射しに照らされた血液は橙色に光り輝いていた。
力を使い果たした俺は形態変化を解除して地面へと倒れる。やばい、動けない。頑張りすぎたな。サブ、ごめん、もう暫く待ってくれ……
暫くすると、ザッザッと足音が聞こえてきた。
「一体何なんですか、これは!?」
一人の女性が驚愕の声をあげている。
「処置をするんだ。おい、あんたゲンさんじゃないか。こっちはサブだ、岩に挟まれてる。クラッシュ症候群に気をつけるんだ。水を飲ませないといけない。一人は川で水を! 大丈夫だ、ゲンさん。今から助けるからな。」
俺は意識が朦朧とし、男が安心できる相手だと分かり、微かに開けていた目を閉じた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!