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朦朧とした意識の中、誰かが語りかけている気がした。 暗い、暗いまどろみの中で、俺はわずかに目を開ける。
誰かが、呼んでいる。
闇の奥で、朧げな光がじわじわと集まり、やがて一つのシルエットを形作った。
『私の声が聞こえますか? 私の名前は……です。……の子孫を……止めねば……なりません。私の……が聞こえる……あなたの……たす……必要が……あります……』
頭が痛い。
誰かが深層意識の奥深くから直接語りかけてくる。
少女のような、女性のような輪郭だけは分かる。それ以外は曖昧だ。
声も途切れ途切れで、はっきりとは聞き取れない。だが――助けを求めていることだけは分かった。
困っている人を放っておけない。
それが俺だ。
助けてやりたい。
体は動かない。だが、どうやら口だけは動かせるらしい。
(ああ……助けてやるよ)
『!?』
『よかった……ボクの……を……ありがとう……』
少女の光り輝いていたシルエットが、ふっと黒い粒子へと変わる。
先ほどとは打って変わって、禍々しい気配が漂う。
黒い粒子は渦を巻き、俺を呑み込むように集まり、体を埋め尽くしていく。
(なんだ……!? 一体どうなってやがる……!)
顔まで覆われ――そこで、俺の意識は完全に途切れた。
◇
「おーい、ゲンさん。聞こえてっかー?」
俺の名前を呼ぶ声。草原で救出してくれた男だ。
さっきの出来事が夢だと分かり、俺はほっと息をついて返事をする。
辺りを見渡すと、どうやら村まで戻ってきたらしい。見慣れない部屋だが、おそらく男の家だろう。
「ああ、平気だ。変な夢を見たくらいだな」
「夢? まあ、二日も寝てりゃ見るか。どうせリンさんにどやされる夢だろ?」
「いや、そんなんじゃねえよ。……そうか、二日も寝てたのか」
十分眠ったおかげか、体の調子は驚くほどいい。
男を何気なく見る。茶髪で長身、きりっとした一重が特徴的な顔立ち。
村の仲間で、俺と同い年の――イバだ。
気さくに笑うイバの顔を見ると、体に残っていた緊張がすっと抜けていく。
どっと疲れが押し寄せた。
そこへ――
「あら、気がついたのね!」
明るい声とともに入ってきた女は、籠を抱えている。中には果物がたくさん詰まっていた。甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。
黒髪の――ラナだ。
ラナはイバの伴侶で、いつも狩りでは行動を共にしている。
あのとき草原で会ったのも、狩りの帰りだったのだろう。
奴があの場にいてくれて、本当に助かった。
でなければ相当な被害が出ていたはずだ。狩猟班が全滅まではいかなくとも、大きな痛手になっていたに違いない。
「そういえば、お前ら子供が生まれたって言ってなかったか? なんで二人して狩りに出てたんだ?」
二人には、俺の息子ソウと同じくらいの子供がいるはずだ。
「今日は娘の誕生日なの。二人で最高のご馳走を届けようと思ってね。近所の人が“面倒は見るから行ってきなさい”って」
ラナは満面の笑みを浮かべる。
隣でイバが腕を組み、うんうんと頷いた。
なるほど。だからテーブルには果物やパイ、こんがり焼いた肉が並んでいるのか。
「それは助かるな」
「ゲンさん。単刀直入に聞くが、あの場で何があった?」
イバが真剣な顔になる。
「ああ。俺とサブが散歩がてら森林を歩いていたら、でかい鳥もどきに出会った。見たことのない種類だったから平原近くまで確認しに行ったんだ。生態調査のつもりでな。そしたら岩場にバガールの死体が山積みになってた。見に行った瞬間、橙色の牙の竜に待ち伏せされたってわけだ。たぶん、あいつが原因で鳥もどきや他の生き物も逃げてきてたんだろうな」
「そうか……本当に生きててよかった」
「二人とも血塗れだったんだから。本当に……」
「こちらこそ、助けてくれてありがとうな」
しんとした空気が流れる。
俺は耐えきれず話題を変えた。
「そういえば、サブは?」
「怪我が酷くて、村長が直々に治療してるわ」
「そうか。様子を見てくる」
「えっ、もう動くの!?」
ラナは驚きで声が上ずる。
「まだ安静にしてたほうが――」
「いや、すこぶる調子いいぞ?」
イバが目を見開く。
「待て。あんた複雑骨折してたんだぞ。……って、治ってる!? 形態変化も無しに再生したってのか!? 何者だよあんた!」
「いやいや、褒められてもな。元は同じ一族だろ? そのうちお前らもできるんじゃね?」
「「えええええ!?」」
イバとラナが同時にのけぞる。
目が飛び出さんばかりの勢いだ。
いや、そのリアクションのほうがすごいだろ。
「まあ、とにかく看病ありがとな。今度埋め合わせする。娘ちゃんの誕生日、邪魔しても悪いしな」
俺は手をひらひら振り、扉を開けて外へ出た。