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【時間の妖怪とある大人の物語。】
神社の門の上。
古い木が軋む音と、風に揺れるしめ縄の音。
僕はそこに座って、足をぶらぶらさせながら空を見ていた。
「……あー、今日も人間は忙しそうだな」
夕暮れ。
境内を急ぎ足で通り過ぎる人たちは、誰一人として僕に気づかない。
まぁ、当たり前か。
僕は時間を操る妖怪。
九尾さんからもらったこの力は、**お守りを持つ人間にだけ**僕を見せる。
僕の指先で、見えない時計の針が回る音がする。
カチ、コチ。
一秒を伸ばすことも、止めることも、巻き戻すこともできる。
「……お」
その時だ。
神社の石段を、慌ただしく駆け上がってくる足音。
「来た来た」
僕は門の上から身を乗り出す。
胸元で、かすかに光るお守り。
——九尾さんの気配。
「……駿」
駿(しゅん)は、息を切らしながら境内の真ん中で立ち止まった。
周りを見回して、それから、まっすぐ僕を見上げる。
「いた……」
「おー、久しぶり。相変わらず時間に追われてる顔してんな」
僕はニッと笑って、門からひらりと飛び降りた。
地面に着く直前、時間を一瞬だけ止める。
落ち葉が空中で静止して、音が消える。
「……もう限界だろ?」
駿は苦笑いする。
「……頼みに来た」
「だろーな。で?何分欲しい?」
「……十分。いや、五分でいい」
「欲張らねぇなぁ」
僕は駿の前に立って、指を鳴らす。
パチン。
世界の音が、すっと消える。
風も、人の気配も、遠くの車の音も。
駿と僕だけが、止まった時間の中に残される。
「なぁ駿」
「……ん?」
「人間ってさ、時間足りなさすぎじゃね?」
駿は少しだけ黙ってから、肩をすくめた。
「足りないんじゃなくて……追いかけすぎなんだと思う」
「へー」
僕は感心したように頷く。
「九尾さんが選んだ理由、ちょっと分かったかも」
駿は驚いたように僕を見る。
「……九尾さん、元気か?」
「相変わらずだよ。お前のこと、たまに見てる」
「……そっか」
駿の表情が、少しだけ緩む。
その顔を見て、僕は一瞬だけ時間の針を遅くした。
「はいはい、じゃあサービスな」
「え?」
「五分じゃなくて、七分な。ヤンチャな妖怪の特権」
「なんだ、その中途半端な時間。」
「いいじゃねぇか、ラッキーセブンだぞ」
「…まぁ…ありがとう」
「礼はいらねーよ」
瀬名 紫陽花
MIRAN@新作短編集公開!!
11,158
僕は門の方へ歩き出す。
時間を戻す準備をしながら、振り返って言う。
「でもさ、駿」
「?」
「頼りすぎんなよ。
時間止めても、進むのはお前だからな」
パチン。
音が戻る。
風が吹き、落ち葉が地面に落ちる。
駿は現実の時間へと戻っていく。
僕はまた、神社の門の上に座る。
「……さて」
足をぶらぶらさせながら、呟く。
「次に来る時は、もうちょい余裕ある顔して来いよ、駿」
カチ、カチ、カチ。
今日も僕は、
時間の狭間で、人間を見守っている。