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【初めて駿がお守りを貰った日】
夕暮れの神社は、いつもより静かだった。
鳥居の影が長く伸び、風がわずかに葉を揺らす。
僕は門の上で退屈そうに足をぶらぶらさせながら、地面を見下ろしていた。
——今日は特別な日。
石段を一歩ずつ、慎重に上がってくる人間がいる。
スーツ姿の大人。背筋は真っ直ぐだけど、どこか疲れている。
——駿だ。
彼は足を止めて、深呼吸する。
手の中には、紙で包まれた小さな箱。
その箱には、九尾さんの印が光っていた。
「……あ、見えた」
僕は心の中で笑う。
普段は誰にも見えないのに、今日から駿だけが僕を認識できる。
初めて見る目の輝き——それは、驚きと少しの戸惑いが混じった色。
「……これが、お守り……?」
彼は、恐る恐る僕を見上げた。
僕はニヤリと口角を上げ、門の上から飛び降りる。
「お、よく来たな。九尾さんから貰ったんだろ?」
「……え、あ、はい」
駿は少し顔を赤くして、箱を握りしめた。
僕はその手元に目をやり、時間をほんの少しだけ遅くする。
——そう、初めてお守りを通して人間に見える瞬間の、わずかな緊張の揺らぎ。
「……これで、俺の時間、少し操れるの……ですか?」
「おう。でも、使いすぎんなよ。
力は便利だけど、なくてもお前はちゃんとやれる」
僕の言葉に、駿は小さく息をつく。
その表情は、いつも見せない弱さ——でも、少し誇らしげでもあった。
「……九尾さんが……お前に会わせたかったんだと思う」
僕はそう言いながら、肩をすくめる。
「まぁ、これから色々教えてやるよ。ちょっとヤンチャだけど、時間のことなら任せろ」
駿は頷き、少しだけ笑った。
その瞬間、僕の中に新しい感覚が芽生える。
——守るべき存在。
——時間を止める対象じゃなく、共に歩む相手。
「……ありがとう」
その言葉は、静かな神社に柔らかく響いた。
僕はもう一度、時間をほんの少しだけゆっくり流して、駿の周りの空気を優しく包む。
「礼はいらねぇよ。だって、これからお前と俺は——仲間だからな」
カチ、カチ、と時計の針が鳴る。
神社の空気は、ゆっくりと夜の色に染まっていく。
僕は門の上に戻り、ふわりと足をぶらぶらさせながら駿を見下ろす。
——初めての、時間を共有する日。
——僕は、その日から駿を特別に思い始めていた。
瀬名 紫陽花
MIRAN@新作短編集公開!!
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