テラーノベル
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とある美少女が、衣服を身につけずに鏡の前に立っていた。
まだ夜明けすぐの早朝。カーテンの隙間から差し込む薄い光が、彼女の白い肌を青白く照らしている。鏡に映った身体は、まるで生きた花畑のようだった。真っ白な肌のそこかしこに、真っ赤な薔薇がいくつも咲き誇っている。鎖骨の下、胸の膨らみの脇、腰の曲線、太腿の内側。蕾から開ききった花まで、大小さまざまな薔薇が、彼女の体温を得て緩やかに息をしていた。緑の蔦が手首から肘へ、足首から膝へと巻き付き、棘が浅い赤い跡を残している。
「……ううん」
彼女は小さく呟き、自分の肩に咲いた一輪を指先で摘まんだ。綺麗だ。誰が見ても綺麗だと思う。でも、困る。確かに能力を授かった。願いを聞いてくれた声が、今も耳の奥に残っている。可愛い女の子を飾りたい、薔薇の香りと痛みと快楽で包みたい——その夢想が、現実になってしまった。自分の身体から薔薇が咲き、蔦が伸びる。学校の可愛い女の子たちにも、同じものを咲かせたくなって、やってしまった。
甘い香りが薔薇から立ちのぼり、嗅いだ女の子を静かに眠らせる。だから、作業自体は思ったより楽だった。中庭の十字架も、丸い台座も、夜の間に運んでおくだけ。眠っている間に蔦を絡ませ、制服を少し乱し、朝の光が当たる位置に置いておく。詩織さんも、結衣さんも、遥さんも、みんな綺麗だった。——彼女の中の「好き」を満たしてくれた。
でも、甘い香りに誘われて虫が来てしまうとは思わなかった。
アリが砂糖に群がり、蝶が汗を吸う。あの光景は、彼女の想定外だった。本当に、ごめんなさい、と思う。痛みや快楽は意図したものでも、虫にまで触らせるつもりはなかった。次からは、砂糖の量を減らすか、香りを少し抑えようか。そんな反省が、朝の鏡の前でゆっくりと巡る。
彼女は棚から剪定ばさみを取り出した。
冷たい金属の感触。一輪、また一輪と、自分の肌に咲いた薔薇を切り落としていく。茎を切るたびに、微かな甘い匂いが室内に広がる。蔦も、根元から丁寧に切り離す。棘が指に触れて、小さな血が滲む。それでも手を止めない。全部、落とす。落とさないと、制服の下で膨らんでしまうし、授業中に香りが漏れたら終わる。寝ている間にまた咲き誇ってしまうのだから、毎朝のこの作業は欠かせない。
切り終わった身体を、念入りにチェックした。
鏡に映る肌は、また真っ白に戻っている。赤い花の跡も、蔦の巻いた痕も、朝の光の中ではほとんど目立たない。触っても、もう蕾は出てこない。今日は大丈夫。少なくとも、登校するまでは。
彼女は切り落とした薔薇を、小さなガラス瓶に詰めた。
水は入れない。香りだけが密閉されるように、蓋をきつく閉めた。この瓶の中の薔薇を、そっと嗅がせれば、女の子は眠ってしまう。眠った女の子の身体には、同じ薔薇が咲き、同じ蔦が絡まる。自分が選んだ子に、自分が選んだ場所で、自分が選んだ「飾り」を施せる。それが、この能力の使い方だった。
「今日は、どの美少女にしよう」
鏡に向かって、彼女は小さく笑った。お気に入りの子か。それとも、まだ手を付けていない違う子か。活発な子か、静かな子か。胸の大きな子か、華奢な子か。考えるだけで、胸の奥が熱くなる。瓶をカバンの奥にしまい、制服に袖を通す。白いブレザーの下で、今日も何も咲いていないことを、もう一度だけ確認した。
能力を授かった美少女は、窓の外の薄明かりを見た。
学院の一日が、また始まろうとしている。誰も、彼女の肌の下で眠る薔薇のことを知らない。誰も、瓶の中の香りが次の「作品」を作ることを知らない。彼女はカバンを肩にかけ、静かに部屋を出た。
続く。
コメント
3件
うわ、この第82話……めっちゃ重いし、めっちゃ綺麗で、鳥肌が立ちました🥀 薔薇が自分の身体から咲いて、毎朝切り落としながら「今日の美少女は誰にしよう」って微笑むの、怖いけど美しすぎる。鏡の前で自分の作品を愛でる感じと、剪定ばさみの冷たさ、瓶に詰めた香りの密閉感。好きのベクトルが歪んでるのが静かに伝わってきて、胸がぎゅってなった。 続きめっちゃ気になります……次の「作品」、誰になっちゃうんだろう🌙
猫とろ
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恵
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観察者
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星キラリ

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