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仕事終わりの楽屋、最後に残ったのは目黒と向井の二人だった。
外はあいにくの雨。窓を叩く水滴の音が、静まり返った部屋にやけに大きく響いている。向井はソファの端に座り、自分のカメラをいじりながら、さっきから一言も発していない。いつもなら「めめ、見てーや!」とうるさいくらいに絡んでくるはずなのに。
「……康二、帰らないの?」
目黒が声をかけると、向井はびくっと肩を揺らし、ゆっくりと顔を上げた。その瞳が少し潤んでいるのを、目黒は見逃さなかった。
「あ、めめ。……ん、もうちょっとこれ整理してから帰るわ」
嘘だ。 目黒は確信した。康二がこういう顔をする時は、大抵、自分の中で消化しきれない不安や寂しさに飲み込まれている時だ。
目黒は迷わず康二の隣に腰を下ろした。ソファが沈み、二人の肩が触れ合う。
「……なんかあった?」 「なんもないって。ただの、雨のせいや」
強がる向井の指先が、わずかに震えている。目黒はその震える手を、大きな自分の手で包み込んだ。
「っ……、めめ?」 「康二、俺に隠し事できねぇよ」
目黒の低い声が、向井の心の防波堤をあっさりと崩していく。向井は視線を落とし、絞り出すような声で呟いた。
「……俺、ちゃんとできとったかな。今日の収録、もっと盛り上げられたんちゃうかなって……。みんなの足、引っ張ってへんかな……」
バラエティ担当として常に先陣を切る向井。その明るさの裏には、繊細で脆い「素」の彼がいつも隠れている。目黒は何も言わず、そのまま向井を自分の方へ引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
「わっ、……ちょ、めめ、苦しい……」 「いいから。そのまま聞いて」
目黒の胸の鼓動が、向井の耳に伝わる。
「康二がいないと、グループの空気はあんなに柔らかくならない。俺も、康二が笑ってくれるから頑張れるんだよ。……お前は、お前が思ってる以上に、俺らにとっても、俺にとっても、必要なんだから」
「……ほんま?」 「ほんと。嘘つかないって知ってるだろ」
向井の顔が、目黒の胸元に埋められる。やがて、シャツの胸あたりがじわりと熱を帯びて濡れていった。目黒は、康二の細い背中をゆっくりと、宥めるように撫で続けた。
雨音はまだ止まない。けれど、二人の間には、外の寒さを忘れさせるような琥珀色の温かな空気が流れていた。
「……めめ」 「ん?」 「……このまま、あと5分だけ。このままでいさせて」 「5分じゃ足りないかも」
目黒は少し意地悪く笑って、向井を抱きしめる腕に、さらに力を込めた。