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優しくなんてしねぇからな。
その言葉通りにこの男──淀川真澄は、一ノ瀬四季を手酷く扱った。
ただ無感情に、物を相手取るように、人並みに人肌の温かさはあるが、その行為は全く人の営みを感じさせなかった。
その無機質な交わりは今の四季にとって酷く都合が良かった。
「なぁ、何で相手してくれんの」
終始こちらを見ようともしない真澄へと、四季の声が投げかけられた。まるで尋ねても答えは返ってこないのを分かりきったような、寂寥感のある声だった。
「テメェが言い出したんだろ」
ぽつりと存外に返された答えに四季は諦めの表情を浮かべ、脱ぎ捨てられくしゃくしゃになった自分の隊服のジャケットを手繰り寄せた。
ポケットに存在を隠すように仕舞われていたスマートフォンを引っ張り出すと、一件だけ通知が入っていた。見慣れた人物名に四季は大きく溜め息をつき、気怠い身体を起こしてジャケットに袖を通した。
「………そろそろ帰んねーと」
「けっ、せいぜい必死に隠すこったな」
「隠す必要なんてないだろ……」
どうでも良さげな、まるで自暴自棄になったその呟きに、真澄は窺うようにしばし無言になると徐に立ち上がって部屋のドアを開けた。
「んな事どうだっていいんだよ……とっとと帰れ」
開けたドアを顎でしゃくって早く出て行けと態度で示す。その瞳は全く四季を映そうとはしない。此処、真澄の部屋に訪れてから一度も合わない視線に四季は何とも言えない気持ちに陥った。
自分は間違った事をしているのだろうか。
その問いに応える者は勿論誰もおらず、四季は見えない答えに見切りを付けて部屋を後にした。
「なぁ、今日も行っていい?」
ふと耳許に落とされた言葉に真澄は静かに声の主を見やった。いつもの明快な様子は鳴りを潜め、仄暗い瞳でこちらを覗き込んでいる。
またかよと真澄は呆れを含んで小さく呟き、四季を振り切るように歩みを進めた。そんな真澄を引き止めようと、四季の指が真澄のジャケットの裾を握り込んだ。途端引かれ、真澄は舌打ちを落とし仕方なしに歩みを止めた。
「真澄隊長にしか、頼めないんだ」
だから、お願いしますと小さい声で求められる。
唇を噛んで、気まずげに視線を落とした四季を真澄は横目で一瞥した。
──こいつ、本当に馬鹿な奴だな。んなもん俺じゃ無くてもあいつなら何も言わず相手にするだろーが。
そんな胸中を明かす事は無く、真澄は四季の手を乱暴に引いた。
拠点にある薄暗い自室へと四季を引き込み、机の上に置かれていた見るのも煩わしい紙切れ達を乱雑に振り払う。バラバラと床に散るそれらを踏み付けて、真澄は机へとうつ伏せに四季を押し付けた。
「人の事オナホみてぇに都合よく使うんじゃねーぞ」
「……、そのくらいの方があんたも丁度いいだろ?」
「チッ、それならテメェもせいぜい愉しませろよ」
気遣う事もせずに四季の口へと指を差し入れると、四季は分かってるとばかりにそれへと舌を這わした。
ズボンを引き下げて、今し方四季の口内から引き抜いた指を後孔へと突き入れた。
痛みを感じた四季が小さく呻くが、真澄はなんら気にする事なくキツイそこをただ挿入する為だけにひたすらに拡げていく。
「ッは……、ほんと容赦ねぇ…っ」
「チッ、優しくして貰いてぇなら他当たれ」
「そん、ないらねぇっての……あっ、!」
ある一点を掠め、四季は呻めきとは別の声をあげた。
真澄の指が止まる。この行為で四季が快楽で声をあげるのは初めてだった。
「……酷くされて気持ちよくなってんのか?」
「うる、せぇな……別にいいだろっ」
「勝手に気持ち良くなろうがどうでもいいけどよ、うるさくすんじゃねーぞ」
「……ふざけんな誰がっ…ッう、ン…」
声が漏れるのを手で塞ぐ事でやり過ごし、四季は背後で自身を蹂躙する相手をチラリと見やる。薄暗い部屋の中ではその瞳を覗き見る事は叶わなかった。
「挿れるぞ」
「……ッもう…いれんの?」
「こんな事に時間掛けてられっかよ。切れたってテメェならすぐ治せんだろ」
その言葉は本心の様で、真澄は十分に解れていないであろう場所に自身の熱をゆっくりと突き入れた。
引き裂かれる痛みに襲われ四季は机に爪を立てて、真澄の言いつけ通りに声も出さずひたすらに耐えた。
ギチギチと狭いそこは腰を押し込まれる度に鋭い痛みを発する。
「……ッ!!」
「………テメェは本当に馬鹿野郎だな。選ぶ相手間違ってんだろーが」
──本当に馬鹿みてーな奴等。
真澄は自分の下で一人痛みに耐える四季を無感情に見下ろす。
少し考えれば分かるだろうに、目を逸らし続けている二人が酷く滑稽に思えた。だがそれをわざわざ教えてやる慈悲は真澄には持ち得ていない。
嘲笑うかのように苦しむ四季へと腰を打ち付けると、それだけで四季は痛みに頭を振り机へと縋り付く。
「……、っ!ふ、ぅ……っ」
快感を拾い上げ始めたのか、四季の苦しむ喘ぐ声に恍惚の吐息が混じり始めた。ふぅふぅと口を塞いだ指の隙間から息が漏れる。
「気持ち良くなれて良かったなぁ?テメェは残念だろうけど、なっ」
「、ンーーーーッ!!!」
今まで感じた事のないものが身体中を駆け巡って四季は強く目を閉じた。涙が流れて頬を濡らして机をも濡らす。振り乱す髪を鷲掴み、机に押し付け、腰に爪をたて真澄はひたすらに四季の身体を弄んだ。
痛みを欲していた筈の四季の身体が真澄から与えられる快楽に喜び打ち震える。
こんな筈じゃなかった。四季は胸中で憎々しげに呟く。今だけでもあの手を、あの優しさを忘れたい。届かない想いを痛みで忘れ去りたかった。
「チッ……もう、出すぞ」
「ん、!っぅ、……ぅ!」
こんな快楽を与えられるぐらいなら早く終わらせて欲しい。四季は押さえつけられた頭で必死で頷く。
真澄の手は力任せに先走りで濡れた四季の性器を握り、上下に扱く。下から何かが駆け上ってくる感覚に耐えるべく、四季は自身の指に強く噛みついた。
掴まれた腰に一層強く爪を立てられた瞬間、四季は高みに上りつめて白濁の液を撒き散らした。
眠りに誘われ意識が暗闇に落ちていく直前に、真澄の手が四季の髪に触れる。
酷く優しく触れる指先が誰かの指を彷彿させるせいで、四季の想いを一瞬たりとも忘れさせてはくれなかった。
「こいつここで寝る気かよ…」
一通り後処理を終えた真澄は、あのまま眠ってしまった四季を自身のベッドに転がした。寝息を立てて眠る姿は先程の切羽詰まった様子はなく、年相応の子供のように見えた。
サラサラとした柔らかい髪を掬って撫でる。
煩わしそうに四季が唸りながら眉を寄せたのを見て、真澄はそっと手を引いた
静寂の部屋の中で時計が時を刻む音だけが聞こえている。そんな空間を切り裂くように、無機質な音が鳴り響いた。
真澄は寝ている四季のジャケットをまさぐって、薄暗い中で呼び出し音と共に浮かび上がる人物の名前を見詰めた。
普段ならば無視をする名前に真澄は躊躇う事なく触れる。
『………四季、今何処にいるんだ?集合時間はとっくに過ぎて、』
「よぉ、無陀野ぉ。一ノ瀬なら寝てるぜ」
『………真澄か?四季と今何処にいるんだ』
「あぁ?俺の部屋だよ。テメェ早く引き取りに来いよ。人のベッド占領しやがってクソ邪魔なんだよ」
『……すぐに行く』
通話の切れた用無しのスマートフォンを四季の寝ているベッドへと投げ捨てる。
「心配ならさっさとリードでもしちまえばいいのによ……慎重になり過ぎて痛い目見ても知らねぇぞ」
電話先の僅かながらに怒気を含んだ無陀野の声を思い出して、真澄は愉しげに呟いた。
「真澄、四季は何処にいる」
「テメェ…会って早々にそれかよ。中で寝てるっつの」
真澄の部屋へと訪れた無陀野は、少しだけ髪が乱れていた。
身体を横にずらして無陀野を部屋に招き入れた真澄は、ベッドへ眠る四季へと手を伸ばすその背中をじっと眺めた。
無陀野の右手が四季の涙の跡の残る目尻に触れる。
「……泣いてたのか?」
「あぁ?そーだったかもしんねぇ……理由は知らねぇぞ」
「……………そうか。四季はこのまま連れて帰る」
「とっとと連れてけよ」
「…手間を掛けさせたな」
「そう思うんなら、ちゃんとしっかり見張っとけよ?」
その言葉に四季を抱えた無陀野は、真澄へと剣呑の眼差しを向けた。鋭い眼光を向けられた人物は相変わらずの無表情で無陀野に対して首を傾げた。
「そんな目で見ても何も怖くねぇぞ」
「…………」
「ま、せいぜい気を付けるこったな」
───藪をつついて蛇を出すような真似をしたのはそっちだからなぁ。
四季を抱え部屋を出て行く無陀野の背中を蛇のような黒い双眸がじっとりと見据えていた。