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第5話 元気な人ほど
「おはよー!」
いつものように保健室の扉が勢いよく開く。
……はずだった。
「……。」
「今日、橙くん来ないね。」
黄が時計を見る。
もう一時間目が始まって二十分。
いつもなら真っ先に保健室へ来ている時間だった。
「寝坊かな?」
黄が笑いながら言う。
「橙ならありそう。」
桃も少し笑った。
しかし、紫先生は何も言わなかった。
ただ、空いた椅子を見つめていた。
⸻
二時間目。
それでも橙は来なかった。
三時間目。
昼休み。
午後になっても姿は見えない。
「珍しいですね。」
青がぽつりと呟く。
「風邪かな。」
黄が心配そうに言う。
赤は窓の外を見つめたまま、小さく口を開いた。
「……違う気がする。」
「え?」
「昨日。」
赤は少し考えるように目を閉じる。
「帰るとき、笑ってなかった。」
「笑ってなかった?」
桃が聞き返す。
「うん。」
昨日の帰り。
昇降口で見かけた橙は、一人になった瞬間だけ笑顔が消えていた。
誰にも気付かれないくらい、一瞬だけ。
でも赤は見てしまった。
「……。」
紫先生は静かに立ち上がった。
「少し様子を見てくるね。」
そう言って保健室を出ていった。
⸻
放課後。
紫先生が戻ってきた。
「先生!」
黄が立ち上がる。
「橙くんは?」
紫先生は少し困ったように笑った。
「今日はお休みだって。」
「風邪ですか?」
「……ううん。」
先生は首を横に振った。
「今日は、起き上がれなかったみたい。」
その一言で、保健室は静かになった。
「起き上がれない……?」
黄は首を傾げる。
桃が静かに口を開いた。
「俺とは少し違う。」
「?」
「心が疲れちゃうと、体まで動かなくなることがあるんだ。」
よぞらもち
96
#青愛され?
歩夢(仮)
163
黄は驚いた。
そんなことがあるなんて知らなかった。
「でも昨日、元気だったよ?」
「そう見えただけだよ。」
青が優しく言う。
「無理して笑ってたのかもしれない。」
「……。」
黄は昨日の橙を思い出した。
保健室のみんなを笑わせていた。
大きな声で笑っていた。
その笑顔しか見えていなかった。
⸻
翌日。
橙は来なかった。
その次の日も。
さらに次の日も。
保健室から笑い声が消えた。
「静かだね。」
黄がぽつりと呟く。
「うん。」
青も頷く。
赤は何も言わない。
でも、どこか落ち着かない様子だった。
「橙ってさ。」
赤が急に話し始める。
「うるさいし、騒がしいし。」
「そうだね。」
桃が笑う。
「……でも。」
赤は少し照れくさそうに頭をかいた。
「いないと静かすぎる。」
黄がくすっと笑う。
「赤くん、心配してるんだ。」
「してねぇし。」
「絶対してる。」
「してない。」
「してる。」
「……。」
赤は何も言い返さなかった。
その様子を見て、青たちは少しだけ笑った。
⸻
その日の放課後。
紫先生は一枚のプリントを机に置いた。
そこにはこう書かれていた。
『橙くんは、しばらく学校をお休みします。』
黄はその文字を見つめたまま動けなかった。
「また会えるよね……?」
小さく呟く。
紫先生は優しく微笑んだ。
「もちろん。」
そう答えながらも、その表情には少しだけ不安が滲んでいた。
保健室のみんなも気付いていた。
いつも誰かを笑わせていた橙が、一番苦しんでいたのかもしれない。
そして初めて思う。
今度は、自分たちが橙を支えたい。
そう強く思った。
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コメント
1件
橙くん、来ないんだ…。普段あれだけ騒がしい人がいないと、静かすぎて逆に気になるよね。赤くんが「いないと静かすぎる」って照れながら言うシーン、すごく好き。みんなそれぞれのペースで橙くんのこと気にかけてて、このメンバーの関係性の良さがじわじわ伝わってきた。それにしても「起き上がれなかった」は重いな…。元気な人ほど、気づかれずに溜め込んじゃうのかもね。続きが気になる〜。