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こんにちは、けるもです。

本編どーそ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


コンコンコン、と乾いたノック音をたてる。

「親父…俺だ。」

扉の向こうから、カタ…と音がした。

しばらくして、数年前と変わらぬ低い声が聞こえた。

「…入れ。」

途端に自分の鼓動が速くなるのが分かる。

憎い親父相手に緊張していることに、腹が立つ。

その時、俺の肩にぽん、と手が乗った。

透星だった。

「大丈夫。」

瞬間、俺のなかは緊張も怒りも消え、静かになった。

もう一度、深呼吸をする。

扉を開けた。

書斎の場所は知っていたが、入ったことはない。

応接間のようなソファーがある。

中央の大きなデスクに親父は座っていた。

俺はデスクの前に立ち、言った。

「…親父、頼み事がある。」

親父は黙っていた。

「俺、その、やりたいことが見つかったんだ。」

ずっと無反応。

「…透星と一緒に音楽の道に進みたい。」

親父は依然黙ったままだ。

「俺は、親父も、あの女も大嫌いだ。昔も、今も。

だけど、親父にしてもらったことは多かった。

最初に俺が音楽に触れる機会をくれたのも、親父だ。

親父のことは大嫌いだ。でも、親父には感謝している。

だから、このことは、親父に最初に伝えなきゃいけないんだ。

透星と、音楽を続けたい。音楽の道に進みたいです。お願いします。」

俺は、生まれてはじめて親に頭を下げた。

「お願いします。」

隣で透星も頭を下げたのが視界の端にうつった。

しばし沈黙。

長い沈黙の末、親父が言った。

「…俺は、大切なものを全て失った。」

驚き、つい顔を上げてしまう。

それに気づいた親父は、頭を上げていろ、と言った。

「会社の経営が上手くいかない。重大なミスで今までの頑張りが水の泡になる。

昔から気の短かった俺は、おまえや、美和子にあたってしまった。

それに加えて部下だった美加との浮気。

美和子はつもりにつもった怒りで出ていってしまった。

美加は俺の家に毎日来るようになった。

そのうちにおまえの“母さん”になりたいと言い出した。

美加はおまえや、家政婦に俺と同じことをした。

おまえは出ていった。

あの後、また会社の経営はうまくいかなくて、金目当ての美加は出ていった。

そして俺はまた1人になった。

1人になるとどれだけおまえらが大切だったか分かった。

朝から夜までずっと1人だったおまえの気持ちが分かった。

会社にしか目がいっていなかった時の家を知らない分、

そのことがどれだけ辛いことなのかがやっと分かった。

理解しただけでなにかなるわけでも、

これだけでおまえに許されるわけでもないことは分かっているが、どうしても言いたい。

今まで、すまなかった。家族を大切にしなくて、すまない。」

今度は親父が頭を下げた。

親父は続ける。

「おまえが、陽朔音がやりたいことがあるなら頑張りなさい。

進みたい道があるなら、突き進んで、壁を乗り越えなさい。」

俺は驚きが隠せなかった。

「いいの…?」

「…俺は応援する。それが陽朔音の人生を彩るものなら。」

うれしかった。ただうれしかった。

きっと俺は今、俺の世界の隅で輝いていた世界に向かって、一歩を踏み出したのだろう。





あの後、俺は透星と親父と3人で少し話をした。

まともに親父と話したことがなかった俺は、親父のことを初めてちゃんと知った。

俺と透星は家を出た。

透星は緊張の糸が緩んだのか、フーっと息を吐いた。

「良かったー。良かったよ陽朔音。おまえと惇さんが仲直りして。

「もう仲良くなったのかよ、はやいな、おまえ。」

透星はちゃんとコミュ力おばけだ。

「いろんな人と仲良くなるのって大切だよー。」

「んにしても、年が全然違うのにすげーな。」

「まぁね。」

透星はどや顔をした。

親父と仲直りをしたのかどうかは分からないけど、お互い顔を会わせて話せたのは透星のおかげだった。

「透星、ありがとう。今日、いろいろと。」

文をまとめずにそのまま言ったせいで、文が文じゃないみたいだ。

「言っただろ、陽朔音。おまえが壁にぶつかるなら手伝うって。」

「うん。そうだね。」

透星はやっぱりすごいな、と改めて思った。

「よーし。これで一緒にアーティストになれるぞ。」

「いや、俺まだ手続きとか試験とかしてないから、はやいわ。」

「いいかい、陽朔音君。俺はオファーが来てるんだよ?

オファーで来た人が紹介する人は、すごいってことじゃん?

だから多分、そーゆーかんじでいけるよ、うん。」

後半、全く理解できなかったんだが…。

「まぁとにかく、1歩前進したよね。頑張ろ、陽朔音。」

そう言って透星はニコッと笑った。

「うん。ありがとう。」

俺達は暗い夜道を2人で歩きだした。







next…












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