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ひと口に人を喜ばせるというが、なんでも叶うのがこの世界だ。
文字通り、なんでも出来る。 できない事はない。
「ゲームやアニメが、そのまんま出てきた感じ」
「よくいるな? そう言う者(もん)は」
「ふと思ったんだけど、ぜったい意味あるよね?」
「うん?」
「ゲームやアニメが、昔あれだけ流行(はや)ったのって。 布石(ふせき)みたいな?」
「まぁ……、かもな? そうかも知れない」
空を飛びたいなら、自由に飛び回ればいい。
マイカーならぬマイロボに、定番のRPGも大いにアリだ。
「そういや、黒騎士」
「あん?」
「や、友達がね? どこかのお城で黒騎士やってるって」
「なにやってんだそいつは……」
「んでもう一人がね?魔法少女だって。 相棒の」
「なにやってんだそいつら……」
水をチビリと啜(すす)ったところ、俄(にわ)かに歯が浮いた。
胸の内はいたく透(す)いている。
自分が楽しいと思うことを、とことんまでやる。
やることのできる世界が、ここにある。
暫(しばら)くして、やっと注文のラーメンが到着し、事務的な懇談もこれで終わりかと思った矢先。
「基準って、どうしてる?」と、テーブルの山椒(さんしょ)をアホほどぶち撒(ま)けながら、穂葉が上目づかいで言った。
「お前それ……、基準? いや、お前それ……」
「お裁(さば)きの。 どこまでが良くて、どこからが悪いのか」
「……お前まさか、考えてやってねえだろうな?」
“考えるな。 感じろ”
世に、これほど的確をついた言いまわしは無い。
脳みそで考えるのは人の業(わざ)。
心で感じるのが霊の業だ。
「てか、浄玻璃は? そいつで覗(のぞ)きゃ──」
「ん、それでもね? 見え難(にく)いことって、たまにあるじゃん」
「まぁな……」
極端な話、他人に危害を加えれば一発アウト。
そうとも言い切れないのが事実だ。
例えば、筋(すじ)の通った純然たる仇討(あだう)ち。
一を殺して千を助ける。
しかし、この千の運命が、そこから更(さら)に枝分かれをして、無数に展(てん)じてゆくのが人の世だった。
その先々を見澄まし、照らし合わせて事に当たるのが、我らの仕事である。
「肩、凝(こ)ったりしない?」
「凝らねえよ。 そのために酒があるんだから」
「飲みすぎてない?」
「あ……? ほどほど。 うん」
お節介というべきか、世話好きというべきか。
親思いと言うのとは少し違う。
「お母(かあ)は? 元気にしてる?」
「あぁ、今日は買いもん行ってる」
「あ、いいな。 私も行きたい」
「てか、会ってないの? 近ごろ」
「ん、だって忙しいからさ」
「だよな」
しばらく黙(もく)し、ラーメンを賞味する。
ダシやら何やらには然(さ)して明るくないが、この奥深い味わいは、店主が手塩に掛けて拵(こしら)えてる所以(ゆえん)だろう。
「不安になることって、ない?」
「ん?」
「いまの判決は、ホントに正しかったのかなって」
「お前さん、自分を信じてねえのか?」
「んーん。 信じてはいるけどさ」
かく言う当方も、時には疑念を拗(こじ)らせることが間間(まま)ある。
コイツは本当に悪党なのか?
ここでスッパリと切り捨てて、後悔はしないか?
「まぁ、俺らが振(ぶ)れんのが一番やべぇわな」
「ん……」
「他の何もんより、よっぽど」
「こんにゃく閻魔」
「あん?」
「や、閻魔の好物はこんにゃくだとかって」
「ほぉ? なんで?」
「あー、なんだっけな……? たしか裏表がないからだとか」
「なんじゃそら? 素麺(そうめん)の間違いじゃないのかね?」
振れる振れないは別として、裁く側(がわ)は常に清廉潔白であるべきだと、どこぞの弁護士くずれが言った。
なるほど妙だ。
過去の判例に則(のっと)って、誰も納得のいかないアホな判決をくだす生(なま)っ白(ちろ)い下地(したじ)。
そんなもんを清廉潔白と呼ぶのなら、ニンゲンさまの法廷は、さぞ垢抜(あかぬ)けていたんだろう。
現在(いま)をどうこうしようって時に、過去の振り方を持ち出す筋(すじ)なんぞ無い。
“私はこう思うんですが、本当に正しいでしょうか?”
アホか。 答えはそこにあるってのに、なにを疑う必要がある?
「まぁでも、相談役くらいは居てもいいかもな?」
「ん……」
「いいのは居ないの? こう、支えてくれそうな、手頃なのは」
「生憎(あいにく)ねー……。 恋愛とか、ちょっと面倒っていうかさ、今さら」
「あぁ……、そう」
「あ! 補佐役といえば、お父の荒御魂(あらみたま)が」
「止(や)めとけ。マジで。笑えん」
にへらと笑った穂葉は、そこから黙々とラーメンに向き合った。
時刻は、おおよそ昼過ぎ。
休憩もあと少しで終わりか。
当面の長話が祟(たた)り、そろそろ麺が伸び始めた頃合いに、こちらも急いで掻き込むことにする。