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「お前さん、いつ帰るん?」

「ん、もうちょい居たげてもいいよ?」

「そっか」

目下(もっか)の肩書きとしては、こちらに出向中の身の上である。

お仕事の本質に変わりはないが、平常の業務と違って、こちらで相手取るのはガチな案件。

つまるところ、天か地か、白か黒かの判断をつける最重要の法廷に陣取るわけだから、それなりに肩も凝る。

「まぁ、段取り知ってる者(もん)がいると助かるよ。やっぱり」

道端で足を止めたお父が、近場の鉄柵に半身(はんみ)を委(ゆだ)ねつつ、遠くを見ながら煙管をプカプカとやった。

ところは高台とあって、眺めは良い。

「そういえば、この感じ」

「あん?」

「お父が造ったんじゃないよね? この、景色って」

「ん、なんで?」

「や、あんさんが考えたにしてはお洒落だと思って。 ほら、あの辺とか」

まず目に留まるのは、人足(ひとあし)が繁多な商店街。

赤提灯が並ぶ鄙(ひな)びた道筋に、様々なお店が軒を連ねている。

それを取り巻く近代的な建物群には、押し並べて不夜の明かりが灯っており、心地の良い混沌具合を醸していた。

さらに視線を遠くに向けると、真っ黒な地表に点々と町の灯(ひ)が。

裾野に林立する煙突からモクモクと吐き出された雲波が、東(あずま)の夜天にたくましく聳(そび)えている。

その袂(たもと)に、ぼんやりと刷(は)き掛けたような薄日が当たる様は、ちょっと言葉では表しづらいほどの美しさだった。

「あぁ……、プロに頼んだ」

「プロ?」

「絵描きさん。 オーディションしたのよ、この前」

「マジで? 楽しそうなことやってるなぁ……」

「地元か?」

「うん?」

「お前んとこは、あの町まんま持ってったんだろ? いや、持ってったっ言(つ)うより」

「ん、映した感じ。 まぁ……、ほら、ファンタジーは三ヶ月で飽きるって言うし」

「ほん?人によるだろ、んなもん」

何でも叶う世界であるがゆえに、時には何かが恋しく感じられることもある。

それは例えば、路肩に転がる小石の類であったり、夏にかく大汗や、冬の厳しい寒さといった、本当に何気ないものなのかも知れない。

「お姉は?」

「あん?」

「葛姉、こっちに呼び戻さないの?」

そこで思い出されるのが、現在も地(じ)を行く姉のこと。

怨府(えんぷ)の現身(うつしみ)という、姉妹の中でも退っ引きならぬ神性を有する彼女には、思うところも多かろう。

「お前、あいつが酔狂でぶらぶらしてると思ってんのか?」

「ん……、そうじゃないよね?」

「まぁ、本人がそこに気付いてるかは知らねえが」

いつだったか、ひょっこりと庁舎に顔を見せた彼女に訊(たず)ねたことがある。

『そっちはどう?』

『楽しいよ?』

なにが楽しいのかは、終(つい)ぞ語られることが無かった。

辻褄をたどれば、最前に地上を席巻したという魔物・化物の類を相手取るのが愉快とも取れる。

現に、かつてそういう話を本人の口から聞いた。

しかし、私は彼女の言葉に、言い知れない歪(ゆが)みのようなものを感じたのだ。

とは言え、どこがどのように歪んでいるのかは定かでない。

もしかすると、単に気のせいだったという事もある。

けれど、あれがもし、世界が終わる最後の最後に顕れた歪(ひず)みの類だったとしたら。

「行くぜ? 後が閊(つか)えてらぁ」

「ん、了解!」

ともかく、いま出来ることは、こちらの領分できちんと熟(こな)すこと。

歯車の周囲にこびりついた瑣末(さまつ)な汚濁(おだく)を、一つずつ取り除いてゆく。

その暁に、歪みをすっかり解消した姉と、のんびり思い出話など交わせれば重畳(ちょうじょう)だ。

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