テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鷹槻れん@コノカレコミカライズ

22,958
猫塚ルイ
1,989
宇津Q
1,160
#シークレットベビー
『第二話 扉の向こう側』
「夜まで?」
悠真は思わず聞き返した。
千夏は苦笑する。
「慣れてますから」
その言葉が妙に引っかかった。
慣れている。
高校生の女の子が、家の前で何時間も一人で待つことに。
「お母さんに連絡は?」
「仕事中なので」
「メッセージは?」
「送りました」
スマートフォンの画面を見せる。
既読はついていなかった。
「そっか」
それ以上は聞かなかった。
事情なんて家庭ごとに違う。
勝手に踏み込むものじゃない。
だが、六月とはいえ午後の日差しは強い。
玄関前に座って待つには長すぎる時間だ。
「飲み物くらいなら出せるけど」
千夏が顔を上げる。
「え?」
「うち。向かいだし」
一瞬だけ彼女の表情が固まった。
警戒している。
それも当然だ。
ほとんど話したことのない大人の男から、そんな事言われたのだから。
悠真は慌てて付け加えた。
「嫌なら全然いい」
「いえ!」
思ったより強い返事だった。
今度は千夏自身が驚いたように口を押さえる。
「……すみません」
「謝ること?」
「なんでもすぐ大きな声出しちゃうので」
そう言って小さく笑った。
少し、ぎこちない笑顔だった。
部屋のドアを開ける。
「ただいま」
返事はない。
代わりに足元へ白黒の猫が走ってきた。
「にゃあ」
「お、起きてたか」
千夏の目が一瞬で輝いた。
「猫……!」
「ピスカ」
「ピスカ!?」
「名前」
「何語なんですか!意味も知りたいです」
「ポルトガル語で“ピカピカ”って意味」
「本当ですか!からかってませんか?」
初めて年相応の笑い声を聞いた気がした。
部屋へ上がると、千夏は玄関で立ち止まった。
靴を揃える。
それから部屋を見回す。
「綺麗ですね」
「いや、男の一人暮らしとしては普通だと思う」
「うちの母より綺麗にしてます」
「それはお母さんに聞かれたら怒られるやつだな」
また笑う。
少しずつ緊張がほどけている。
コーヒーを淹れながら悠真は尋ねた。
「紅茶の方が良かった?」
「コーヒーで大丈夫です」
「無理しなくていいよ」
「本当に好きなんです」
そう答えたものの。
一口飲んだ千夏は、
「……にがっ」
と呟いた。
「あ」
「あ」
沈黙。
そして二人同時に吹き出した。
「砂糖いる?」
「いっぱい……ください」
「正直でよろしい」
ピスカは、すっかり千夏の膝の上に収まっていた。
猫という生き物は人を見る目がある。
少なくとも悠真はそう思っている。
ピスカが懐く人に悪い人はいない。
たぶん。
「不思議ですね」
千夏が呟いた。
「何が?」
「私、人見知りなんです」
「そう見えないけど」
「学校では全然しゃべれません」
意外だった。
ここまでの会話だけなら、むしろしっかり者に見える。
「じゃあ俺は例外?」
千夏は少し考えた。
それから窓の外を見る。
夕方の光が横顔を照らしていた。
「たぶん」
「たぶん?」
「ずっと前から知ってたので」
悠真は首を傾げる。
「え?」
千夏は慌てて立ち上がった。
「な、なんでもありません!」
耳まで真っ赤だ。
ピスカだけが事情を知っているような顔で大きなあくびをした。
──続く
コメント
3件
千夏さん、なんか事情がありそうですね。 ピスカ様は、千夏さんと会ったことがあるのかな……?続き楽しみにしてます😊
おおおお!!第二話も尊すぎた😭💕 ピスカに懐かれてる千夏ちゃんがもう可愛すぎて鼻血出るかと思った…「にがっ」→「砂糖いっぱいください」の流れ、高校生らしくてリアルで好き!てか最後の「ずっと前から知ってたので」って…え、何!?!?過去に会ってるの?それとも運命感じちゃう系??続きが気になりすぎて今夜眠れない案件です🥺💫 宇津Qさん毎回心臓ぎゅってさせるのやめてください〜!笑