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#離婚
#ヒトコワ
#仕事
12年前の「強盗致死」事件の公判が始まった。
車椅子で出廷した直樹は、やつれ果てた姿をさらしながらも
土壇場で「自分は被害者だった」という支離滅裂な主張を始めた。
「……俺は、詩織の父親に支配されていたんです!あの万年筆も、恩着せがましく与えられた鎖だった!俺は、自分の尊厳を取り戻すために、必死で金を稼ぐしかなかったんだ!」
傍聴席でその言葉を聞いた私は、静かに立ち上がり、検察側証人として証言台に立った。
手には、昨日整理したばかりの「父の個人口座の記録」を携えて。
「被告人は『支配』という言葉を使いましたが、それはあまりに的外れな計上です」
私の声が、静まり返った法廷に響く。
「私の父が被告人の母親に貸し付けた、あるいは無償で援助した金額の総計は、当時のレートで3,200万円に上ります」
「返済期限の設定もなく、利息も一円も取っていない。これは『支配』ではなく、純粋な『救済』です」
私は直樹を冷たく見据えた。
「被告人は、その恩義という名の『無形資産』を自分のプライドのために勝手に『負債』へと書き換え、あろうことか強盗という手段で他人の命を奪い、私を騙して家を乗っ取った」
「……これは、経営学的に言えば『完全なモラルハザード』。人間として言えば『ただの恩知らずな怪物』です」
「……黙れ!!お前に何がわかる! 施される側の惨めさを一円でも考えたことがあるのか!」
直樹が叫び、法廷は騒然となる。
けれど私は、一ミリも揺らがなかった。
「惨めさを言い訳に、一円の価値もない殺人を正当化しないでください。……裁判長、被告人には更生の余地などありません。彼は、与えられた善意を悪意に変換してしか生きられない、壊れた計算機なのです」
私が証拠書類を提出し、証言台を降りる時、直樹は狂ったように笑い出した。
「詩織……お前も、あの親父と同じだ。…上から目線で、俺の人生を……!」
「いいえ。……私はあなたの上に立っているのではなく、あなたの人生を『ゼロ』として処理しに来ただけよ」
公判後、ルーツ・ガーデンに戻ると
そこには海外の福祉団体からの視察団が到着していた。
私の「1円を大切にする自立支援モデル」が、国境を越えて評価され始めている。
「詩織さん、あなたのシステムは素晴らしい。個人の尊厳を『数字』で守るという発想に、私たちは感銘を受けました」
彼らからの賞賛を受けながら、私は胸ポケットの万年筆に触れた。
父が遺したのは、直樹を縛る鎖ではなく、私をここまで連れてきてくれた「誠実さの資本」だった。
【残り32日】