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おぉ〜泣ききったね!からのナースも岡久先生も感心のビート歩行✨肩で音とビートを刻んで才花ちゃんだっ!カッコいいよー✨ 羅依の才花ちゃんへの寄り添い方が的を射てるなぁ👍岡久先生も未来を歩んでいく上で大切なことを話してくれてる。今しかないという絶妙なタイミングで。 才花ちゃんの周りには心から思ってくれて応援してくれてる人がいる。恩着せがましい人は誰1人いない。 今リハビリで新たな道を進み出したけど、たまには「他にも」もっと熱くなってね🤭熱くなってあげてね❤️🔥🤭
どれだけ泣いただろうか。
集中豪雨のような涙が上がりそうになると、彼の力強い鼓動が聞こえる。
……規則正しいな……
「…4ビート」
「才花のダンスは?」
「8、16、32ビートに変音入りのミックス…」
「32?」
「そう…痙攣してるみたいな?」
「わかんねぇ」
「16ビートは分かる?」
「裏も表も音を取れば16」
「そうそう。その間にも動きを入れるの…ずっとは無理だからそういう表現をしたい箇所で」
「膝が使えないと、それって無理なものか?」
「うん?ビートで音取りは、肩でもいいんだよ」
「そうか」
涙が乾いてパリパリと顔に引っ付いた髪をゆっくり剥がしてくれた羅依に
「…羅依の思惑通りにマンションで生活して…羅依を見て歩いてる………さっきも私を煽ったでしょ?」
と視線を向ける。
「煽られたのか?熱くなった?」
「ムカついたから熱くなったね」
「もっと他を熱くしろよ」
彼はそう言って私の唇を指先でなぞった。
それから羅依は、私にサングラスを掛けるとひょいっと片手で抱き上げ、揃えて壁にもたれている松葉杖を反対の手で持つ。
私が泣いている間にナースが置いてくれたのだろう。
「抱き上げたら先生に怒られるよ?」
「手術翌日の訓練は終わり。俺が帰ったらまた自分で歩いてトイレとか行くだろ?それで十分」
「うん」
彼は私を屋上に連れ出してベンチに座ると、一緒にお茶を飲む。
「才花の吐き出す感情はもっとあるはずで、いくらでも受け止めるが…お前……病院に弱いな」
「ぇ…?」
そういう風に考えていなかった。
「病院の温度のない空間が苦手なんだな。空間が生きてる、熱い場所で自分を表現して生きてきたからだと思う。音楽だって、避ける気持ちも分かるがそんなに100%シャットアウトしなくてもいいんじゃないか?別にダンスのためだけに音楽があるわけでもないし」
眩しそうに目を細めて空を見上げた羅依を、私はサングラス越しに見る。
「…そうだね」
病院にいると食事が出来ないのは以前も今日も同じ。
そしてスマホのプレイリストには大会用の音源も入っていることと、誰の連絡にも返信出来ていないことからスマホの電源を切ったままだ。
目に見えないものへ頑なに心を閉ざそうとしているのは、私なんだよね。
「こらぁ、大島さんっ!」
イヤホンを通り越して、ナースの怒鳴り声が聞こえたあと
「昨日は泣いて、今日はサーカスか」
岡久先生が笑っている。
「先生っ、笑ってないで注意してください。足裏を着ける訓練のはずが、なんでしょう…ブランコみたいに宙で踊って。松葉杖が滑れば頭を打つんですよ?」
「初めて見たね。うちはラグビーとかバスケとか重量級や大きい選手を診ることがほとんどだからね」
「はぁ、感心してないでください。大島さん、真面目にあと一往復して」
「はい」
私は聞こえる曲を変えてから4ビートを刻んで歩く。
その二日後には8ビートを刻んで歩く。
退院する時、先生は私を迎えに来た羅依に
「羅依、彼女をたまには抱き上げて止めないと、くるくるとどこまでも踊って行きそうだ」
と言った。
「踊ってませんけど…?」
「スタッフ全員、大島さんのダンスが見えるような動きだと言ってるよ?音楽を聞いていると、歩いているだけで体のどこかでリズムを取ってるんだよ」
「ああ…普通に街中ではやらないですよ?でも訓練はその方が早く歩けて、早く終わると思ったので」
「それが自分でわかって出来るのは、プロだね」
「そんなんじゃないです」
「大島さん、プロというのは収入を得るかどうかではない。能力が高く、技に優れ、その分野で確かさがあるということでいいと思うんだ。もちろんそこに収入を伴って仕事としている人を一般的にプロと呼ぶけれど、それは金銭の動きを見た周りの呼び方であって、伴う収入が無くても意識を高く持ち続ける大島さんのような人をプロと呼びたいと、僕は思うよ」