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「じゃあ手順通りにお願いします。
ラミア族はニーフォウルさんの―――
人魚族はデルタ女王様の指示に従って
ください」
竜鮫と
王竜鮫を
討伐した翌日……
浜辺で、複数のラミア族&人魚族を前に、
アイゼン王国のアーノルド王子、
ライシェ国、ウィンベル王国の担当者・責任者と
一緒に指示を出す。
「上空ではワイバーン騎士隊が待機して
おりますので、危険または撤退の合図が
あったら、すぐに退き返してください」
「今回はあくまでも手順を覚えるための訓練です。
無理はしないように―――」
一通りの説明が終わると、濃い青色の短髪をした
ラミア族の代表と、
それとは対照的に、透き通った空のような青の
ショートヘアーの人魚族の代表が、それぞれの
配下の仲間に向き直る。
「では行くぞ!」
「まずは海中にいる、ロック・タートル……
オトヒメさんのところへ集合する!」
先頭の二人が海へ飛び込むと、それに続いて
次々と海面が水しぶきを上げた。
「あとは待機ですね」
「しかしまあ……
アイゼン王国の王子様が、ドラゴンの子供を
抱いている人魚族の婚約者と一緒にいた時は、
目を疑いましたよ。
このような時代を迎えるとは」
改めて、遅れて合流したライシェ国の代表と
拠点の施設に入ってあいさつを交わす。
彼の名前はマージ・ベルガー。
公爵にしてライシェ国騎士団隊長。
恐らく、ウィンベル王国の騎士団隊長である
メギ公爵に合わせて、身分もそれなりの者が
選ばれたのだろう。
「しかし、到着した途端に竜鮫と、
王竜鮫の運搬とは」
多分私より十才は年下であろう、緑の短髪の青年が
やや呆れたように話し、
「シンと一緒にいるんだから、この程度で
驚いていたら身が持ちませんよ?」
「それくらいは慣れてもらわんとのう」
「ピュッ!」
メル、アルテリーゼ、ラッチの―――
家族によるフォローというか説得が入る。
あの竜鮫、王竜鮫を倒した後、浜辺まで運んだ
タイミングで……
ライシェ国の面々はワイバーンたちに運ばれて
やって来た。
そこで彼らが見たのは、数体の大きな魔物を前に
巨大なロック・タートルとドラゴン、ワイバーンが
これをどう処理しようかと亜人・人間を交えて
話し合う光景。
合流した彼らに事情を説明し、取り敢えず
竜鮫はいい素材になるらしいので―――
ウィンベル王国の王都フォルロワ、そして
公都『ヤマト』にも配達してもらった。
特に王竜鮫は巨大で、アルテリーゼ、それに
ワイバーン数体でやっと運べる有様で、
一通り運び終わった後、今日はもう訓練に
ならないだろうと当初の予定を中断。
一体だけ残した竜鮫を解体してもらい、
そのまま全員で試食パーティーに突入したので
あった。
ちなみに竜鮫の味はというと……
焼いて食べてみたところ、パサパサした鳥の
むね肉のような感じで、
そのまま塩焼きにして、またはつみれにして
お味噌汁に、そしてつみれ揚げにして振る舞った
ところ好評を博し、
魚というよりはイルカ、クジラに近いような
肉質なのかなと思った。
クジラは大和煮の缶詰を数回
食べた事があるだけだけど。
「正直ワイバーン騎士隊、それも新設した
ばかりの航空戦力しかない我々が、
訓練に同行しても何の役に立つのかと
思いましたが……
お役に立てたようで何よりです」
やや卑下しながら語る青年に対し、
「ベルガー様、それは違います。
航空戦力があってこそ、水中戦力もまた
安心して動けるのです。
航空戦力との連携なくして、水中戦力は
その真価を発揮出来ません」
「はは……
そう言って頂けると助かります。
さすがはあのメギ公爵殿が、心の師と
敬愛してやまない方だ」
私の言葉をフォローと思ったのか、彼は
素直に頭を下げる。
ちなみに彼の話に出て来たメギ公爵様だが……
今回は参加していない。
シーガル侯爵様も同様だ。
今、王都にはワイバーン騎士隊は二十体ほど
いるが―――
メギ隊長、レオニード副隊長が率いる隊は、
『格闘戦特化』の部隊となっている。
今回の作戦に必要なのは、水中戦力を支援する隊。
なので別部隊が参加している。
「しかし水中戦力ですか……
確かにそれさえあれば、どんな大船団が
攻めて来ようとも恐れる事はない。
船の上部ではなく、水中からの攻撃など
誰が想定していようか」
その時―――
小さな爆発音が聞こえてきた。
ポンッ、パーンと立て続けに何発も。
「おー、やってるねー」
「という事は成功かのう」
「ピュ~」
今日の訓練内容は大まかに言って……
ラミア族&人魚族が潜航、密かに船底に魔導爆弾を
取り付け、それを任意のタイミングで爆破する、
というもの。
ロック・タートルのオトヒメさんが水中基地と
なり、彼女と一緒に標的近くまで移動。
また魔導爆弾にはアラクネのラウラさんの糸が
取り付けられていて、それに魔力を込めると
起爆する仕組みとなっている。
今回は安全性を考えて爆発は非常に小規模な
ものだが―――
今のところうまくいっているみたいだ。
「では、確認に行きましょうか」
「ああ」
そこで私たちとベルガー様は外へ出て―――
『戦果』を確認する事になった。
「終わりました、シン殿」
「あんな程度で良かったの?」
ニーフォウルさんとデルタ女王様が、各国の
代表者の前で報告する。
「自分につかまって移動すれば、体力も
温存出来ると思います」
次いで、ウェービーヘアーをした、長身の
ロック・タートルの化身が語る。
「そうそう!
あの巨体にしてあの速度は驚きました」
「つかまる場所とか用意してもらえたら、
50人くらいは一気に連れて行って
もらえそう」
ラミア族に人魚族の代表は、素直にオトヒメさんの
速さを称賛する。
二人の言う通り、彼女との連携は非常にスムーズに
行われ……
また魔導爆弾の起爆も予定通りに成功。
そしてラミア族も人魚族も―――
拍子抜けしたような表情が、何も問題が
無かった事を示していた。
「もし船で攻めてくる敵がいたら……
たまらないでしょうね」
アーノルド王子様がやや引きながら、感想を
口にする。
「海上からでも空からでもなく、いきなり船が
沈むんですからね。
シン殿が極秘と言っておりましたが、
確かにこれは切り札です」
ベルガーさんも続いて評価を下す。
「しかしこの報告書にある、潜水時間が
半永久的というのは……」
ウィンベル王国の担当者が視線を、書類と
周囲を行ったり来たりさせるが、
「我々は何も無くとも、5・6時間は
潜っていられますからな」
「おまけにウィンベル王国が開発した、
水中で空気を出す魔導具?
あれがあれば体力と食料が続く限り、
潜航可能でしょう」
ラミア族&人魚族の代表が揃って語る。
「ただ、ロック・タートルはオトヒメさん
だけですし……
ラミア族も人魚族の方も、数が多いとは
決して言えません」
私が話すと、アイゼン王国とライシェ国の
代表がうんうんとうなずく。
「我が国も海に面しておりますが、
船が千以下という事はありますまい」
「ライシェ国もです。
軍船に絞れば限られるでしょうが……
数千隻とかで攻めて来られると、さすがに
厄介でしょう」
ランドルフ帝国とやらがどの程度船を
揃えられるかはわからないが……
話を総合すると、新生『アノーミア』連邦よりも
優れた技術力を持つ帝国だ。
さらに渡海能力を持ち、船舶のレベルが
こちらよりも上だという事は疑いようがない。
「まあ、数が多ければ多いで対応する方法は
あるのですが」
「おっ?」
「そうなのか、シン?」
「ピュウ?」
私の言葉に家族がまず反応し、周囲の視線が
集中する。
「そ、それはどのような?」
アイゼン王国の王子様が、のぞき込むように
顔を近付けてくる。
「え、ええと……
進行方向にいる船から撃沈していくんですよ」
「しかし、完全に沈んでしまえば―――
後続がそのまま進んでくるのでは?」
今度はライシェ国の公爵様が疑問を呈する。
「沈むまでに時間がかかりますし、それに
もし中途半端に壊れて浮かんでいれば、
それだけで進路を妨害する障害物になります。
完全に沈むにしろ、沈むまでに救出するなり
迂回するなりで行動は制限されますから」
ふむふむと納得する人、メモする人、
感心する人で反応が別れるが、
「さ、さすがは『ソンシの兵法』を書いたシン殿!
感服いたしました!!」
アレを考えたのは自分じゃ無いんだけどなあ、
と思いつつ―――
空気を読んでアーノルド王子様の賞賛を
受け入れる。
「一番いいのは、ぐるりと外側にいる船を
沈める事なんですけどね。
それだけで内側にいる船の行動を、
ある程度封じる事が出来ますので……」
「おぉ、えぐいえぐい♪」
「さらっとこういう考えが出てくるのが、
我らが旦那様よのう」
「ピューイッ」
家族が私の言葉を茶化し、現場が和む。
「いやしかし―――
『万能冒険者』殿が味方で良かったと、
心から思います」
「まったくです」
周囲が苦笑を漏らし、こちらも苦笑いで返すと、
「それもこれも、ラミア族に人魚族、
ロック・タートル……
それにワイバーンたちの協力があってこそ
ですから。
今後も各種族間で、協力関係を維持して
いきましょう」
こうして終始、友好的な雰囲気の中―――
訓練は進められていった。
「ただ今、戻りました」
「おう、お疲れさん。
そういや竜鮫ありがとうな」
十日ほど後、私は公都『ヤマト』へと帰還し、
冒険者ギルド支部でジャンさんに報告
していた。
「訓練はうまくいったッスか?」
「ライシェ国、アイゼン王国との
合同訓練だったと聞いてますけど」
レイド夫妻も事務処理をしながら、
こちらに質問を投げてくる。
「まあ想定通り動けました。
あとやっぱり、オトヒメさんの存在が
大きかったですね。
専用の設備とか積み込めば、動ける
水中基地として機能しますよ」
するとアラフィフの筋肉質のギルド長が、
紙をヒラヒラさせて、
「こちらが知ってもいい事はだいたい、
こうやって途中報告が来ているからな。
竜鮫討伐の後は、何事もなく終わったのか」
さすがに水中戦力は国家機密のカタマリ。
そうおいそれと書面には書けないだろう。
ただここは支部長室。
私の『正体』を含め、ここで話す事は基本
オフレコとなる。
つまり、それを踏まえて何も無かったのかを
聞いているのだ。
となると私の答えは、
「アイゼン王国の王子様が来ていましたよ。
人魚族の女王、デルタ様と一緒でした。
で、婚約したそうです」
そこでカップルから夫婦に進化した、
レイド君とミリアさんが食い付く。
「おおー、そりゃめでたいッスね」
「王子様と王女様ですかー。
馴れ初めは?」
褐色肌の青年と、丸眼鏡の女性は―――
目を猫のように縦線にして興味津々の
表情になる。
「以前、アイゼン王国に亜人の調査に行った事が
あるでしょう。
その時、調査隊の隊長と身分を偽って参加
していて―――
人魚族の本拠地に行った際、彼をもてなしたのが
デルタ様だったんです」
ふむふむ、と満足気に二人はうなずく。
「まあ当人同士が好き合っているのなら、
それでいいんじゃねぇか?
アイゼン王国は海に面しているし、
もしランドルフ帝国の侵攻があった場合、
矢面に立つのはそことライシェ国だからな。
水中戦力の存在は何よりも有難いだろう」
その水中戦力のトップが未来の王妃―――
国民に取っても連合に取っても、これ以上無い
安心感があるだろう。
「それはそうと、竜鮫の事だが……
アレあんまりうまくなかったな。
焼いてもパサついているっつーか、
何というか」
「まーここは他にも美味しいものが、
たくさんあるッスからね」
「すっかり舌が贅沢になりましたよねえ」
ここで竜鮫が不評だったと聞いて、
「唐揚げや素揚げは?」
「それも試してもらったんだが、
固いんだよなー、肉が」
「鳥やボーアに比べますと、どうしても
一段味が落ちている気がするッス」
「シンさんのところではアレ、
食べたんですか?」
そこでミリアさんに聞き返され、
「確かに、焼いただけではパサパサして
いたので、つみれにしてお味噌汁に
入れて食べました。
あと、つみれにしたのを唐揚げにしたりとか」
そこでギルドメンバー三人の視線が私に集中する。
「つみれがあったかあ~!」
「つみれって唐揚げに出来るんスか!?」
「えっと、まだ氷室に竜鮫のお肉残って
いましたよね!?
こうしちゃいられません!」
そこでギルドメンバーと共に、宿屋『クラン』へ
直行し……
そこで家族とも合流、みんなで改めて竜鮫を
味わう事になった。
新たにつみれ(とその唐揚げ)が調理法に
加わった事で、あっという間に消費されたのは
言うまでもない。
「では、二人一組で行動をお願いします。
何かあったらすぐ声を上げて」
「わかりましたー!」
「はーい!」
私の言葉に、十人ほどの冒険者たちが
うなずく。
ここは羽狐たちが元住んでいた山。
水中戦力の訓練から帰ってきた数日後、
『キクラゲ』『舞茸』の調達を公都から頼まれ、
アルテリーゼの『乗客箱』で―――
回収する人員と共に、飛んできたのである。
「ここは以前、地穴という魔物がいました。
討伐したのでもういないとは思いますが、
足元からバクッといく魔物ですので、
特に足元には気を付けて。
では、採取作業に入ってください」
私の説明で、彼らはそれぞれの方向へと
散っていく。
実際のところ―――
キクラゲと舞茸の栽培は公都でも行っている。
亜人・人外のために作られた専用居住地、
そこには山を模した小高い丘もあり、
試しに植えてみたところ発育が認められ、
定期的に採取出来るようになった。
ただ消費量が多いので、それだけでは
追いつかず……
こうして月に一回ほどの割合で、この山に
採取に来るようになっていた。
また、羽狐も二人ほど参加し、里帰りと
様子見の機会も兼ねている。
「もうすっかり料理の定番だからねー」
「確かに。
麺類や鍋にアレが無いと、物足りぬ
からのう」
「ピュピュ~」
家族もすっかり気に入ったようだ。
自分もラーメンには欠かさないからなあ。
「じゃあ私たちも別れよう。
いざという時、どちらにも対応出来るように」
「おけ」
「わかったぞ」
「ピュー!」
そして家族も三方向に別れ、万が一の事態に
備える事になった。
「あ、シンさん!」
「こっち、キクラゲありましたー!」
採取していた冒険者たちが私に気付くと、
手に手に目的の物を持って振り返る。
「ありがとうございます。
でも無理はなさらず……
それと、手持ちの一袋は持ち帰っても
構いませんから」
私の言葉に彼らの歓声が上がる。
こういう収穫や回収、採取依頼に関し、
冒険者たちには当然報酬を渡しているが、
それとは別に―――
『個人で持ち帰ってもいい』という特典も
あった。
これは、どちらにしろ物によってはコッソリ
持ち帰る人がどうしても出るので、
それなら最初から取り分を決めておいた方が、
混乱も起きないだろうという事で採用された。
また、彼らの賃金は基本的に月イチで給料日が
決まっているため……
臨時収入として有難がられている。
と、思考している中―――
急に地面が揺れ、
「な、何!?」
「地震!?」
冒険者たちが騒ぎ出す中、真っ白な姿の、
巨大な長い胴体の獣が姿を現す。
いや、現すというより転がってきて、
何本か木々をなぎ倒しながら、最後の大木へ
身を打ち付けて止まった。
「……!
全員、避難を!
『乗客箱』へ向かってください!!」
私の号令に、一斉に彼らは駆け出す。
その目の前で、巨大なテンのような獣が体勢を
整えると―――
さらにもう一体、巨大な魔物が出現した。
「あれは……アリ?」
姿形は確かに蟻。
しかしその大きさは、目の前のテンのような
獣よりも大きく―――
全長はゆうに大型トラックくらいはあるだろうか。
そして獣と昆虫型の魔物二体は、目の前で
戦いを繰り広げるが、
「……?」
巨大アリの方はその強靭なアゴを使って、
テンのような獣に噛みつく一方、
相手もまた鋭い牙を持っているにも関わらず、
体当たりやアリの攻撃を避ける事に専念している
ように見える。
まるで倒せない理由でもあるかのように―――
となると『無効化』はマズいかな?
「んん?」
と、そこでアリの頭に角のような物が生えている
事に気付く。
あれはもしかして冬虫夏草?
よく見ると全身にも、ツルのような物が
絡んでいて―――
地球では普通にいる、生き物に寄生する
タイプの菌類だ。
狂暴化しているのはそれが原因か。
ならアレを何とかすれば止まるかも知れない。
しかし、寄生植物は私の常識の範囲内だ。
どちらかというと、二体の巨大な獣と昆虫が
常識外で……
……待てよ?
前提としてあの二体が常識外なら、
それに寄生するのもまた―――
という事にならないだろうか。
私は二体を前に小声で、
「あのような巨大な生き物に寄生し、
狂暴化させる菌類やキノコなど、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくと、
「……ギィッ!?」
巨大アリの頭に芽のように生えていた角みたいな
物が、ポロッと取れると地面に落ち、
そして全身に絡みついていたツルのようなものも、
ボロボロと落ちていった。
「グルル……?」
テンの方もそれで事情を察したのか動きを止め、
双方の戦闘はそれで停止された。
「使者たちの報告は受けた。
さて、これより―――
帝国の方針を話し合いたい」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
その王宮。
そこで使者たちの報告を踏まえた上で、
今後の意思決定が行われる、御前会議が
開かれようとしていた。
メンバーは皇帝マームードを筆頭に、今回は
参加を許されたティエラ・ランドルフ王女。
同じく大陸に派遣された―――
ラモード・ブラン外務副大臣。
ティグレ魔戦団副隊長と、その部下で
真偽判断を持つラド。
ダーリマ・トジモフ外務大臣。
帝国武力省将軍、ロッソ・アルヘン。
魔戦団総司令、メリッサ・ロンバート。
兵器開発省、新機軸技術部門主任……
アストル・ムラト。
他、各部署のトップが席を連ねていた。
「アルヘン、ロンバート。
軍の最高責任者に率直に問いたい。
現戦力で海の向こうの大陸、その連合に
帝国は勝てるか?」
大柄な体を鎧に包んだ、黒の短髪に眠たそうに
半開きの目をした将軍が口を開く。
「報告の全てを事実と仮定した場合……」
そこで彼はいったん間を置いて、
「全く問題はありませんな」
堂々とした将軍の答えに、パープルの長髪をした
王女が慌てて立ち上がる。
「な……!
何を言っているのですか!?」
「控えよ、ティエラ。
アルヘンよ、その根拠は?」
娘を制し先を促す皇帝に、アルヘンは
周囲に視線を一巡させ、
「ワイバーン・ライダーの存在は脅威だと
思いますが、いかんせん数が足りず―――
戦局が左右するほどの影響はありません。
何より、あちらには洋上戦力が無い。
来年の春にはワイバーン用の滑走船も
配備が完了し……
それに飛翔体発射船も千隻を超える規模で
出撃可能になります」
「……勇ましいが、ティエラ王女様や他の
使者たちが言っていた―――
ワイバーン・ライダーへの対応はどうする
つもりだ?
戦局を左右するほどでは無いというが、
それは多大な犠牲を前提とするものでは?」
ロマンスグレーの、イギリス紳士のような初老の
外務大臣が、将軍に異を唱える。
「あちらのワイバーン・ライダーとはまともに
当たりません。
こちらのワイバーン用の滑走船は、
空の哨戒専用とし、それで警戒させます。
飛翔体発射船の半数を対空特化仕様とし、
ワイバーン・ライダーはそれで防ぎ―――
残りで対地攻撃を」
彼が話し終えると、ブランが片手を挙げ、
「そ、それであのワイバーン・ライダーの編隊を
落とせますか?」
次いでティグレも続き、
「私とラドはこの目で見ましたが、
途中で編隊を組み替え、さらには航空管制なる
専用の空の管理担当がおり、それで次々と
変化する状況に空にいるままで対応する。
奇襲など仕掛けられたら目も当てられません」
二人の説明に、アルヘンはフー、と一息つき、
「何も落とす必要は無い。
近付かせなければそれで十分。
それに貴殿らは少し怯え過ぎだ。
人一人を乗せているという事は、それだけ
機動力が落ちるという事でもある。
幸い、あちらのワイバーン・ライダーは数も
少なく、行動半径も滑走船を持つこちらの
比では無い。
戦力や練度が想定外だったのは認めるが―――
少しは落ち着きたまえ」
将軍は外務副大臣と魔戦団副隊長を諭すように、
余裕と呆れ、半々の表情となる。
「ふむ。
ロンバート魔戦団総司令はどうだ?
どう考える?」
皇帝が、黄色に近いブロンドの長髪の女性に
話を向ける。
「正直、不確定な要素があり過ぎると思います。
先ほどアルヘン将軍が言われた対応策も、
『予想通りに行けば』という想定でしか
ありません。
こちらにもワイバーンの情報はありますが、
ワイバーンが本気で全力で飛行し、
本気で戦い、本気で火球などを発した場合……
意思疎通が出来ないこちら側では、
想定に限界があるかと思われます」
無理やり使役している帝国側では、そもそも
ワイバーンの最大値を確認する方法が無い。
嫌々ながら従っている事は明白であり、
それは海の向こうの連合との決定的な違いで
あった。
「では、それが解決出来ればいいのですかな?」
ここで、新生『アノーミア』連邦からの
亡命者である、細身のグリーンの短髪の男が
発言する。
「何かあるか、ムラト新機軸技術部門主任」
皇帝マームードが発言すると、場は静まり返る。
静寂の中、注目を集めた彼は両手を顔の前で組み、
「将軍の案に乗っかる形ではありますが……
要は想定以上の速度・能力があったとしても、
対応出来ればいいのでしょう?
まずは誘導飛翔体の航続距離を、さらに
伸ばします。
そして対空用の飛翔体は、魔導爆弾による
攻撃力を落とすか無くします」
「それでどうなるのだ?」
皇帝が聞き返すと、ムラトはそちらへ
向き直り、
「なるべく遠距離からの攻撃にするだけです。
単純に。
ワイバーンさえ飛んで来れない距離からの
攻撃は、こちら側の安全性を高めます。
万が一飛んで来た場合―――
攻撃力と引き換えに数を揃えた対空用の
飛翔体で迎撃。
将軍の言う通り、近付かせなければいいのです。
航続距離が取れない相手ならなおさら、
長く現場で飛び続ける事は不可能でしょう。
そして相手の地上施設を破壊さえ出来れば、
確実に勝利を、ランドルフ帝国に!!」
演説のようなアストルの言葉が終わると、
全員の視線が皇帝に注目する。
マームードはテーブルの上を人差し指で
トントン、と叩き、
「勝利する方法はわかった。
しかし向こうの大陸は非常に友好的だったと
聞いている。
戦端を開く理由は何だ?」
さすがに勝てるイコール開戦とはならず、
皇帝は彼らに問い質す。
「安全保障です。
ドラゴンやワイバーン、他獣人族や
亜人といった他種族と共存している
連合―――
今は渡海能力を有しておりませんが、
それも時間の問題でしょう。
その時敵対されたら、勝ち目は薄いかと」
帝国武力省将軍は、未来の仮想敵勢力として
位置付ける。
「そ、それはあまりに短絡的では」
ティエラ王女が反発するが、
「私も、その理由は妥当かと」
「トジモフ大臣!?」
同意する外務大臣に王女は困惑する。
彼は続けて、
「考えてもみてください、ティエラ様。
我が帝国は周辺の国々、他種族を圧倒して
占領・支配してきました。
そして海の向こうに―――
人外や亜人に非常に寛容な大陸がある。
これを属領が知ったらどうなると
思うのですか?」
「う……」
ティエラは二の句が継げず、黙り込む。
「外務大臣殿の言う事、道理かと。
相手の脅威が小さいうちに、叩き潰して
おくべきです」
ムラトが追い打ちのように話すが、
「し、しかし!
ムラト殿がいた新生『アノーミア』連邦は、
今やあちらの連合国の一つですぞ!?
敵対せずとも共存の道を取っているでは
ありませんか!」
ティグレ魔戦団副隊長も、ティエラを
サポートするように口を挟むが、
「それはランドルフ帝国という脅威が
あったから、でしょう。
帝国も、何らかの脅威が出現するまで
待ちますか?
それなら、他種族や周辺国との和解も
出来るかも知れませんなあ。
いっそあちらの大陸が帝国より他種族に
苛烈なら、そうなったものを」
彼の反論に、戦争を望む者は自信に満ちた
表情を、消極的な者は困惑の色が浮かぶ。
そこで皇帝が片手を挙げ、
「そう先を急ぐな。
この会議だけで決めるような話ではない。
ただ、先ほどアルヘンとムラトが言って
おった、誘導飛翔体の改良は進めよ」
「「「ハハッ!!」」」
こうしていったん、御前会議は終了した。
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