『作曲の連絡をとったら、承諾されたんだ。』
スマホ越しに言うぺいんとの声は少し鼻声で、少し前に何かあったのだとわかる。多分、たくさん悩んでくれたんだろうなと心がざわめく。
……たくさん、悩んでくれたのに。
ふと、あっさりとゴミ箱へ捨ててしまったクラリネットを思い出す。切なくて、綺麗な音。その音が大好きだったはずなのに、今はもう聴けない。永遠と、聴けない音になったのだ。
『でも…作詞は?』
しにがみくんがそう問いかけると、ぺいんとは『俺がする』と答えた。作詞を自分ですると言ったぺいんとに俺としにがみくんは2人で驚く。別にやばいのができそうとか、面白さに走りそうだなっていう不安とかじゃなくて…ぺいんとの作詞は、もしかしたらすごいことになるんじゃないかって胸が大きく跳ねた気がしたんだ。
「………わかった、その案乗るよ。」
『えっ!く、クロノアさん?!』
『! ほ、本当ですか?!』
俺の返事に、しにがみくんは”正気ですか?!”とでも言うような返事をしていて、ぺいんとは嬉しそうな声を上げた。多分、俺がこの案に乗ったのはぺいんとの熱量に負けたのもあるけれど、このまま心友の案を否定し続けるのは違うと思ったからその案にのったんだと思う。 歌なんてあんま上手くないし、恥ずかしいけれどやるしかない。
そんな俺の返事を聞いたしにがみくんは、仕方がなしのような声で『わ、わかりましたよ…!』と返事をしていた。
その2人の賛同に、ノイキャンが凄いほど大きな声で『よっしゃああああああ!!!』と叫んでいて、ぺいんとの嬉しそうな声を聞けて俺は顔が自然と緩んでいた。
『じゃあこれも俺考えてたことなんですけど…』
ふと聞こえたぺいんとのその言葉に、俺は血の気が引いていくような気がした。
『クロノアさんにクラリネットで間奏部分を弾いてほしくて…。』
頭の整理が追いつかなくて、どうしようと思った。クラリネットは捨ててしまったし、歌と同様でそこまで上手いわけでもない。そんないい役につくとは思っていなくてぺいんとに気まずそうな感じで返事をしてしまった。
「ごめん…引っ越しの時にクラリネット捨てちゃったんだよね…。」
『ええええええええ?!ガチですか?!』
ノイキャンが入りながらもぺいんとの声は聞き取れた。悲しそうな声というか、驚きという感じの声がすごかったような気がする。それに、もしクラリネットがあったとしてもあと少しの期間で覚えられるかと言われたら…少し難しかった。
『まぁまぁ、無しでもいいじゃないですか?日常組ってそういうグループですし!』
しにがみくんがフォローに入ってきて、ぺいんとも渋々頷いてそのまま会議は進んだ。でもやっぱクラリネットという単語を聞くとどうしても弾きたくなってしまう。
いつの間にか1時間経っており、しにがみくんとぺいんとが作詞をしようという話になっていた。そろそろ終わるか話が出た時、俺は心に強く思いを決めた。
『じゃああとは作詞頑張りましょう!』
『そうだな!じゃあまた_____』
「待って!!」
通話を終えようとするしにがみくんとぺいんとに、俺は大きな声をあげた。その声に、2人は黙りこくって俺の言葉の続きを待っているようだった。
一つ深呼吸をして、心をリラックスさせてから相手に言葉を言い放った。
「クラリネット、やるよ。」
…………………………
『今回やけに熱心だな?何かあった?』
数日前…俺はトラゾーと電話をしていた頃だった。トラゾーは俺がトラゾーの歌の案をめちゃくちゃ推しているのを謎に思っているらしい。確かに、こんなに歌をやりたいっていうのはあんまり俺自身しない反応かもしれない。
けれど、ちゃんと理由はある。
「…ネタがない俺たちにくれたトラゾーの案だから、無駄にしたくないだけだよ。」
『本当か〜?本当にそれだけ?』
にまにましているような声でトラゾーは聞いてくる。それに俺は嘘をつくことはできなかった。確かにネタがない俺たちにトラゾーがくれた案を無駄にしたくない気持ちはある。でも、その他の理由としては…
「…この歌で、みんなと仲良くしたいんだよ。」
コメント
4件
わぁぁ✨ 投稿ありがとうございます! 皆の絆が深まる予感…! 次の投稿も頑張ってください!(*´꒳`*)
言葉選びが天才的すぎます😇👍🏻続きが気になりすぎる…!