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ツミコはビックリ仰天であった。
それはそうだろう、コユキは青年医師、丹波(タンバ)晃(アキラ)と庭に降りた瞬間に、彼の中の悪魔の存在に気が付いたと言った……
元『真なる聖女』たるツミコは、コユキ神隠しを伝えに戻って来た彼と接した時でさえ、彼が悪魔に憑かれていたとは一ミリも思っていなかった、気が付く事が出来なかったのだから……
因み(ちなみ)にここで使われている『馬鹿』という言葉は通常の意味とはちょっと違う。
悪魔が現世(うつしよ)に顕現する際に人や動物に憑依した時、対象の生物の感情や特性に引っ張られて、ちっとおかしくなってしまった状態を指す、謂わば聖女や聖戦士の業界用語なのである。
「こ、コユキ…… あ、あんた……」
絶句、かつての真なる聖女、ツミコだからこそ感じる力の奔流、恐怖すら感じてしまう規格外の能力を保有したチョデブいや超デブな姪、自身の大いなる後継者はツミコの膝の上に頭を置いてグゥグゥ眠りこけてしまっていたのであった。
「ふうぅ~!」
気持ちを切り替えるように長い息を吐いたツミコは運転席のミチエに声を掛けるのであった。
「お姉さん、運転の方は大丈夫かね?」
答えた母ミチエが唸った。
「う、うん、大丈夫だよ…… てかアタシハンドルに触れてるだけなんだけどね…… この子(車)勝手に動くのね…… チョット気持ち悪いわ~……」
「ははは、んだね!」
笑い返したツミコの顔は、言葉とは裏腹に引き締められたものに変わっていたのであった。
――――この子、コユキは今迄の聖女、あたし達とは、違う…… 若(も)しかしてこの宿命を解放する存在なのかも、知れない…… はっ! まさか、幸福寺の和尚様、善悪、よしおちゃんも…… いや、ま、まさかね…… でも…… 若しかして…… !! っ!
ツミコの愛車、ハマー、ハンビーは速度を落とすことなく、大茶園の真ん中、茶糖家に吸い込まれるように辿り着いたのであった。
先々代の真なる聖女、もとアル中患者の叔母さんは思った、いや願ったのである。
――――運命という名の残酷な宿命、それに終止符を打ってくれるというの、コユキ…… 過去にないほど肥え太った、真なる聖女、愛する我姪よ…… ハレルヤ……
と……
妹たちの待つ我が家に帰還したコユキを迎えたのは、末の妹リエの業(わざ)とらしい位に明るい嬌声(きょうせい)であった。
「キャァー! おっかえりぃー! ユキ姉ー! どうだった? 格好良い人だったでしょう? ん、んん、んんん? どうなのぉー!」
コユキは半分寝たままで、何とかリエに答えるのであった。
「ん、ああ、そうね…… カッコ良い感じの悪魔が憑いてたわよ…… ウトゥックとか言ったか…… まあ、無事祓(はら)えて、ふわあぁ~、まあ、良かったわねえぇ~、ふわあぁぁ~」
「え! え? えっ! あ、悪魔…… だったの?」
「うん、そうだよ、そんな事より、ちっと寝るわ! んじゃおやすみぃ~」
「…………」
「おやすみなさぁ~いぃ~」
唖然とするリエ、いつも通りニコニコ顔でゆったり見つめるリョウコを尻目に、さっさと自分の部屋へ戻って行ってしまうコユキである。