テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#ざまあ
#裏切り
#モテテク
箱根から戻った翌日
我が家のリビングには、何事もなかったかのように直樹がふんぞり返っていた。
「あー、接待は疲れるな。おい詩織、肩揉めよ。誰のおかげで高級旅館の経費を稼げてると思ってるんだ?」
自分の不倫旅行を「俺の稼ぎ」と自慢する姿。
バッグの中にある、あの決定的な動画と写真を見せてやりたい衝動を、私は必死に抑え込む。
(今じゃない。今出せば、有能な弁護士を雇われて逃げられるかもしれない)
私は無言で直樹の肩に手を置いた。
「……硬いわね、直樹」
「当たり前だろ、責任ある仕事をしてるんだ。お前みたいに家でダラダラしてる女には一生分かんねえだろうけどな」
直樹はスマホで莉奈とLINEをしているのか、ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべている。
その指先が、私の貯金を引き出した指だと思うと、指先から腐敗が伝わってくるようで吐き気がした。
翌朝、直樹を送り出した後、私はすぐにPCを開いた。
メールボックスには、驚くべき通知が届いていた。
『【重要】継続案件のご相談:ECサイト全体のデザインリニューアルについて』
先日納品したバナーが、クライアントの社長の目に留まったらしい。
提示された報酬額は────30万円
「……30万」
声が震えた。
これがあれば、陽太を連れて家を出るための初期費用に手が届く。
私はすぐさま受託の返信を打ち込んだ。
没頭して作業を続けていた、その時だった。
「……おい、何してる」
背後から突き刺さるような声。
心臓が跳ね上がり、視界が真っ暗になる。
「な……直樹!? なんで……」
「忘れ物だ。……それより、お前。さっきから何の画面見てるんだ?」
直樹が、獲物を狙う蛇のような目で、私のPCを覗き込もうと近づいてくる。
私は反射的に画面を腕で隠した。
「何でもないわ、ただの……懸賞サイトよ! ほら、少しでも家計の足しになればと思って……」
「懸賞? 嘘をつけ。さっきチラッと見えたぞ、複雑なグラフみたいな画面が。お前、まさか俺に隠れて投資でもしてるんじゃないだろうな?」
直樹の手が、私の手首を強く掴んだ。
「痛いっ……放して!」
「見せろ! 怪しい真似してたらタダじゃおかないからな!」
直樹がPCを強引に奪い取ろうとした、その瞬間。
彼のスマホが激しく鳴り響いた。
画面に表示されたのは───『会社(経理部)』の文字。
直樹の顔から一瞬で血の気が引いた。
「……チッ、経理からか。うるせえな、精算の不備か?」
彼は私を突き飛ばし、忌々しそうに電話に出ながら部屋を出て行った。
「はい、直樹です。……ええ、箱根の件ですか?はい、間違いなく接待ですが……え?領収書の詳細?」
廊下から聞こえる直樹の焦ったような声。
(経理が動き出した……?)
私は荒い呼吸を整えながら、PCをバッグの奥深くに隠した。
まだ、決定打ではないはず。
でも、会社が疑い始めたのは確かだ。
直樹が戻ってくる前に、私はスマホの「抹殺計画」フォルダを開き
箱根で撮った動画をクラウドのさらに深い階層へバックアップした。
(……もうすぐね、直樹)
あなたが私を「無能」と呼び、支配し、搾取し続けた報い。
まずはその「誇らしい仕事」から、剥ぎ取ってあげる。
【残り94日】