「甘い誘惑 -結ばれる夜-」
「俺に……全部、触れさせて?」
その一言のあと、部屋の空気が静かに変わった。
鼓動の音だけがやけに大きく響いて、呼吸が浅くなる。
私が目をそらさなかったからだろう。
若井くんは、ゆっくりと、まるで確かめるように私の身体を抱きしめた。
「……大丈夫。ちゃんと、優しくするから。」
その言葉とともに、ベッドに押し倒されるようにして横たわった。
でも強引さはなくて、彼の手はずっと、震えていた。
「……緊張してるの、俺の方かも。」
そう言って、少し照れたように笑う。
その笑顔を見て、心が少しだけ緩んだ。
(この人は……本気で、私を大切にしようとしてるんだ)
そう思った瞬間、涙がにじんだ。
けれどそれは、もう“怖さ”じゃなくて――“あたたかさ”だった。
彼の手が、ゆっくりと私の肌に触れる。
服を脱がされていく感覚は、どこか夢の中みたいで、でも確かに現実で。
「……綺麗だね」
そう呟いた彼の声が、耳の奥で響いた。
重なる唇。
繋がった指先。
触れ合う体温。
やがて、彼の動きがゆっくりと深くなる。
身体がひとつに溶け合っていくたびに、心がほどけていくのを感じた。
「痛くない……?」
「……うん、大丈夫」
「……よかった……」
汗が混じった髪が額に張り付き、何度もキスが降ってくる。
名前を、そっと呼ばれた。
そのたびに胸の奥が熱くなる。
夜の静寂の中で、何もかもが溶けていく。
心と心が、ちゃんと繋がって――
そして、すべてが静かに満たされた。
翌朝
「……起きてる?」
目を覚ましたとき、若井くんは私の隣で髪を撫でていた。
「ごめんね。無理させてないか、ずっと気になってて。」
その優しい声を聞いて、
私は、ただそっと首を横に振る。
「……ありがとう」
心からのその一言に、彼は笑って、もう一度だけキスを落とした。