※感染症の流行していない世界線の設定です
Side 桃
目を覚ませば、見知らぬ天井が視界に飛び込んでくる。
「あれ…」
ここ、どこだっけ。
身体を起こしたところで、突然目の前がぐらりと揺れる。身体の平衡が保てなくなって、ベッドに逆戻りする。
ああ、確かここはホテルだ。
横を見ると、布団をかぶって熟睡しているジェシーの姿が。
俺ら2人は昨日からロケで地方に来ている。2日目は午前中に撮影をしてから帰るんだった。
重いまぶたを開け、ベッドサイドの時計を見る。デジタルの数字は「5:13」と表示されていた。
まだ早いから寝ようと思ったけど、少し喉が痛い気がする。喉が渇いてるのかな。
俺は上体を起こし、掛け布団をはぐ。どことなく身体がだるかった。
「はあ…コホッ」
もうこれは大体察しが付く。風邪でも引いたんだろう。
半ば足を引きずるようにして冷蔵庫からペットボトルを出し、一杯飲む。
ジェシーは相変わらず、大の字にになって寝ている。毛布から手足が出ているが大丈夫なのだろうか。
起こさないようにそっとベッドに戻り、やけに寒さの感じる身体に毛布を巻きつけた。
「……が、たいが、大我ー?」
ふとそんな声がしてまぶたを動かすと、眼前にはジェシーの顔があった。
「おはよ。もう起きる時間だよ」
少しはマシになってくれてたらいいな、と思いながらまた起き上がる。しかしやはり変わらないだるさと喉の痛みを自覚すると同時に、ジェシーがこう言った。
「あれ大我、なんか顔赤くない?」
俺は内心ぎくりとなる。
「変な夢でも見た?」ととぼけなのかすらもわからないことを言いながら、俺の額に手を当てる。
「うわっ、熱いじゃん」
はあ、と肩を落とした。やっぱりか。
「体温計もらってくるね。あと冷やせるものとか…」
俺はひと言も発していないのに、勝手にてきぱきと進めていくジェシーに心の中で感謝する。隠し通そうかとも思ってたけど、メンバーには心配してもらいたい自分がいた。
とりあえずベッドに横になり、ルームメイトの帰りを待つ。
しかしその間にも、今度は頭も痛くなってきた。
布団を首元まで上げて耐えていると、何やら手に色々持ったジェシーが戻ってきた。
「スタッフさんに言ってきたよ。大我が熱っぽいから、今日の撮影はお休みでって。ほい、熱測って」
差し出された体温計をわきに挟むと、ジェシーは俺の頭を支えて氷枕に変えてくれた。
「これでちょっと楽になるといいんだけどね……今どこが辛い?」
そう問われ、小さく答える。
「だるくて喉痛い……。あと頭」
あちゃー、と言うように唇を歪めた。
「でしかも熱が、38度2分か」
音が鳴った体温計を抜き取り、ジェシーは数値を見た。
「もしかして昨日から体調悪かった?」
俺は首を振る。「…今朝、急に」
うんとうなずいて、背を向ける。水の入ったコップと錠剤を渡してくれた。
「解熱剤、飲んどきな」
飲み込むのを見届けてから、俺の頭を優しくなでてくる。
「疲れたよね。しばらく寝ときな。俺ずっとここにいるから」
その言葉に安心して、再びの眠りについた。
続く
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