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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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「彩はその曲を今日まで知らなかったんだよね? だったら、和也君との絆ではないと思うよ」
「えっ?」
「彩と和也君はもう付き合って一年以上になるけど、その曲を知らなかったんでしょ? と言う事は隠していたって事じゃない?」
「……隠していたかどうかは知らないけど、言ってなかったみたいだったな……」
拓馬は和也の言葉を思い出して、明菜に言った。
「拓馬君が居た世界じゃ、和也君は後二か月もしないで死ぬんだよね。だったら、その曲は和也君が死んでから知ったんじゃないかな。……和也君を失った悲しみから逃れる為に、彼が好きだった曲を聴き込んだんだよ、きっと」
「そうか……」
「きっかけは和也君だろうけど、その曲の思い出は拓馬君の方が多いんじゃない?」
全て憶測でしかない明菜の言葉だったが、拓馬には説得力があるように感じた。
――確かに思い出してみれば、一緒に聴いていた時の彩はしっかりと俺を見ていた。それを否定する事は、彩が持つ俺への想い全てを否定するのと同じだ。それは違う、彩は確かに俺を愛してくれていた。
「それに人形も和也君を思い出す為に吊るしたんじゃなくて、もう二度と愛する人を失いたくない思いがあったんじゃないかな」
「愛する人を失いたくない……」
「経緯はよくわからないけど、事故に遭った時に和也君は人形を持っていなかったんじゃない。だってずっと無くしてたみたいだし」
「そうだな……和也はそう言ってたよな……」
「きっとRCの曲も、あの人形も、和也君が死んでから彩は知ったんだよ」
「そうか……そうだよな、彩は心配してくれていたんだよな」
「そうそう、私の言う事は多分間違ってないよ」
「本当にそうだ、ありがとう。なんか勇気が湧いてきたよ」
「それは良かった。結構単純なのね」
元気が出てきた拓馬を見て、明菜が冗談めかして言う。元気づける為に、わざと拓馬よりの考え方をしたが、実際の彩の気持ちは彼女にしかわからない。切っ掛けは和也なのだから、曲を聴いたり人形を見たりする度に思い出していたのかも知れないし、いくらでもネガティブに考えられる。でも、そう考えて落ち込み続けるよりは、前向きに捉えて気分を変えた拓馬に、明菜は好感を覚えた。
「俺は和也の命を救い、彩を取り戻す。この恩は和也をフリーにする事で返すよ」
「あっ、ちょっと誤解しているようなので言っとくけど……」
「なんだよ、誤解って?」
「悪いけど、私は拓馬君が彩の気持ちを振り向かせられるとは思っていないの」
「ええっ……」
拓馬は落胆した声を出した。
「一年以上二人を見てきたからわかるのよ。あの二人の間には誰も割り込めない。いや、割り込んで欲しくないと思っているのかもね」
「じゃあ……じゃあ、なんで俺に協力してくれるんだ?」
「それは、その……拓馬君の話は信じられると思ったから。和也君の命を救う為には協力した方が良いと思ったからよ」
そうは言ったが、それだけではないと明菜は感じていた。彩に対して一生懸命な拓馬を応援したい気持ちが確かにある。彩と和也の関係を壊したくない。でも拓馬は応援したい。その矛盾した気持ちは自分でも説明出来ない。
――私は拓馬君に自分の気持ちを投影しているのだろうか? 伝えられない和也君への想いを、拓馬君を応援する事で満たしているのだろうか?
「でも、和也の事が好きなんだろ? 二人の仲を壊したくないって、それじゃあ一生片思いのままで終わるじゃないか」
「あなたに私の気持ちはわからないわ。好きな人の幸せを願うのは悪い事なの? 彩と一緒に居れば和也君は幸せになれる。私はそう確信しているから、二人を見守りたいのよ」
そう言われると拓馬は何も言い返せなかった。
――俺のしている事はエゴなのだろうか? 今の彩は、間違いなく幸せの絶頂に居る。和也の命を救って、二人を見守る事が彩にとって一番幸せな道なんじゃないのか? 本当に彩の事が好きならそうすべきじゃないのか?
「ごめん、言い過ぎたね。別に拓馬君の行動を否定したい訳じゃないのよ」
明菜は拓馬を見ていると、自分の気持ちが揺らぐ気がした。自分も拓馬のように、和也に対する想いをがむしゃらに伝えるべきじゃないのかと。
「もう晩御飯の時間だから帰るよ」
明菜は拓馬と目を合わさずに、鞄を持って立ち上がった。
「明菜……」
「またメールする。じゃあね」
拓馬を残し、明菜は出口に向かって歩き出す。
「明菜!」
拓馬に呼び止められ、明菜は振り返る。
「俺、本当に感謝してるよ。過去に戻るなんて不思議な事を理解してくれて、協力までしてくれて、ありがとう」
「うん」
明菜は目を伏せて小さな声で返事をした後、また出口に向かって歩いて行った。
「ああ、もう、俺はなんて馬鹿なんだ」
明菜の後姿を見送った後、拓馬は自分に対する腹立たしさに声を上げた。
明菜は元気づけようとしてくれたのに、自分は逆に傷付けてしまった。もっと言葉を選べば良かったと後悔した。
「でも、自分の幸せも考えて良いんだよ、明菜……」
拓馬は明菜の消えた方向に向かい呟いた。
その夜、部屋で試験勉強していた明菜は集中出来ずに、公園での事を考えていた。
――私は本当に彩達が幸せになって欲しいと思っているんだろうか……。仲の良い二人を見ていて、どうしようもなく辛い時がある。だからといって和也君に自分の気持ちを伝えて恋人になりたいとは思えない……。
――未来の私は和也君に想いを伝えられずに後悔はしなかったのかな……。
「ああっ、もうやめ! 勉強しよう」
明菜は結論の出ない考えをやめて勉強に集中する事にした。
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