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司ほな読切のくせに司ほなじゃありません…
モブほな ←司 年齢操作あり
高校時代司くんに告白してフラれた穂波ちゃんとフッたのをずっと後悔してた司くんが、大人になって再開する話です。穂波ちゃんは結婚済、息子がいます。
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―『すきです、司さん』
夕陽に照らされたその潤んだ瞳が、まっすぐにオレを見つめる。穂波の事を一人の女性として見たことがなかったわけじゃない、穂波からの告白は素直に嬉しかった。でも、心から彼女を愛せる自信がなかったのだ。だから、
『…オレは……』
ー穂波の気持ちには、応えられない。
引きつって泣き出しそうになってしまった少女のあの笑顔は、今でも鮮明に覚えている。あの時のオレには、震える声で礼だけを伝えて走り去る穂波を、引き止めることができなかった。
久々に休暇がとれたので、なんとなく、新設されたショッピングモールに来てみた。街中にオープンセールの貼り紙が貼ってあったからだろう、ショッピングモールの中はどこもかしこも人でいっぱいだった。変装用の帽子を深く被り直し、さあどの店を見ようかと踏み出した時だった。
「……司さん?」
懐かしい声で名前を呼ばれて振り返る。大人びた容姿の可憐な少女ー…いや、ひとりの女性がこちらを見ていた。
「……穂波?」
記憶にある名前を、恐る恐る口にする。
「やっぱり司さんなんですね……!お久しぶりです。」
高校卒業以来でしょうか、とやや照れながら穂波が言う。
「ああ、久しぶりだな。バンドは順調か?」
「はい。とは言っても、最近は色々と忙しくて、あまり練習できていないんですが……。司さんも、最近はよくテレビでお見かけしますね。相変わらずお元気そうで、わたしも嬉しいです。」
「はは、オレはいつでも元気だぞ。ところで、穂波は今日はー……」
「おかあさーん!」
お母さん。
その響きに身体が硬直する。恐る恐る振り返ると、4、5歳程度の男の子が、こちらを見上げていた。
「……あ、おかえりなさい。欲しかったおもちゃはあった?」
「うん!おとうさんがかってくれたよ!」
男の子と戯れる穂波を見て、どくどくと心臓が脈打つ。
「…あ、すみません、紹介しますね。ええっと……主人と、息子です。」
男の子のあとに着いてきた男性を、穂波は照れくさそうに「主人」だと言った。ひゅっ、と声にならない悲鳴が上がる。全身に鳥肌が立った。
「て、天馬さんですか……?!すごい、本物だ……!!穂波から話は聞いていましたが、まさか会えるなんて……」
「あ、ああ、こちらこそ、お会いできて嬉しいです。」
穂波の夫だという彼は、この前の番組がよかっただの、主演の映画がどうだっただの、流暢に話し始める。肝心のオレはというとそれどころではなくて、話の内容が全く入ってこない。そこで世間話にも飽きたのか、男の子が口を開く。
「ねー、アイスたべたい!」
「えっ?アイス?」
「全く、食いしん坊だなあ。さっきクレープも食べたじゃないか。」
「でも、アイスもたべたい!」
微笑ましい会話のあとに、それじゃあと会釈をした夫と息子が、手を繋いでフードコートへと歩いて行く。続くように穂波も、オレに向かって小さな礼をした。
「それじゃあ、失礼しますね。また……」
「っ穂波、」
そんな穂波を、つい、呼び止めてしまう。
「?……どうかしましたか?」
「………あ、ええと……」
言いたかったはずの言葉が胸につっかえて、言葉にならない。そんな沈黙が少し続き、向こうから聞こえる、穂波を呼ぶ声で現実に引き戻された。
「その、だな。今日は、話せてよかった。……お幸せに。」
言いたかったことはこんなことじゃない。何が言いたいかなんて分からないけど、それだけは理解出来た。思わずギュッと拳を握りしめて、控えめに俯いた。その時だった。
「……引き止めて、くれないんですか。」
「…え?」
予想外の穂波の言葉に驚いて顔を上げると、どこか寂しさを含んだ笑顔をこちらに向ける穂波がいた。どく、と心臓が脈打つ。
ーずっと後悔していた。
穂波の告白を断ってから、何故か彼女への想いは増す一方で、ああこれが恋なんだと気付いてしまったときには、辛くて仕方がなかった。あの時彼女の手を取っていたら、違ったのだろうか。大人になった君の隣にいたのは、彼じゃなくて自分だったんじゃないか。そんな寂しそうな顔をされてしまっては、身勝手な妄想が頭の中を渦巻く。
「…でも、」
それでも、あの時穂波の想いから逃げたオレに、今のこの身勝手な想いをぶつける資格はない。ようやく彼女が掴んだ幸せを、オレが壊していいはずがない。そんなことは分かっている。
「オレに…そんな資格は……ないんだ。」
震える声で、ありのままの言葉を放った。少しの沈黙が2人を包む。長いようでとても短いこの時間を、最初に断ち切ったのは穂波だった。
「……そうですか。……今日はありがとうございました。」
穂波は笑った。さっきとは違う、寂しさなんて、後悔なんてひとつもない、いつか見せた花が咲くような笑みで。今度こそ最後と言うように手を振った彼女は、ついにあちらに向かって駆け出してしまった。
ーやっぱり行かないで、行って欲しくない、そばにいて欲しい。もう一度名前を呼んで欲しい。向き合って、もう一度やり直させて欲しい。自分勝手でひとりよがりで、どうしようもない感情だって分かってる、だけど、君を愛するのが怖かったんだ。
「…あ、」
仲睦まじい、目先の家族を見て、伸ばした手からするりと力が抜けた。
……もう、君には届かないのか。
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