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apumi
25
#片思い
#ミルキーサブウェイ
白玉粉
82
「マーヤは側近から外す。あとはしばらく事務作業のみをさせるように。重要案件は回さずに瑣末な案件を大量にこなさせよ。もし外出をするようであれば、監視。魅了娘との接触は回避させるよう、頼んだぞ」
「「はっ!」」
控えていた護衛の一人が深々と頭を下げて部屋を出て行く。
即座にエックハルトの指示を伝えに行くのだろう。
手配が迅速で好感が持てた。
「院長も呼び出しましょう」
「魅了娘も一緒の方がよろしゅうございますね。あとは魅了にかかっている者は全て」
結構な人数になりそうだ。
今いる部屋に入りきれるだろうか。
私たちが使っているテーブルを片付ければいけるかな?
クレメンティーネが断罪される者の召喚手配をしている間に、ふと手土産を思い出した。
「もっと早く出すべきでしたが、手土産を用意しているのです。おわたししても?」
「手前どもも用意してございます!」
エックハルトが身を乗り出してきた。
言うタイミングを見計らっていたのかな?
もしかしたらこちらからの申し出を待っていたのかもしれない。
この辺りは礼節的にどうなのだろう。
エックハルトの焦りようから察するに、目下の者から切り出すのが正しそうだ。
「それでは、そちらの手土産から拝見しようかのぅ」
彩絲がそう言うので、やはり向こうから切り出すべき件だったのだ。
申し訳ないことをした。
「では失礼いたしまして……装飾品などは服ダンジョンで十分かと思いまして、珍しい食材を用意いたしました」
部屋の片隅に置かれた衝立が、控えていたメイドの手によってさっとどかされる。
「果物は日持ちがしないので御注意くださいませ」
上半身が裸の従僕? が大きな箱を五つ運んでくる。
そして素早く箱を開けてくれた。
三つが果物、二つが他の食材だった。
ぱっと見、スパイスが多そうだ。
「あ、良かったね、主様。ローズブルールツが入っているよ?」
あとでお願いしようと思っていた異世界産変わり種の果物だ。
青い薔薇の形をしていて美しく、味は柑橘系。
やはりお勧めらしく大きな箱の半分はこれが詰まっていた。
「うむ。スタールツ(スターフルーツ)は知っているだろうが、ムーンルツは初めて見るだろう? これも美味なのじゃ」
彩絲が手に取ったのは三日月の形をしたフルーツ。
切ると星の形に見えるスターフルーツはあちらにあったが、ムーンフルーツはなかった。
しかも色が真紅。
ブラッドムーンフルーツと名付けられていそうだ。
二人やエックハルトの説明を待たずにいそいそと鑑定する。
ドラゴンルツ(ドラゴンフルーツ)は外側の色が三色あった。
それぞれブルードラゴンルツ、レッドドラゴンルツ、イエロードラゴンルツという名前。 順番に爽やかさ、甘さ、食感がお勧めらしい。
私にはレッドドラゴンルツがお勧めと表示された。
ドドリアン(ドリアン)の悪臭はないと聞きほっとする。
味はクリーミーで濃厚。
見た目はあちらと一緒。
これに関してはダントツで異世界産だろう。
私は匂いに負けてドリアンが食べられなかった口なのだ。
モヤチェリン(チェリモヤ)はパイナップル、マンゴスチンと並んで世界三大美果と、向こうの世界では評価されていた果物。
しかし食べる機会に恵まれなかった果物でもあった。
食べたいねー、と言っていたが日本での流通は少なかったようだ。
夫に頼めばすぐに手配してくれた気もするけどね。
あちらの物より大きいので食べ応えがありそうだ。
楽しみ過ぎる!
他にも何種類かの果物が入っていたが、どれも美味しそうだった。
調味料も気になるものが多い。
暑い地方といえば、香辛料が有名な印象だ。
その印象は割と正しかったようで、香辛料専用袋に収められた物はカレーに使われるスパイスが大半を占めていた。
これだけあればスパイスで作るカレーもできそうだ。
辛さ控えめのものを子供たちにも食べさせてあげたい。
あ、でもスパイスカレーならこっちにもあるのかな?
私の楽しげな様子に彩絲と雪華は満足そうで、エックハルトとクレメンティーネは安堵しているようだ。
「では、妾たちからはこれじゃ」
彩絲が決めてあった土産物を取り出す。
高級野菜を一ダース、普通野菜を五ダース、そして大量のふよんどだ。
ふよんどは見本として大きめの一箱に入っていた。
他にも目録がついている。
既に館へ手配されているとのこと。
イグナーツを通しているから問題なかったそうだ。
肉魚セットはインパクトが薄いから、目録に記載して現物は館に送ってあるらしい。
またこれらは土産物ではなく、販売する旨も目録に記載してあると、事前に教えてもらっていた。
土産物が販売権とか味けないよねぇ? と思ったのは私だけだったらしい。
「まぁ! こんなにたくさん手配いただけたのですか?」
クレメンティーネが手を叩いて喜ぶ。
妖艶美女の無邪気な笑顔はすばらしい御褒美です!
「け、定期購入まで検討いただけるとは……今後も誠実に対応していきますので、どうかよろしくお願いいたします!」
エックハルトも大興奮だ。
それだけふよんどへの期待が大きいのだろう。
砂漠地帯で新鮮な野菜がすぐに手に入るとか、確かに夢のようだよね。
いただいた果物への、喜び以上のものを返せたようでほっとする。
ほっとしたら続きの料理が気になってきた。
箱から移動して席へと戻る。
荷物は香辛料を全てノワールが、果物を彩絲と雪華が収納してくれた。
「魚料理はハーブでマリネしたスキラップ(帆立)のローストでございます。ナココツ(
ココナッツ)とマーハグリ(蛤)のソースで絡めてお召し上がりくださいませ」
焼き野菜もそっと添えられている。
蛤とココナッツのソースって? と思ったけれど、口にしてみれば驚くほど好みだった。
料理は自分でもするけど、プロに及ばないなあと思う一つに、食材の組み合わせがある。
自分が自由に組み合わせたら絶対に美味しくならない自信があるほどだ。
基本レシピを忠実に作る性分と自負している。
時々冒険をしたくなるけど、夫にも食べさせる点を考えれば無謀な真似はできない。
美味しい料理が難しくても、まずい料理は出したくないでしょう?
「レッドペッパー(赤胡椒)が白いクリームの中に置かれているのがとても美しいですわ」
「うむ。しかもクリームと一緒に食すと味が随分と変化するので、飽きずに楽しめるな」
ノワールの料理は万人受けするのだ。
喜ばれれば我がことのように嬉しい。
続いて出されたのは氷菓子。
氷ダンジョンのものかなぁ、とわくわくと期待していれば、さすノワ。
「ハイビスカスのグラニテでございます。お好みでビーハニーをかけてお召し上がりくださいませ」
色は美しいワインレッド。
さっぱりとした酸味は口直しに向いている味だろう。
夫妻は仲良くビーハニーをかけている。
あまりに美味しそうだったので、自分も少しだけかけてみた。
とても美味しい。
別の機会にも食べたい好ましさだった。
「……して、魅了娘の処罰はどういったものを考えておるのだ? 具体的に」
口の端に残ったクリームソースをぺろりとなめ上げる所作すら様になっている彩絲が、ひたと夫妻を見詰めて問う。
夫妻の喉が仲良くごくりと音を立てた。
「魅了娘は……専門の機関に委ねたいと考えております」
「ほぅ?」
「正直に申しまして魅了の力が強すぎて、それ以上の対処を思いつかないのです」
「ええ、口惜しいことに。イグナーツからの報告では高性能の魅了封じのアイテムが三個も同時に、機能不全に陥ったのだとか……」
「あ! 主の持っている魅了封印の道具を使えば普通に断罪できるんじゃあ?」
夫妻の目線がこちらに向く、驚きと畏怖。
凄いのは私じゃなくて夫なんだけどね。
「イグナーツからも提案されていたから、封印具は提供しましょう。封印されてしまえばただの我が儘な少女でしょうから……」
「……完全に封じるのではなく、研究できる程度に抑える道具はないのかのぅ」
彩絲がそんな声を上げた。
「魅了に惑わされる者は多いのじゃ。少しでも研究されて対抗策を見いだせねばと……考えてしまってのぅ」
なるほど彩絲の意見も一理ある。
私は目を閉じるとこっそりと夫に聞いてみた。
ありますよ。
封印具も様々ですからね。
夫の返答はさすがは最高の旦那様! と心からの賛美を送れるものだった。
喜ぶ私の様子に察したらしい他の面々は、私よりも喜んでいる。
「封印具の代金は院長他魅了に屈してしまった人たちに、支払ってもらうことってできるかしら?」
「すばらしい御提案にございます!
間髪入れずイグナーツが返答する。
高価な封印具を壊されているからね。
無理もない。
「本人にも支払わせたいわ」
クレメンティーネの眼差しが仄かに暗い。
手配が遅れていたらエックハルトも魅了されていた可能性があるからねぇ。
当然の感情で、意見だ。
「……魅了娘って、結局どの施設に送るつもりなの?」
一同沈黙する。
思案中なのだろうか。
それとも言いあぐねている?
「私が知っている一番罰になりそうな施設って、宮廷魔導師館なんだけど……」
「おぉ! そちらへ入れていただけるのであれば、大変有り難いことでございます!」
「ええ! 被害者たちの溜飲も下がるというものですわ!」
「ふむ。厳し過ぎる気もするが……宮廷魔導師館なら手加減も絶妙であろうのぅ」
「主が指示すれば喜び勇んで引き受けるだろうねぇ。何しろ管理している責任者が主に心酔しているからさ」
エックハルト、クレメンティーネ、イグナーツが揃って強い視線を向けてきた。
敬愛と畏怖。
こちらの世界へ来て多く向けられている眼差しなので、忌避感はない。
「ではリーフェンシュタール様に連絡しておきます」
ノワールが腰を深く折って一歩下がる。
何やら連絡を取ってくれたようだ。
仕事が早すぎて声もでない。
「……はい。手配完了いたしました。送迎専門班を手配するとのことです。こちらは……到着まで十日前後お時間をいただきたいと」
私はエックハルトを見詰める。
エックハルトは大きく頷いた。
「それまではこちらでしっかりと牢に入れておきましょう」
「ああ、看守の代わりに封印具を設置している牢を使われるのですね?」
あら、そんな凄い牢があるんだ。
派手な犯罪でもあったのかな?
「一つしかございませんが、脱出不可能な牢でございます」
「私どもには理解できないのですが、牢の外から中への干渉はできるのですが、その逆は不可能となっているのです」
「お蔭でどれほどの凶悪犯罪者であっても、その牢の設置以降脱走を許したことはございません」
『御方が残した特殊技術が使われた封印具じゃろうな』
『たぶん、そうね。困っている人のところに勝手に飛んでいく機能をつけたとか、おっしゃっていたような……』
厨二病ですかね、喬人さん?
若気の至りです……。
どうやら夫製作のアイテムだったらしい。
高性能なのも、困っている人に優しいのも納得だ。
きちんと使われているのが嬉しかった。
使い方によっては完全監禁とかもできるからね。
「では魅了娘に関しては、その手配で決まりですね」
一番問題だった魅了娘の始末も決まった。
院長たちは労働で贖わせるので、こちらも完了。
となれば、今後は被害者への償いかな。
ふむふむと考えているとノワールが次の皿を出してきた。
話が一度区切れそうだから、続きはデザートと一緒にといった心配りかな?
「おお!」
「こ、これはすばらしい!」
エックハルトとイグナーツから感嘆の声が上がる。
「まぁ……こんなにも美しい真円は初めてですわ!」
少し遅れてクレメンティーネも続いた。
テーブルの上に置かれた皿の上には、まるうしのステーキが鎮座していたのだ。
それは見事な真円だった。
お店でいただいた物と比べても遜色ない。
つまりは超一流の食材だ。
「ん! この塩は……シーソルトじゃな?」
「そうか、シーソルト。パウダーソルトより美味しく感じるね!」
粗挽きのブラックペッパーは目視できたが、塩については見ただけではわからない。
ナイフでほどよい大きさに切って口にする。
とろっと脂身がとろける柔らかさ。
気のせいかもしれないが、お店で食べたときよりも美味しく感じる。
ちなみにまるうしのステーキの周囲は、野菜とシーソルト、ブラックペッパーで囲まれていた。
鮮やかに赤いパップリン、目が覚める緑色のグリーンアフロ、かりっかりに揚げられたイモッコのフライ。
そのままで食べたり、シーソルトをつけてみたり、ブラックペッパーをまぶしてみたり。
どの食べ方でもそれぞれの美味しさがあって、一皿でいろいろなものが満たされる一品だった。
「……ここまで様々な野菜が食べられるコースなんて、夢のようですわ」
クレメンティーネはノワールの手によるフルコースにめろめろだ。
まるうしのステーキをぺろっと食べる辺り健啖家なのかもしれない。
食に対して拘りがあるのなら、野菜がなかなか手に入らない環境ではストレスも多かっただろう。
今後はイグナーツが暗躍して野菜の入手が楽になるはずだから、存分に堪能してほしいものだ。
デザートはこれまた、手が込んでいる。
ミニアフタヌーンティーセットといったところか。
二段のスタンドの上に、一口サイズのデザートが美しく飾られていた。
スタンドに絡まっているローズブルールツが殊の外、艶やかだった。
「で。被害者たちへはどのような慰謝料が支払われるのじゃ?」
彩絲が満足そうにミニスコーンを食べながら尋ねる。
ミニスコーンにはティースプーンで赤いジャムが乗せられていた。
ロベリートスかな? と観察していれば。
『ポメグラネイトンのジャムじゃよ』
と返答があった。
柘榴ジャムとは希少だ。
ミニスコーンを半分に割って、一つはテッドクリーム、一つはポメグラネイトンのジャムでいただくことにした。
「一番の被害者は孤児たちですな。続いてシスター。そして関わりのあった商人や職人といったところでしょうか」
ムーンルツとスタールツのミニケーキを、ぱくりと一口で食べたエックハルトが首を傾げながら返答する。
「卒業した孤児たちにも被害があったと報告を受けております」
レッドドラゴンルツのゼリーをつるんと飲み込んだクレメンティーネは、果肉とゼリーの食感を楽しみつつエックハルトの発言に追加した。
「……愚痴を零してきた冒険者もいましたね。自業自得が多いですが」
呆れた口調のイグナーツはスチゴンマー(マンゴスチン)のアイスクリームを食べて、少しその苛立ちを収めながら呟く。
スチゴンマーのアイスは、皮の中に果肉とアイスクリームが入っている。
一瞬アイスクリームには見えなかったので、食べて驚いたデザートだ。
「孤児については再教育の子と、主が手配した冒険者&店員の勉強をする子を分けてあげないとね」
雪華は手に取ったウエハースに一瞬眉根を寄せてから、口の中に放り込む。
咀嚼してから満足げな顔で頷きながら告げた。
やっぱり何のスイーツなのか観察していたのがばれてしまい、こっそりと脳内に囁かれる。
ドドリアンのウエハースとのことだった。
独特の香りに美味しくないかも? と思ってしまい、つい顔に出てしまったらしい。
しかし口に入れてしまえばミルククリームの甘やかさが際だって、匂いは気にならず、どころか後を引く感じすらあったとのこと。
向こうでも現地では人気と聞いていた。
こちらでも同じなのかもしれない。
飲み物は温かいチャイに、冷たいラッシー。
どちらも美味しかったのでお代わりをしつつデザートを堪能する。
「商人と職人は……今後の事業に多少なりとも関わらせれば十分かと」
「最愛様と接点は持てないと、しっかり注意しておきますので!」
「冒険者には……ギルド長を締め上げねばならないようですわね?」
あらら。
冒険者はクレメンティーネから見ても日頃の行いがよろしくないようだ。
これを機に商人ギルドへの上から目線な態度が改善されればいいのだが。
「……皆様、一同が到着したようでございます」
もう少し食休みをしたいかなぁ、というタイミングで被害者と加害書が到着したようだ。
「では、少々待たせておこうかのぅ」
「被害者と加害者は分けてね。被害者には軽食と説明を」
雪華の指示にノワールが頷く。
「よろしくお願いいたしますわ」
クレメンティーネがノワールに頭を下げるのに続いて、エックハルトも深々と頭を下げていた。
コメント
1件
わあ〜第146話、読了したよ!🌸✨ 今回は豪華な食事シーンがたくさんあって、読んでるだけでお腹すいちゃったよ〜🥺💕 ノワールのフルコース、特にハイビスカスのグラニテとかまるうしのステーキ、もう完全に味が想像できちゃう…! 魅了娘の処遇も決まってスッキリしたね!彩絲の「研究用に」って提案、めっちゃ現実的で好き。夫との脳内会話も相変わらず尊いし、エックハルトたちの慌てふためく姿も面白かった(笑) 次回も楽しみにしてるよ〜!⋆♡