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護衛二人の背後に犯罪者が続いて中へと入ってきた。
でっぷりと太って豪奢な衣装を着ているのが院長。
孤児院経営のお金を絶対に着服している装いだ。
太っているのも体質ではなく、怠惰な生活のせいだろう。
そして。
その院長と対等な関係だといわんばかりに隣を歩くのが魅了娘。
恐らく。
だって、ピンク髪だし。
ツインテールだし。
……この世界にツインテールって表現あるのかしら?
普通に二つ結びとか言いそう。
そんな彼女もまた、孤児院に寄附されたのではない豪奢なドレスを身に纏っていた。
しかも!
ティアラまでつけている。
王族以外でもつけていいのかなぁ?
デビュタントのときは大丈夫だったような……。
その認識で間違いありませんよ。
あ、夫が答えてくれた。
王族が許可を出した場合でも着用可能です。
女性に功績があったときに、ティアラの贈与とともに着用が許されるという流れが多いですね。
また身内のパーティーであれば暗黙の了解で見逃されるようです。
花嫁も大丈夫だったと思います。
今回は不敬に当たりますよ。
「きゃっ!」
魅了娘の頭からティアラが外れた。
何本かの髪の毛を引き抜いたらしく、空中を移動するティアラにピンク色の髪の毛が絡みついている。
「いた! いたぃ……待ってよぅ、私のティアラっ!」
院長の頭上よりも高い位置を移動するティアラに向かって、魅了娘がジャンプするも無様に転がった。
子蜘蛛が何匹か見えたので、単純に勢いで滑ったわけではなさそうだ。
せっかくの豪華な……蛍光ピンクが目に眩しい……ドレスの一部が破れてしまった。
案外安価な生地を使っているのかもしれない。
ティアラはふわふわと移動して彩絲の手の中に落ち着いた。
「ちょっとおばさん! 私のティアラを返しなさいよ! きゃあああ!」
魅了娘が突進してくるも子蜘蛛たちが壁となって立ちはだかる。
蜘蛛に驚いたのか耳に優しくない甲高い悲鳴を上げた魅了娘は、そのまま蜘蛛たちの糸でぐるぐるに巻かれて転がされてしまった。
「御館様! 彼女の拘束を解いてくださいませ!」
「……解く必要はなかろう。どんな教育をすればそこまで恥知らずな娘になるんだ?」
「……無礼者が。何故ティアラの着用を咎めない? 最愛様の前で不敬を働くとは! その罰が軽いものであるなどと、夢想を抱くでないぞ」
魅了娘は口を蜘蛛糸で塞がれているのでしゃべれない。
ふがーふがーと鼻息は荒いので、呼吸はできているから問題はないだろう。
しかしドレスはどんどん破れるし、パンツが丸見えなんだけどいいのかしら。
「さ、最愛様?」
「そうだ。ダンジョンで酷い目に遇っていた孤児たちを保護してくださったのじゃ。そこの娘と貴殿に追い出された孤児たちを、な」
ラチム
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犬推し
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apumi
25
「わ、わたくしめは追い出してなど! あぁ、最愛様! 誤解なのです! 全ては神の思し召し!」
今度は院長がずだん! と結構な音をたてて転がる。
足元に子蛇たちの影を見た。
私に近づけないように頑張ってくれたらしい。
「近寄るな、下郎。そのまま伏しておれ。頭を上げるでないぞ」
ティアラから丁寧に髪の毛を取り除いていた彩絲が、怒気の溢れた声で院長に命令する。
院長はひっ! と小さく声を上げたが、彩絲の指示に従った。
「さて。諸悪の権化は院長とその娘だとして。追従した者は誰じゃ?」
追従の意味がわからないんじゃあ? とこっそり心の中で突っ込みを入れたが、シスターが一人素早く床に額ずいた。
「も、申し訳ございません! 院長に脅されて、指定された孤児を贔屓しておりました!」
「し、シスターは悪くないよっ! 院長が悪いんだよ!」
「あ、あとエッダ! エッダが悪いんだ!」
男の子が二人、シスターを庇う。
シスターは男の子の体を素早く抱えて、同じ体勢を取らせた。
「こ、この子たちは悪くありません! 私どもが上手に導けなかっただけなのです! ば、罰は全て私に与えてくださいませ!」
子供を庇うシスター、シスターを庇う男の子。
しかし、何処かが胡散臭い。
喜劇を見せられている気分だ。
「発言をお許しくださいませ……そのシスターは男の子の贔屓が酷いのです。エッダの我が儘に乗じて、可愛い女の子を率先して追い出していました。院長は……脅していないと思います。どころか、エッダが申しておりましたわ……と唆していました」
「嘘は許しませんよ、ハイデマリー!」
「ま、まりぃお姉ちゃんは、嘘なんてつかないもん!」
「そうだぞ! 本当のことしか言わねぇ! ちょ、ちょっと怖いけど、何時だって俺らを庇ってくれるんだ!」
諦観の眼差しを湛えたハイデマリー。
そんな彼女を庇う幼い女の子と、男の子。
「……私は健康だけが取り柄ですから、全員は守れずとも、己の手が届く範囲では、せめて」
拳がぎゅっと握り締められる。
追い出された子たちも守りたかったのだろう。
でも守り切れなかった。
そんな悔しさが感じられた。
先ほどの人物とは違う本物の真摯さがあった。
「発言の許可をいただけますでしょうか、御館様」
諦観よりも業が深そうな、虚無の眼差しをしたシスターが丁寧なカーテシーをする。
酷く華奢な体は病に冒されているのかもしれない。
顔色は悪く、カーテシーも話をするのも辛そうだ。
「許す」
「お許しいただきまして、ありがとうございます。ハイデマリーの申しました通り、院長はエッダ本人とその言葉を盲目的に信じており、従っております。またシスター メヒティルトは男児贔屓が酷く、いくつかの教会を転々としているのです。エッダにつきましては御館様に魅了のスキル持ちを報告し、処遇を仰ぐ手配を取っておりましたが……」
「届いておらぬな」
「奥方様への御報告は……」
「ごめんなさい。届いていないわ」
「申し訳ございません。私が直接出向くべきでした」
緩く噛み締めた唇の端が切れて血が滲み出る。
唇の乾燥が酷いのか、何度も噛み締めて出血がしやすくなっているのか、はたまた両方か。
このシスターは残すべきシスターなのだろう。
シスターの言葉を聞く子供たちの大半が涙目だ。
ハイデマリーも、彼女を庇った子供たちも涙を浮かべている。
院長は何故か惚けた表情をしていた。
自分の行動に自覚がなかったのかもしれない。
魅了中は自分の行動の是非を理解できていないとも聞くし。
「子供たちについては、新しい院長に導いていただければと思います。院長、エッダ、シスター メヒティルト、シスター ピーア、そして私には相応の罰を与えていただければ有り難いです」
「私は何もしていないでしょ! アンタのことだって庇ってあげたじゃない!」
「シスター ヴェローニカはわるくないんです、おやかたさま!」
「シスター ヴェローニカが罰を受けるなら、代わりに私が受けます!」
庇ってあげたじゃないとか、何たる上から目線。
そういう人は実際庇ってないんだよね。
庇っていても空回っている。
むしろ迷惑を被っている場合が多い。
そもそもこの女、自分から何も言わずに黙って嵐が過ぎるのを待っていた気がする。
随分と馬鹿にされたものだ。
最愛の旦那様はこの断罪劇を見守っている。
夫が罪を見逃すはずがないのだ。
「……罪にもいろいろあるし、罰にもいろいろある。シスター ヴェローニカ以外に意見がある者は挙手せよ」
ばっと手を上げたのはピーアと思わしき人物。
化粧が濃い。
香水が強い。
高々と挙げた手は随分と丁寧な手入れが施されている。
本当にシスターだろうか? と突っ込みを入れたくなった。
「化粧があり得ないほどに濃く、香水は鼻が曲がるほどにつけすぎ。しかも高級ハンドクリームで手入れをしている者がシスター?」
口元でぱんと扇子を開いて首を傾げるクレメンティーネ。
横領、していてそれなの? という残酷な副音声が聞こえてきそうだった。
ピーアは怒りにだろう。
顔を真っ赤にして鼻息を荒くしている。
何とか言葉を紡ごうとするも興奮しているのか、単語にもならない言葉が口をつくだけだ。
「はい。姿見。貴女の何処が駄目か、指摘してあげるね?」
誰もが認める可憐な美少女である雪華が、花が零れ落ちるような微笑を浮かべたまま、ピーアに話しかける。
姿見は全身が映せるもので、品質も良いものだ。
何を勘違いしたのかピーアは、いろいろな恥ずかしいポーズを取り始めた。
自分を美人だと思い込んでいる女性がしそうな……ナルシストまっしぐらのポーズだ。
幼い子供たちはくすくすと笑っている。
それだけ滑稽なのだ。
「まずシスター服の改造。娼婦も裸足で逃げる露出だってわかってる? よく見てね。かがまなくても尻が見えるシスターとか初めて見たわ。あとは胸。美乳でも巨乳でもないのに、乳首まで見えそうよ。ん? 角度によっては見えるのかしら」
風俗店のシスター服ならあるかもしれない。
ただほら、シスター服って清楚な感じの方が受けるから、それも微妙かもね。
「わ! 私の魅力を余すことなく知らしめる美しいデザインではないですか!」
「いいえ。全く美しくないわ。ほら!」
「ちょ! 雪華!」
自己評価が高すぎるピーアに苛立ちを抑えきれなかったのだろう。
雪華は一瞬で同じ格好になった。
うん、眼福です。
素敵なロリ巨乳だもんなぁ。
絶対に似合うよなぁ。
女の子やシスターたちが男の子の目を掌で塞いでいる。
クレメンティーネもしっかりとエックハルトの目を塞いでいるのには笑った。
イグナーツはがっつり見ているが、デザインそのものを細かく観察しているようだった。
何か商売に繋げるのかもしれない。
「あとは、化粧ね。濃すぎるのよ。おでことか厚塗りした生地が取れかけてるわよ? それから白すぎ。ゴーストと勘違いされるレベルね。目の大きさは左右が違うし、目の下に酷いクマがあるようにしか見えないわ。口紅も駄目ね。その口紅、一部の人には人気があるけど健康を害する成分が入っているわよ」
「えぇ!」
知らなかったらしい。
ピーアはシスター服の袖で紅を拭った。
薄汚れた袖が更に汚れてしまう。
口紅とかって他の汚れより落ちにくそうだけど大丈夫なのかしら?
「姿見に映り込みそうな香水も最悪。鼻を摘まみたくなる悪臭よ。安いからって何種類もの香水をつけるのは止めなさい。しかも系統が違う香水を混ぜるとか、貴女。センスも才能も全くないわよ」
雪華の流れるような説明に子供たちまでもが感心している。
「特殊性癖の娼館でも需要はないと思うわ。すっぴんの方が絶対マシね」
やれやれと大きく首を振った雪華は元の服に戻った。
院長が、ああ! と大きな声を上げる。
うちの守護獣を変な目で見ないでほしいわぁ。
「そんな! 私は、すごく、綺麗なの! 化粧をした私は、特別な存在なの!」
「姿見に映った自分をよーく見てね? 本当に貴女は美しいの?」
先ほどの雪華の言葉がぐるぐると頭を回っているのだろう。
よくよく観察すれば彼女の目がくるくると回っている。
「私は! 綺麗なのよっ。この! 姿見が悪いんだわ!」
安定の逆ギレです。
高価な姿見を壊したら弁償しないといけない。
そんな常識などピーアの中には存在しないようだ。
かんしゃくを起こした子供のように大きく拳を振り上げて、姿見を叩き壊そうとした。
「ぎゃああ!」
当然雪華が許すはずもない。
破片が飛び散ったりしたら危ないしね。
一瞬で設置したように、一瞬でしまい込んだ。
勢いよく姿見に向かって走ってきたピーアは、すってーんといい音をして転んでしまう。
デジャブ。
「いたいぃいいい!」
暴れる様子はエッダ以上だ。
大人の勢いと子供の勢いでは確かに違うとは思うが。
「……拘束のち、簡単な治癒を」
クレメンティーネの呆れた口調に頷いた護衛がさくさくと縄で縛り上げる。
ちらっとエッダを見たのは、蜘蛛糸の拘束を見習ったのかもしれない。
手首と足首を拘束して床へ転がす。
膝小僧にポーションを振り掛けていた。
べろりと剥けていた皮がじわじわと元通りになっていく。
「痛み止め! 痛み止めもちょうだいっ!」
怪我は完治しても痛みは残るようだ。
護衛たちはピーアのお尻を振りながらの懇願には軽蔑の眼差しを向けただけだった。
「その少女のように口も塞がれたいかしら?」
「! いいえ……でも、そのっ! 痛み止めだけは!」
「ポーション代、支払えるの?」
「え? お金、取るんですか?」
「どうして取られないと思ったのかしら」
深い溜め息がクレメンティーネの口から零れる。
何処か艶っぽい。
「わ! わたくしめが個人的に支払いますので、どうかシスター ピーアに御慈悲を!」
やっと流れに追いつけたのか、院長がそれらしく懇願する。
「相変わらず貴男は慈悲を与える相手を間違えるのねぇ」
院長の目がピーアのお尻に釘付けだからね。
エッダはさて置き、幼女相手に性的な欲望を向けないだけましかな。
……などと思うほど、駄目な人間だ。
「え、エックハルト様! は! 最愛様! どうぞ、御慈悲を賜りたく!」
思い出したように呼ばなくてもいいから。
私もクレメンティーネに倣って溜め息を吐く。
妖艶とはほど遠いけど、憂鬱さは伝わったらしい。
院長はまたしても床に額ずいた。
価値のない土下座をされてもねぇ?
エックハルトは私に目線で窺いを立ててくる。
私はお任せしますわ、と目を伏せてみせた。
今度はクレメンティーネの様子も窺っている。
クレメンティーネは私に倣ってくれた。
「ならぬ。子供たちが同様の怪我をしたとき、貴様らはポーションを与えたか?」
「……いいえ、与えてはおりません」
「子供になんか、勿体ないわ」
「シスター ピーア!」
院長が咎めればピーアは信じられない! といった表情で院長を見詰めた。
今までは彼女の意見がまかり通っていたのだろう。
もっと早く誰かに気がついてほしかったが、ここで全ての膿を出し切れば最悪は避けられるはずだ。
「……ノワール。シスター ヴェローニカを診てあげてくれる? できれば救急を使ってほしいわ」
「御主人様のお心のままに……」
そうそう。
優先するべきは彼女の方だろう。
「失礼いたします」
頭を下げたノワールがヴェローニカに救急を使う。
一通りの応急手当ができる、ノワールのスキルだ。
使用後休憩小屋で休憩させれば完治できるという、凄まじいもの。
応急手当というと怪我に対する印象が強いのだが、病気でも適応できるだろう。
さすノワだし。
案の定、何時でも私の期待に応えてくれる優秀な妖精は、ヴェローニカの病を一瞬で治癒したようだ。
大幅な回復を促したらしく、ヴェローニカの頬がほんのりと赤い。
痩せ衰えてはいるが健康的な肌の色だった。
「え? 体が、軽い?」
「貴女の体を侵食していた病を治癒しました。完治するには私が指定した場所で休んでいただきますが、すぐに休ませた方がよろしゅうございますか、主様」
「ええ、お願いするわ」
「了解いたしました。こちらにどうぞ」
ノワールが休憩小屋を召喚する。
小屋をまるっと召喚するスペースがないと判断したのか、何と扉だけが現れた。
「シスター ヴェローニカ!」
走り寄る子供たちをノワールは優しく手で制した。
「一人でゆっくりと休ませてあげてください。そうすれば元気なシスター ヴェローニカに会えますよ」
「本当に?」
「ええ、私の敬愛する御主人様に誓いましょう」
近寄ってきた、三人の子供たちの頭を一人一人丁寧に撫でる。
戻ろうとしたヴェローニカも、そんなノワールの態度に安心したのか、休憩小屋の扉を開けた。
「主様。私は少々彼女の面倒をみたいと思います」
「うん。よろしくね」
扉がぱたんと開く。
ほとんどの人が呆然と見詰めていた。
希少スキルだからねぇ。
治癒スキルも極上だしねぇ。
「さ、最愛様! 彼女は妖精のシルキーでしょうか?」
「ええ、そうよ。私の大切な家族の一人」
家族と言えば院長は言葉に詰まる。
治癒の力に目をつけて、教会でこき使おうと思ったんでしょう?
許すはずないじゃない。
大体ノワールは、仕える主を選ぶわよ?
貴男が選ばれる奇跡なんて死んでも起こらないわ!
私の心の声が聞こえたのかもしれない。
院長は再び床を見詰めた。
コメント
1件
このエピソード、めちゃくちゃスカッとしたわ!✨ 院長とエッダ、ピーアのブーメラン展開が気持ち良すぎる。雪華の「姿見で自分をよく見て」からのピーア逆ギレ→ドジっ子転倒、完璧なざまぁ構成だね。ヴェローニカに対してちゃんと救急使ってケアするところも、主人公側の優しさが際立ってて好印象。ただ、子供たちの証言が二転三転する場面は、真実がどっちかちょっと混乱したかも。次回が楽しみ!🔥